レーション(英: field ration)とは、広義には食料などの配給品を指すが、狭義には軍隊において行動中に各兵員に対して配給されるコンバット・レーション(英: combat ration)を指すことが多い。本項ではこれについて記述する。
日本語では野戦食や戦闘食、戦闘糧食、野戦糧食、戦用糧食、携帯口糧などと呼ばれる。また、正式な用語ではないが、払い下げなどで一般に出回ったコンバットレーションを近年ではミリメシ(英語: military+飯の合成)と通称することもある。
これらの食料の多くは、劣悪な環境における輸送にも堪え得る保存性と、摂取カロリー量の確保を至上目的としたものである。古くから軍隊では、軍事行動中の食料兵站の量的な問題に頭を悩ませており、また、劣悪な環境により伝染病が発生しやすいこともあり、最も基本的な食料を衛生的かつ大量に輸送するため、保存性に優れ、また、余計な手間の要らないものが求められてきた。その一方で、平時よりもはるかにストレスの溜まりやすい戦場では、食事は栄養補給のみならず、重要な娯楽でもあり、兵士の士気にも関わるため、味の改良も進められている。
今日の「コンバット・レーション」と呼ばれる食品は、皿も食卓もない屋外でも食べやすいよう配慮がなされている。缶詰やレトルト食品、ビニール袋に密封包装されたクラッカーやパンなど主食におかずとなる副食が、一食分として一つのパッケージに収められたものが主流。スプーンなどの簡単なカトラリーが付くものもある。兵員の興味を惹き、ストレスを和らげ、兵士の士気向上や気力の維持に効果のあるとされるチョコレートやガム、飴などの菓子類が付属することもある。食品を温めるためのヒーターと呼ばれる固形燃料・コンロや生石灰と水の反応熱を利用したものが付属されており、温かい食事を摂れるように配慮されたものもある。
なお、これらは今日の軍隊が災害救援に動員されることも多いため、軍組織が一般人保護活動の一環として、被災した民間の人々にも配布することがある。日本赤十字社では、お見舞い品セットという段ボール箱入りの保存食(内容は缶詰、缶入りドロップなど)を緊急時に被災者へ配布することもあるが、この内容も(市販のカラフルなパッケージのものであることを除けば)レーションの発想に近い。なお、日本赤十字社のお見舞い品セットは1998年(平成10年)まで、気付け薬としてのウイスキーのポケット瓶が同梱されていたが、特定非営利活動法人「アルコール薬物全国市民協会」(→アルコールハラスメント参照)の抗議により外された。これは後述するように、一律に配布される性質のため、それを受け取る側の一部に、その内容物が適さない者も含まれることへの配慮を必要とする部分も絡む。
かつては気付けや気晴らしとして少量の酒が配布されていたが、現代では作戦の妨げになるとして廃止したか、ノンアルコール飲料(清涼飲料水)で代用されている。
海軍においては、樽に入れた水は藻が生えて飲めなくなるため、第二次世界大戦ごろまでは長期保存できる酒を配給していた。初期にはラム酒が多かったことからラム・レーションとも呼ばれる。イギリス海軍ではグロッグ、アメリカ海軍ではライ・ウイスキーの水割り、大日本帝国海軍ではウィスキーもしくは日本酒が支給されていた。
個々の兵士に配分されるものと、部隊(小隊や分隊単位)に配分されるものに大きく分けることができる。前者には一回分の食事セットとなっているものや、一日分がセットになっているものがあり、いくつかメニューのバリエーションがあり、食事に飽きさせない工夫がなされている。部隊単位で配分されるものには食材として提供されるものが主で、調理して食べることができるため、現地で入手可能な食材を利用して工夫を凝らした料理に仕上げることも可能である。
また、一部にはタバコや酒類などの嗜好品が同梱されているものや、ベジタリアンであることや宗教的な食のタブーに配慮して、特定の食材を含まないレーションも存在している。古くは「配給品」であることから、蝋燭や石鹸、歯磨剤などの消耗品を含むものも多かったが、現在ではこれらは食料とは別に配給されるため、今日のレーション中には含まれないことが多い。
個人向けレーションには、現地の飲用に適さない水を濾過・沸騰させて飲む場合も多いことから、湯や湯冷ましに入れて飲用するティーバッグや粉末ジュース、インスタントコーヒー、ココアや粉末スープ類が付属し、食事に彩りを添えたり、食後の娯楽に供するための配慮がなされている。
