COROT(コロー衛星、仏: Convection, Rotation et Transits planétaires、英: Convection, Rotation and planetary Transits)は、フランス国立宇宙研究センター (CNES) が主導し、欧州宇宙機関 (ESA) やその他の国際協力機関との協力によって2006年に打ち上げた宇宙望遠鏡である。
COROT の主要な目的の2つは、短周期の太陽系外惑星、特に大型の地球型惑星を探査することと、太陽に似た恒星の振動を測定することで星震学を行うことである。
主要な功績として CoRoT-7b の発見が挙げられる。これは2009年に発見された系外惑星であり、岩石か金属が主成分と思われる系外惑星の初の発見例であった。
COROT は2006年12月27日14:28:00 (UTC) にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地よりソユーズ 2.1bロケットで打ち上げられ、2007年1月18日にファーストライトを行った。科学観測は2007年2月2日に開始された。COROT はトランジット法での系外惑星の検出を主目的とした初めての宇宙機であり、後のケプラーやTESS、将来計画の PLATOへの道を切り開いた存在である。観測開始のわずか3ヶ月後の2007年5月には初の系外惑星 CoRoT-1b を発見した。
当初の計画ではミッション期間は打ち上げから2年半とされていたが、2013年にまで延長された。その後2012年末に観測運用をさらに2016年まで延長することが決定したが、同年11月2日に放射線によるコンピュータの故障により、望遠鏡からデータを取得することが不可能になった。修復が試みられたが失敗し、CNES は2013年6月24日に COROT を引退させる意向であることを発表した。その後2014年6月17日に最後のコマンドが送信され、運用を終了した。また機体が大気中で燃え尽きるように軌道の高度は下げられた。
「対流と回転、及び、惑星の通過」を意味する名称のとおり、COROT は大きく分けて2つの目的をもった宇宙望遠鏡である。
COROT は恒星の輝度をモニターし、惑星が恒星の手前を通過することによる周期的なわずかな減光を探査する。全ての観測領域において、COROT は系外惑星探査を目的として可視等級が11から16等までの明るさの何千もの恒星の明るさを記録した。11等よりも明るい天体の場合は系外惑星用の CCD 検出器が飽和してしまうため、得られるデータは不正確なものになってしまう。一方で16等よりも暗い天体の場合は、惑星を検出するのに十分な量の光子を得ることが出来ない。COROT は、14等より明るい恒星を公転する地球の2倍以上の半径を持つ岩石惑星を検出できる感度がある。太陽系外惑星の発見手法として COROT の打ち上げ当時主流となっていたのは、惑星の公転に伴って中心星が揺れ動くことを検出するドップラー法であるが、惑星が小さく軽い場合にはこの方法で検出するのは困難である。よって、大気圏外からの精密な測光観測によって食を検出し、地球型惑星を検出することが COROT の目的のひとつである。また観測可能な全ての等級の範囲内において、新しい巨大ガス惑星を検出することができる。
COROT は星震学の研究にも用いられる。COROT は恒星の脈動に伴う光度の変化を検出することができる。この現象を測定することで、恒星の正確な質量、年齢、化学組成を計算することができ、太陽やその他の恒星との比較をする際に役立てることができる。これまでは太陽を対象とした日震学として進歩してきた分野であるが、同じ手法を太陽以外の一般の恒星にも応用し、恒星内部についてさらに普遍的な理解を得ることが目標である。星震学用の観測では、各視野に主要な観測対象星が1つと、最大で9個のその他の観測対象星があった。観測された対象の数は、データ処理ユニットが故障した後は半分になった。
COROT の光学設計は地球からの迷光を抑えるように設計され、また視野は 2.7° × 3.05° である。COROT の光路は、地球で反射された太陽光を防ぐための二段階の不透明なバッフルに収納された 27 cm 口径の軸外のアフォーカル光学望遠鏡と、屈折対物レンズとフォーカルボックスからなるカメラで構成されている。フォーカルボックスの中には、放射線から保護するための厚さ 10 mm のアルミニウムで遮蔽された4つの CCD 検出器が並べられている。星震学用の CCD は、最も明るい恒星が飽和するのを避けるために屈折対物レンズに向かって 760 µm 焦点がずらしてある(デフォーカス)。惑星検出用の CCD の前にはプリズムが設置されており、青色の波長でより強く分散するように設計された小さなスペクトルを取得することができる。
4つの CCD 検出器は E2V Technologies による model 4280 を使用している。これらの CCD は、2048 × 2048 ピクセルで、フレーム転送、薄型化、背面照射型の設計である。各ピクセルの大きさは 13.5 × 13.5 µm2 で、角サイズでは 2.32 秒角に相当する。CCD は -40℃ (233.2 K) に冷却される。これらの検出器は正方形状に配置され、そのうち2つが惑星検出用、もう2つが星震学用となっている。CCD からのデータ出力は2つのチェーンに接続されている。それぞれのチェーンは、1つの惑星検出用 CCD と1つの星震学用 CCD に繋がっている。惑星検出用の CCD の視野は 3.5° である。衛星の本体はカンヌ・マンドリュー宇宙センターで組み立てられ、打ち上げ時の重量は 630 kg、全長は 4.10 m、直径は 1.984 m であった。また2枚の太陽電池パネルによって電力が供給される。
COROT はその軌道平面に対して垂直な方向の観測を行う。そのため地球による掩蔽が発生せず、連続して150日間の観測が可能となる。この長期間の連続観測は "Long Runs" と呼ばれ、小さく長周期の惑星を検出することが可能となる。2つの長期間観測時期の間の30日間で、COROT は "Short Runs" と呼ばれる数週間にわたる空の異なる領域の観測を行う。これは星震学のために大量の恒星を解析することを目的としている。2009年3月にデータ処理ユニットの1つが故障して視野の半分を失った後は、観測する恒星の個数と検出効率を最大化するために、3ヶ月間の観測へと観測戦略を変更した。
太陽が視野に入るのを防ぐため、北半球が夏の期間は銀河中心に向かってへび座の尾部の周辺領域、冬の間は銀河中心の反対方向であるいっかくじゅう座の領域を観測した。COROT による観測の中心となるこれら2つの領域は、COROT の打ち上げに先立つ1998年から2005年に前もって観測され、これらの領域にある恒星に関するデータを収めた COROTSKY と呼ばれるデータベースが作成された。これにより観測のための最も良い領域が選択できるようになった。系外惑星の探査プログラムでは大量の主系列星をモニターする必要があり、また惑星のトランジットが浅すぎて検出ができなくなるような巨星の観測は避ける必要がある。星震学のためには等級が9より明るい恒星を選ぶ必要があり、またできるだけ多くの恒星の種類をカバーする必要がある。さらに観測を最適化するためには、恒星が少なすぎて観測個数が増やせない領域や、逆に恒星が多すぎて位置が被ってしまうような領域は避ける必要がある。それぞれの観測期間は以下の通りである。
ソユーズ 2.1bが機体を高度 827 km の極軌道に投入した2006年12月27日からミッションが開始した。COROT は2007年1月17日から18日にかけてファーストライト画像を撮影した。最初の科学観測は2007年2月3日に始まった。当初、COROTの観測期間は2.5年間であったが、2009年に観測を4年間延長し少なくとも2013年まで運用することが決定した。
2012年末に観測運用をさらに2016年まで再延長することが決定したが、同年11月2日に放射線によるコンピュータ障害が起き、観測データの送信が出来なくなった。2009年3月に片系統が故障して予備系統を使っていたため、観測運用再開は困難だった。その後、復旧が試みられたものの成功せず、CNES はミッションを終了する方針であることを2013年6月に明らかにした。COROT はその後も技術的な実験データの取得を続けていたが、2014年6月17日に最後のコマンドが送信され、運用を終了した。