しかし、食事という個人の好みによる部分が非常に大きく、また、国家によっても、食文化や食のタブーに対する考えが全く異なってくるため、一概に「レーションとはこういうものである」と言い切ることはできない。
長時間の任務を行う哨戒機や輸送機などは、基地で調理した弁当を冷凍して積み、食事の時間に解凍して食べる。メニューは基地の食堂と同じであることが多い。戦闘機などの機内が狭い機種では食事は想定されておらず、非常食を積むだけである。艦船や航空母艦ではスペースに余裕があるため、食材を積み厨房で調理して提供する。
駐屯地や基地での通常の食事は、特にギャリソン・レーション(garrison=守備隊・駐屯地)や兵食(へいしょく)と呼ぶ(給食参照)。
古くから、軍事行動における食料の問題はさまざまな面で戦争という活動に対して束縛するものであり、特に遠征などにおいての兵站での食料補給は困難を極めてきた。
中世時代には、レーションは食料の形で供給されたのではなく、1日分の食費を金銭で支給するものだった。兵士は、この金銭を酒保商人に支払って食料を購入していた。
この問題に際して、「軍隊は胃袋で動く」と言葉を残し、早くから軍隊における食糧の供給問題に目を付けていたナポレオン・ボナパルトは、常温で長期間保存ができる食品を求めて、懸賞金をかけて保存食の開発を民間に広く要請した。
これに応えて、1804年にフランスのニコラ・アペールが加熱殺菌済みの瓶詰を開発したが、ガラス瓶は割れ易く、輸送面で難があった。1810年には、当時フランスと戦争状態にあったイギリスのピーター・デュランドが、現在の缶詰の原型となる金属製密閉容器に食料を封入する方法を考案した。
当初は、寸胴に金属製の蓋をはんだ付けしたような容器であったが、缶切りはまだ発明されておらず、鑿(のみ)と金鎚を使って開けていたが、場合によっては斧で切ったり小銃で缶を撃って穴を開けるなどして、食していたという。
その後、缶詰は改良され、缶切りも登場したことによって簡単に開けられるようになり、長らく兵員の食料として提供されていたが、どうしても「食べた後の空き缶が発見されやすい」「メニューが単調で食事に飽き、士気の低下にもつながる」として容器やメニューの改良が続けられた。
今日見られるコンバットレーションのように、1つのパッケージで1食分とするような形態の総合的なレーションが開発されたのは第二次世界大戦前のアメリカ合衆国で、1936年から1941年にかけてCレーションとDレーションと呼ばれる2種類のレーションが開発されている。これらは1920年代に前後して試作された保存用のレーションを原型としており、この原型となったリザーブレーションは、2つの缶に複数の缶詰・干し肉やコーヒー、角砂糖などが封入されたものだったが、保存性よりもむしろ運搬の簡便性を重視したものだった。
これらのレーションは、今日見られるレーションにより近く、長期間の劣悪な輸送環境に堪え得るように配慮されたものであった。それぞれの食品を缶詰にした上で箱詰めされたり密閉された缶容器に封入されたCレーションと、ブロック状に圧縮・固形化された食品をビニールなどの包装フィルムで密封したDレーション(現在市販されているスナックバーなどに近いもの)は、第二次大戦から朝鮮戦争を経て、ベトナム戦争の時代に到るまで改良されながら生産され続け、年間数百万食という単位で生産・消費された。また、これらの時代を経て、CやD以外の各種レーションが多数開発・利用されている。
2000年代以降は、より携帯性に優れ、消費後はゴミが少なく、移動後に痕跡を発見されにくいレトルト食品化や、軽量にすることを目的としたり耐寒性を重視したフリーズドライ化が標準となった。メニューも多様化することで娯楽性を向上させたものが登場している。食品加工技術の向上もあり、保存期間の延長も進んでいる。
世界的にも同種レーションの開発は進んでいる。
メニューの豊富なカナダや、味に特化したフランス(市販品や民族料理を多用しており、非常に多彩な内容である)、ティータイムに大きな優位を持たせているイギリス、米飯と副食・漬物を組み合わせた日本、温かい食事ができるよう工夫された中国・ロシア、エネルギー補給に重点をおいたノルウェー(熱量は最大で7,500kcalに達する)などの北欧諸国、過酷な保管環境でも内容物に影響が出ないよう厳重に真空パックされ、ワインやデザートも用意されたイタリア、密閉容器を破壊しかねない発酵ガスを防ぐように処理された白菜キムチをメニューに加えた朝鮮料理と、各地域の食文化を反映したものが開発されており、食文化だけでなく気候や軍の抱える事情も、そのままパックされていると言ってもよい。