2013年3月までのミッションの費用は170万ユーロであり、そのうち 75% はフランス国立宇宙研究センターが、残りの 25% はオーストリア、ベルギー、ドイツ、スペイン、ブラジルと欧州宇宙機関が負担した。
COROT の機体を製造する主な請負は CNES であり、それぞれの部品が機体を組み立てるために納入された。
データの収集と前処理用の電子機器を収納するための部分は、パリ天文台の LESIA Laboratory (Laboratoire d'études spatiales et d'instrumentation en astrophysique) によって制作され、完了までには60人年を要した。
設計と組み立ては、パリ天文台の LESIA、マルセイユの Laboratoire d'Astrophysique de Marseille、オルセーの Institut d'Astrophysique Spatiale (IAS)、ベルギー・リエージュの Centre spatial de Liège (CSL)、オーストリアの IWF、ドイツ・ベルリンの DLR、および ESA の研究科学サポート部によって行われた。30 cm アフォーカル望遠鏡 Corotel は、カンヌ・マンドリュー宇宙センター内のタレス・アレーニア・スペースによって完成させられた。
ミッションが開始する前に COROT のチームは、COROT は地球の数倍以上の大きさを持つ惑星しか検出できないこと、またハビタブル惑星を検出するための特別な設計はされていないという点を注記していた。最初の成果を公表するプレスリリースによると、COROT の装置は予測されていたよりも高精度で運用されており、小さい恒星を短周期で公転する地球程度の大きさの惑星が検出できる可能性があるとされた。
トランジット法では少なくとも2回の惑星のトランジットを検出する必要があるため、検出される惑星は軌道周期が75日よりも短いものが大部分となる。トランジットが1回しか検出されていない惑星候補も発見されたが、このような惑星候補の実際の軌道周期に関しては不確実性が残っている。
太陽系から見て系外惑星が恒星をトランジットする位置関係になっている割合は低いため、COROT が観測した領域の中にある系外惑星のうちごく一部のみが検出されることになる。惑星が恒星をトランジットしている様子を観測できる可能性は、惑星の公転軌道の大きさに反比例するため、恒星から離れた軌道で公転する惑星よりも、近距離を公転する惑星のほうが検出されやすくなる。またトランジット法では大きな惑星を検出しやすいというバイアスがかかる。これは、地球型惑星による浅いトランジットよりも、巨大惑星の深いトランジットの方が検出しやすいためである。
2009年3月8日に、COROT はデータ処理ユニット No.1 からの通信途絶に見舞われた。これにより、衛星の2つの光検出器チェーンの片方からの処理データが失われた。
データ処理ユニット No.1 はオフライン、No.2 は正常に動作している状態で、科学観測は4月上旬に再開された。光検出器チェーンの片方が失われたことで、星震学用と惑星検出用の CCD がそれぞれ1つずつ失われることとなった。これにより衛星の視野は 50% となったが、観測の精度には影響はなかった。データ処理ユニット No.1 の喪失は恒久的なものと思われ、最終的に復旧はしなかった。
トランジット惑星の発見率は、トランジットが惑星によるものであることを検証するために必要な、地上からの追跡観測(フォローアップ観測)の必要性によって決まる。
トランジット候補は COROT の全ての観測対象のおよそ 2.3% で検出されるものの、周期的なトランジットを検出するだけでは惑星の発見を主張するには不十分である。これは食連星や、観測対象星に非常に近く光が光度曲線に混じっている暗い恒星が起こす食などによってもトランジット状の現象が発生し、トランジット惑星と誤認させる可能性があるためである。
誤検出を取り除くための最初のスクリーニングは光度曲線において実行され、暗い恒星の二次食の兆候や、恒星の食であることを示唆するV字状の光度曲線が調査される。観測対象の恒星が明るい場合は、系外惑星検出用の CCD の前に設置されたプリズムによる3つの異なる色での測光データが得られ、連星の食の場合に典型的に見られる3つの色での異なるトランジット深さを示すものは惑星候補から除外される。これらの検証によって検出された候補のうち 83% を除外することができる。残りの 17% は、世界中の望遠鏡の観測網による測光と視線速度測定のフォローアップ観測によってスクリーニングされる。
観測対象星の近くにある食連星が光度曲線に混入している可能性を排除するための測光観測はいくつかの 1 m 級の望遠鏡で行われるが、カール・シュヴァルツシルト天文台の 2 m 望遠鏡や、ハワイの 3.6 m カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡も用いられる。視線速度のフォローアップ観測では、連星系や多重星系である可能性を排除し、また十分な観測が行われた場合、発見された系外惑星の質量を測定することができる。視線速度観測には、オート=プロヴァンス天文台の SOPHIE、ラ・シヤ天文台の HARPS、W・M・ケック天文台の HIRES といった高精度の分光器が用いられる。惑星によるトランジットであることが確立された場合、恒星のパラメータを正確に決定するために高分散分光観測が行われ、そこからさらに系外惑星の特徴を導出することができる。このような観測は、VLT の UVES や HIRES といった大口径の望遠鏡を用いて行われる。
興味深いトランジット惑星はスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて赤外線でのさらなるフォローアップ観測が行われる場合がある。この観測では、異なる波長での独立した惑星の存在確認を行い、また惑星からの反射光を検出したり大気組成を検出したりできる可能性がある。例として、CoRoT-7b と CoRoT-9b はスピッツァー宇宙望遠鏡による観測が行われている。
COROT での各観測期間における惑星候補のフォローアップ観測の結果をまとめた論文が既に複数出版されている。例えば、IRa01、LRc01、LRa01、SRc01 での結果が出版済みである。
なお、観測対象星の特性によっては、惑星候補の性質やその質量を明確に決定することが出来ないこともある。例えば恒星が暗い場合、自転速度が速かったり恒星の活動が強い場合などである。
恒星は、楽器が様々な音を出すのと同じように様々な異なる脈動モードで振動する。ギターの音を聞いた際にそれが楽器由来であることは疑いようもなく、さらに経験豊富な音楽家はその弦の材質や張力を推測することもできる。同様に、恒星の脈動モードは恒星の全球的な性質と内部の物理的条件の特徴を表している。したがってこれらの脈動モードを解析することで、恒星の化学組成、自転の分布、温度や密度といった内部の物理的性質を推測することができる。星震学は恒星の振動モードを研究する科学的手法である。これらのモードは、次数 l と方位角次数 m の球面調和関数によって数学的に表すことができる。いくつかの例が図に示されており、青色が収縮する物質、赤色が膨張する物質を表している。なお、脈動の振幅は大きく誇張して描かれている。
この手法を太陽に応用したものは日震学と呼ばれ、数十年に渡って研究が続けられている。太陽表面でのヘリウムの存在度は日震学によって初めて非常に正確に導出され、太陽の構造における微視的な拡散の重要性を明確に示すこととなった。日震学の解析では、太陽内部の自転の分布や対流層の正確な広がり、ヘリウム電離領域の場所なども明らかになっている。
技術的な課題は大きいものの、同じ解析を恒星に適用するのは魅力的な事であった。地上からの観測では、このような解析を行えるのはケンタウルス座α星やプロキオン、おとめ座β星といった太陽に近い恒星に限られていた。目標は最小で 1 ppm の極めて小さな光度変化を検出し、これらの輝度の変動に対応する周波数を抽出することである。これを精査することで恒星の典型的な周波数スペクトルを生成する。恒星の型や進化状態に応じて振動の周期は数分から数時間の間で変化する。このような現象を観測するためには、昼夜の変化に影響されない長い観測時間が必要となる。そのため宇宙空間からの観測は星震学を行う上で理想的な環境である。恒星の微小な変動性を明らかにし、ppm の水準で振動を測定することで、COROT はこれまでのどの地上観測では達成できなかった新しい恒星の描像を提供した。