以下は歴代の物で、制式を解かれた。
現在、宇宙食と並んで最も保存性の高い食料品が、これらレーションやそれから派生した災害備蓄食料である。災害備蓄食料は、レーション開発において発展した技術を取り入れることで、被災者の心理的なダメージを軽減させるべく、温かくて味も良い保存食への改良が進められている。また、保存性においても、全く空調管理されていない環境でも5年や10年の単位で保存・備蓄が可能なものが開発されている。軍用レーションと全く同等であることを謳うものもある。
アウトドア愛好者や軍事関連に興味を持つミリタリーマニアなどが、軍の払い下げ用品として市場に流通した軍用レーションを売買する市場も形成されており、各国の軍用レーションがインターネットオークション上や、専門店での販売が見受けられる。なお、自衛隊のもののように公式に払い下げられていないものには、横領などの犯罪行為による入手の可能性が非常に高く(特に複数個以上の大量販売など)、購入を行うと共犯行為に該当する場合もあるため、購入には細心の注意、または入手元の確認が必須とされる。たとえ米軍その他各国軍のもののように正規に入手できるものでも、払い下げである以上それは保存期間を経過してもなお消費されることなく流れてきたものであり、また、一般企業の商品のように何らかの安全保証があるというものでもないため、万が一破損していたりした場合食中毒を起こす可能性もある。ミリタリーショップやインターネットオークションで販売している場合でも、多くの場合は「観賞用として」と言う建前で売っており、どうしても食べる場合には自己責任の上で、と謳っているケースが大半である。ただし、メーカーが自衛隊向けに市販品を流用した特別仕様の商品や、自衛隊向け商品と同一仕様で作られた一般向け製品もあり、ベビースターラーメン自衛隊仕様「隊員さんのスタミナラーメン」、萬有栄養の「イーアール」などのように、一部地域での販売や通販・インターネットオークションなどを介して、一般で同等品の購入も可能なものもみられる。
第二次世界大戦やそれ以降、主にアメリカ軍兵士の食料として、スパムは多く利用されるようになった。このため沖縄など米国外の米軍駐留基地のある地域では、同製品を含むランチョンミートを消費する食文化が発展している。なお「しつこい/飽き飽きする」という隠語での「スパム」はモンティ・パイソンに由来するとの説が有力である。
軍隊における食事は一般市民の1.5倍程度の栄養価で提供され、ことレーションではカロリー面を補うためチョコレートが多用される。殊にハーシーズ・トロピカル・バー(Harshey's Tropical Bar)は、第二次世界大戦当時に熱帯で持ち歩いても溶けたり腐ったりする事の無いように開発された耐熱性のあるチョコレートであるが、特に携帯非常食としてのものでは「茹でたジャガイモよりややましな程度」という味の条件が課せられた。これは、「美味であると非常時に必要になる前につい食べてしまい、本当に必要な時には食べてしまった後である」という事態を防ぐ為であった。湾岸戦争の折には更に耐熱性を高めたデザート・バー(意訳すると「砂漠仕様チョコバー」)も試作された。
日本でも航空自衛隊が井村屋と共同で、チョコレート味ながらも耐熱性をクリアするため羊羹をベースとしたJASDF羊羹を開発している。
兵士に支給されるアーミーナイフには、レーションを開封するのに役立つ缶切り・栓抜きが必ず付いている。近年ではプルトップ缶やレトルトパウチが大半を占めるが、軍用缶詰では空中投下に耐えられるよう、敢えてパウチやプルトップとせず缶切りを要するものもあり、依然として標準装備として支給されている。ガリルアサルトライフルのように、兵隊が支給された食料を食べるために缶を小銃で撃って開けたり、銃剣で開けたりといった事態を防ぐために、栓抜きを付け足したケースもあり、こういったアーミーナイフの支給も銃剣を壊させないための予防策といえる。
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