ミッション開始時点では、4つの CCD のうち2つが明るい恒星 (見かけの等級が6から9) の星震学用の観測に充てられていた。星震学用の観測領域は sismo field と呼ばれており、残り2つの CCD を用いて系外惑星の探査を行うための観測領域は exo field と呼ばれていた。SN比が低いにもかかわらず、系外惑星探査用のデータからも恒星に関する興味深い情報が得られており、観測した全ての領域で数千の恒星の光度曲線が記録された。
主目的の星震学データの他に、恒星活動や自転周期、黒点の進化、恒星と惑星の相互作用、多重星系などのさらなる発見も行われた。
また、exo field でも星震学に関する豊富な発見が得られた。ミッションの最初の6年間で、COROT は sismo field で150個の明るい恒星を観測し、さらに exo field で150,000個を超える暗い恒星を観測した。図は、COROT で観測した恒星の多くを地上観測での結果と合わせてヘルツシュプルング・ラッセル図上に表したものである。
COROT の星震学観測での発見は、以下のように多岐にわたる。
2009年10月には学術雑誌のアストロノミー・アンド・アストロフィジックスで、COROT ミッションによる初期科学成果に関する特集号が組まれた。以下は、COROT によって得られた観測データに基づく恒星物理学への画期的な貢献の例である。
化学物質の混合が短時間で効率的に起きる対流核の上では、恒星進化の主系列段階の間にいくつかの層が部分的な混合や全体的な混合によって影響を受けることがある。しかし、この広がった混合領域やその混合効率を評価することは難しい。このさらなる物質の混合は、核燃焼段階の時間スケールを長くし、特に白色矮星として一生を終える星と最終的に超新星を起こす星の境界にあたる恒星の質量に影響を及ぼしうるため、非常に重要な結果をもたらす。また銀河の化学進化への影響も大きい。この対流核より上での混合を引き起こす物理的な理由は様々であり、内部の自転に誘起される混合や、対流セルが対流層と放射層の境界を超えて放射層に侵入することによる混合 (オーバーシュート)、あるいはその他のあまり知られていない過程で発生しうる。
核での水素を核融合で使い果たした後、恒星の全体の構造は劇的に変化する。水素の核融合はヘリウムの核を取り囲む薄い殻状の領域で発生するようになる (水素殻燃焼)。ヘリウムコアは急速に収縮して温度が上昇する一方で、水素燃焼殻よりも外側は膨張し温度は低下する。こうして恒星は半径と光度が時間とともに増加する赤色巨星になる。これらの恒星はヘルツシュプルング・ラッセル図 (HR 図) 上では赤色巨星分枝 (red giant branch, RGB) と呼ばれる場所に位置し、一般に RGB 星と呼ばれる。中心部の温度が 108 K を超えると、核のヘリウムが核融合を開始する。太陽の2倍よりも軽い質量を持つ恒星の場合、この燃焼は縮退した物質の中で発生し、ヘリウムフラッシュという形で進行する。ヘリウムフラッシュ後の構造の再構成によって、赤色巨星は HR 図上でレッドクランプと呼ばれる位置に移動する。
RGB もレッドクランプも、太陽のような振動を励起することができる広がった対流エンベロープを持つ。COROT の主要な成果は、exo field において数千もの赤色巨星の動径方向の振動と長寿命の非動径振動を発見したことである。それぞれについて、周波数スペクトルにおける最大のエネルギーを持つ周波数 と連続モードの間の大きな周波数の間隔 が測定された。
大質量の主系列星は、その周波数スペクトルはΚ機構によって励起される音響モードが優勢である。これは鉄族元素が部分的に電離して不透明度が極大になる層で働くメカニズムである。さらに、これらの恒星の最も進化したものは混合した振動モード、すなわち深い層でのgモード振動と外層でのpモード振動を示す。水素燃焼は、ヘリウムまたは鉄族元素の部分電離と関連した小さな対流層を除くと、様々な化学組成の領域と放射が支配的な外層に囲まれた対流核で発生する。
質量が小さい恒星での場合と同様に、対流核の直上にある完全に混合された領域、あるいは部分的に混合された領域の広がりは、理論モデルの構築に影響を与える主要な不確実性のひとつである。
その他の COROT による予想外の発見としては、大質量星における太陽に似た振動の発見がある。200000 K 程度での鉄族元素の電離に伴う不透明度の極大と関連した小さい対流殻が、太陽で観測されているのと似た音響モードの確率的な励起の原因となっていると考えられている。
2008年3月に行われた23日間にわたる観測で、COROT は若い散開星団 NGC 2264 にある 636 個の天体を観測した。クリスマスツリー星団と呼ばれるこの星団はいっかくじゅう座の領域にあり、およそ 1,800 光年と比較的近距離にある。この星団の年齢は300万〜800万年と推定されている。若い星団であるため、星形成や初期の恒星進化に関連した様々な科学的疑問点を調査するには理想的な観測対象である。COROT の観測データにより、この星団での新しく形成された恒星とその周囲の物質の相互作用、星団の一員の自転や活動とその分布、星震学を用いた若い恒星の内部構造、惑星や恒星の食に関する研究が可能となった。
若い恒星はそれらを形成する元となった濃い分子雲の奥深くに位置しているため、恒星の誕生やその後の若い段階は可視光線ではほとんど観測することができない。赤外線やX線の観測では分子雲の奥を見通すことができるため、恒星進化における最初期の段階の情報を得ることができる。そのため、2011年12月と2012年1月の COROT の観測は、4つの宇宙望遠鏡といくつかの地上望遠鏡が参加した大きな国際観測キャンペーンの一環として行われた。全ての機器を用い、若い星団 NGC 2264 にあるおよそ 4,000 個の恒星が異なる波長でおよそ1ヶ月にわたって同時に観測された。カナダの人工衛星 MOST は星団内の最も明るい恒星を可視光で観測し、COROT はより暗い恒星を観測した。MOST と COROT はこの星団を 39 日間にわたって継続的に観測した。NASA のスピッツァー宇宙望遠鏡とチャンドラは、同じ恒星を赤外線とX線で、それぞれ30日と300キロ秒ずつ測定した。地上望遠鏡での観測も同時に行われ、チリにあるヨーロッパ南天天文台のVLT、ハワイのカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡、テキサス州のマクドナルド天文台、スペインのカラーアルト天文台などで観測が行われた。
COROT の観測では、脈動する多数の前主系列星のたて座デルタ型変光星の発見や、前主系列星におけるかじき座ガンマ型変光星の存在の確認が行われた。また両方の変光タイプが混合した脈動を起こしている天体も発見された。また、この恒星の集団の中では最初に発見され、よく知られた前主系列段階の脈動星である、いっかくじゅう座V588星やいっかくじゅう座V589星も観測された。COROT で得られた高精度の光度曲線の情報からは、前主系列星における粒状斑の重要な役割も明らかになった。
COROT のデータを元にしたおうし座T型星とそれらの周囲に有る物質との相互作用の研究からは、新しい天体の分類であるおうし座AA型星の存在が明らかになった。COROT による観測以前は、おうし座T型星は恒星表面の黒点によって引き起こされる正弦波状の光度変化と、若い恒星を取り囲むガスと塵の円盤によって引き起こされる完全に不規則な変動を示すことが知られていた。おうし座AA型星の天体は振幅と幅が異なる周期的な減光を起こすため、半規則型変光星にあたる。COROT の観測によって、この新しい型の変光星の存在が確立した。また、可視光での変光と赤外線やX線での変光との比較からも、恒星進化の最初期における様々な知見が得られている。
COROT は、非動径振動を起こす恒星を持った連星系も多数観測している。これらのうち、かじき座ガンマ型変光星を持つ食連星も一連の観測で発見されている。食連星の観測は、全体的なパラメータを直ちに導出することができ、それによって恒星の振動への制約に加えて非常に重要な情報を得ることができるため、恒星の理論的なモデル化において重要な役割を果たす。
COROT は太陽系外惑星を発見するためにトランジット法を使用する。惑星などの天体が恒星と観測者の間を通過し、恒星からの光の一部が遮られる現象が通過(トランジット)である。
この現象は、光の流束の非常に小さい変化を検出できる感度を持つ CCD によって検出可能となる。COROT は10,000万分の1の明るさの変化を検出する能力を持っている。そのため科学者たちは、地球の2倍程度の大きさを持つ、スーパー・アースと呼ばれる種類の惑星を発見できるだろうと見込んでいた。後に地球の1.7倍の大きさを持つ CoRoT-7b が検出され、この予測が正しかったことが証明された。
COROT は32秒ごとに32秒間の露光を行うが、データ量が大きすぎるため地球には全ての画像は送信されない。衛星に搭載されたコンピューターによってデータ処理が行われる。COROT の系外惑星チームによって事前に選定された視野中の対象星は特定のマスクによって記述された特定数のピクセルによって定義され、そのマスク内の全てのピクセルのデータが合計され、さらに複数回の露光で得られたデータも合計される(通常は16回分で、合計の積分時間はおよそ8分<512秒>になる)。その後、処理されたデータが地上へと送信される。ただし特に興味深い対象だと考えられる恒星については、各露光で得られたデータは32秒ごとに送信される。このような、32秒もしくは512秒のデータサンプリングは、1時間弱から数時間程度継続する惑星のトランジットを検出するのに非常に適している。
この手法の特徴は、観測対象に本格的な系外惑星候補が存在するとみなすまでに、2つの等しい時間間隔を持った3回の連続するトランジットの検出が必要とされるという点である。ある軌道周期 を持つ惑星は、3回のトランジットが検出されるためには少なくとも 〜 の時間間隔で観測される必要がある。惑星の軌道長半径 と恒星の質量 は、軌道長半径の単位を天文単位、恒星の質量の単位を太陽質量、軌道周期の単位を年とした場合、 で表される。このことから、例えば観測期間が1年未満の場合、検出可能な惑星の軌道は地球の軌道よりも著しく小さいものになることが示唆される。そのため COROT による観測では、各観測領域における最大の観測継続時間が6ヶ月であることから、検出可能な系外惑星の軌道長半径は 0.3 au よりも小さい(太陽と水星の距離よりも短い)ものになる。そのため、いわゆるハビタブル惑星は検出できない。NASA が打ち上げたケプラーは同じ領域を何年にも渡って観測するため、恒星から離れた距離にある地球サイズの惑星を検出する能力がある。
COROT によって発見された系外惑星の数はあまり多くはないが(6年間の運用中に32個を発見)、これは惑星の存在を確定させるためには必ず地上望遠鏡による確認が必要であることが要因である。実際に、大部分のケースでは、数回のトランジットの検出だけでは惑星の検出とはみなされず、一方がもう片方をかすめるように掩蔽する食連星によるトランジット状のシグナルである場合や、COROT の対象星に非常に近い位置に連星があるためトランジットの効果が薄められている場合である可能性がある。どちらの場合も、惑星が恒星の手前を通過することによる減光と同じくらいの小さな減光を引き起こす。これらの可能性を排除するため、地上望遠鏡を用いた分光観測による視線速度の測定と、CCD カメラでの撮像観測を行う。前者では連星系の質量を直ちに検出することができ、後者では観測対象星の近くにトランジット状のシグナルを発生させうる連星を同定することができる。明るさの相対的な低下は、COROT による測定する範囲を定義した特定のマスク内の全ての光を合計したものよりも大きくなる。その結果として COROT の系外惑星科学チームは、確認され完全に特徴付けられた惑星のみを公表し、単なる系外惑星候補のリストは公開されていない。この戦略は、系外惑星候補のリストが定期的に更新され一般公開されているケプラーミッションのものとは異なる。
COROT による系外惑星の初めての発見報告は2007年に行われた。この時に発見されたのは、ホット・ジュピター CoRoT-1b と CoRoT-2b である。星震学の研究結果も同じ年に公表された。
2008年5月には、ESA によって木星サイズの新しい系外惑星 CoRoT-4b と CoRoT-5b の発見が報告され、また未知の重い天体 CoRoT-3b の発見も合わせて報告された。
2009年2月、初めての COROT のシンポジウムの最中に、スーパー・アース CoRoT-7b の発見が公表された。この惑星の半径は1.58地球半径であり、大きさが測定された系外惑星としては当時最小のものであった。また、同じ惑星系におけるトランジットしていない惑星 CoRoT-7c と、新しいホットジュピター CoRoT-6b の発見もシンポジウムで公表された。
2010年3月には CoRoT-9b の発見が公表された。この惑星は軌道周期が 95.3 日と長く、軌道は水星のものと類似している。
2010年6月、COROT のチームは6つの新しい惑星 CoRoT-8b、CoRoT-10b、CoRoT-11b、CoRoT-12b、CoRoT-13b、CoRoT-14b と、褐色矮星 CoRoT-15b の発見を公表した。これらの惑星は CoRoT-8b を除いて木星サイズであり、CoRoT-8b は土星と海王星の中間程度のサイズである。またトランジットを起こしていない惑星 HD 46375 b の、可視光での反射光が暫定的に検出された。
2011年6月、2回目の COROT シンポジウムの最中に、10個の新しい系外惑星の発見が報告された。発見されたのは、CoRoT-16b、CoRoT-17b、CoRoT-18b、CoRoT-19b、CoRoT-20b、CoRoT-21b、CoRoT-22b、CoRoT-23b、CoRoT-24b、CoRoT-24c である。
2011年11月時点では、未確認の系外惑星候補は600個が報告されていた。2019年1月時点では、系外惑星の発見個数は31個(褐色矮星を含めると37個)、依然として未確認の惑星候補は557個となっている。
COROT による系外惑星探査では、多くの重要な成果が得られている。
COROT のミッションでは、以下の太陽系外惑星の発見が報告されている。
薄緑色の列は、連星の片方を惑星が公転している系を表している。
以下の表は、COROT が検出した褐色矮星と、フォローアップ観測で発見されたトランジットしない惑星の一覧である。
COROT によって発見された惑星は、全て長い観測期間(少なくとも70日)において検出されている。COROT の検出チームは各観測機関に置いて平均で 200〜300 の周期的な減光イベントを発見しており、これはその観測機関において監視していた恒星の 2-3% にあたる。これらのうち、惑星候補として選択されたのは530個のみである(223個が銀河系中心とは反対方向、307個が銀河系中心方向)。それらのうち、さらに系外惑星と確認されたものはおよそ30個程度であり、惑星候補のうちの 6% 程度である。その他の候補は、46% が食連星、48% が分解できておらず真の性質が不明瞭なものである。
COROT の検出能力は図Dに図示してある。これは検出された全ての惑星候補について、周期とトランジット深さを示したものである。5日未満の短周期の惑星が明るい恒星を公転している場合は、小さい惑星(1.5地球半径程度)を十分に検出することができる能力がある。
COROT で発見された惑星は、異なる種類の系外惑星系に見られる幅広い特性と特徴をカバーしている。例えば、COROT で発見された系外惑星の質量の範囲は、図にも示されているようにほぼ4桁にもわたる。
発見された惑星の質量と、その惑星を持つ恒星の質量に着目すると、COROT によって発見された惑星系では一定の傾向が見られる。
また、大きな質量を持つ惑星は、大きな質量を持つ恒星の周りを公転している傾向がある。これは、惑星形成に関して一般的に受け入れられている理論モデルと一致する結果である。
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