『織田信奈の野望』(おだのぶなのやぼう)は、春日みかげによる日本のライトノベル作品。戦国時代へタイムスリップした男子高校生と美少女の武将・織田信奈を中心とした戦国ラブコメディである。イラスト担当はみやま零。GA文庫(ソフトバンククリエイティブ)より2009年8月から刊行。11巻からは富士見ファンタジア文庫(KADOKAWA)より『織田信奈の野望 全国版』(おだのぶなのやぼう ぜんこくばん)と改題 して2019年6月まで刊行された。
戦国武将が美少女になった世界へタイムスリップした高校生の物語。主君でもあり、恋人でもある織田信奈とともに戦国日本を統一し、世界に向けた航海に乗り出すまでの恋と冒険の日々を、全22巻の文庫本に収める。2009年8月に第1巻を〈GA文庫〉から刊行。2-10巻を2013年3月までに刊行した。本編9巻までが出ていた2012年9月までに、累計100万部を突破。外伝『邪気眼竜政宗』を2012年12月に刊行している。2014年4月から〈富士見ファンタジア文庫〉に移籍。『織田信奈の野望 全国版』と改題 した11巻以降を刊行した。2019年6月に、最終巻となる22巻を刊行して完結。
2015年9月に、富士見ファンタジア文庫から新装版が出ている(『織田信奈の野望 全国版』1-10巻およびその外伝『邪気眼竜政宗』)。これは、GA文庫から刊行されていた1巻から10巻について、改訂のうえ付録の短編等を追加収録したものである。イラストはオリジナルのGA文庫版とおなじだが、文章は大幅に改稿され、全体的に分量が増加した。新エピソードの追加や場面設定の変更 のほか、文章の随所に手が入っている。
スピンオフ作品としては、伊達政宗を主人公にした上記の外伝第1弾『邪気眼竜政宗』(2012年) のあと、武田信玄と上杉謙信を主人公に川中島の戦いを描く外伝第2弾『天と地と姫と』が出ている(イラストは深井涼介)。『天と地と姫と』は、2014年6月から富士見書房の無料小説サイト「ファンタジアBeyond」にて連載。2016年9月から翌年10月にかけて、富士見ファンタジア文庫から書籍として刊行された(全5巻)。また、短編を集めた『安土日記』(全3巻)を、おなじく富士見ファンタジア文庫から刊行している(2015年9月から2018年6月)。さらに2021年1月には舞台を現代日本の高校とした特別編『織田信奈の学園』が刊行された。
以上のように、シリーズラインナップは、本編22巻、短編集3巻、外伝6巻、特別編1巻の合計32巻となる(→#既刊一覧参照)。本編の一部には、外伝第1弾『邪気眼流政宗』と短編集『安土日記』を読んでいないと理解のむずかしいところがある。また2015年9月の新装版での改訂の結果、GA文庫版およびその続編である13巻までと、新装版およびその続編である14巻以降とでは、ストーリーに若干の齟齬がみられる。
本作は、早期からメディアミックス展開を積極的に進めてきた。1巻刊行直後にはドラマCD化がなされており、その後、漫画、テレビアニメ(2012年7-9月) がつくられた。2014年9月発売の『ドラゴンマガジン』同年11月号には、本作のイラストレーターのみやま零が同じくイラストを務める『ハイスクールD×D』とのコラボレーション作品が掲載されている。(→#漫画、→#テレビアニメ、→#コラボレーションを参照。)
現代の日本に暮らす男子高校生・相良良晴は、ある日突然、戦国時代の濃尾平野に飛ばされてしまう。その世界では今川義元や松平元康、柴田勝家といった戦国武将たちが男ではなく、美少女の姿で存在しており、その上、尾張国の主である織田信長は織田信奈という名前だった。
良晴は、不慮の死を遂げてしまった木下藤吉郎の遺志を継いで信奈に仕えることにした。信奈がもし良晴の知る戦国大名・織田信長とおなじ運命をたどるとしたら、弟・信勝の暗殺を皮切りに残虐な行動を繰り返し、天下統一を目前に家臣・明智光秀の謀反によって本能寺で殺害されてしまう。強烈な個性と進歩的な発想を持つ美少女・信奈に魅せられた良晴は、彼女の運命を変えるために、この戦国の世にとどまって共に生きることを誓う。
現代日本の歴史ゲームに浸ってきた良晴は、ゲームで得た歴史知識を駆使して、信奈の前にある暗い未来を変えていこうとする。しかしそれは困難な道のりだった。敵対する勢力との抗争が激しさを増すにつれ、織田家はしばしば窮地に陥り、信奈やその家臣団の生命が危険にさらされる。良晴が特に信頼を寄せる忍びの蜂須賀五右衛門と軍師の竹中半兵衛・黒田官兵衛には本能寺の変のことを打ち明け、力をあわせて未来を変えようとするが、困難な道は続く。
良晴は現代では全くモテなかったのだが、どういうわけかこの戦国の世界では女性に人気である。信奈とは早期に相思相愛になったものの、ふたりの間にある身分の壁や、信奈の素直でない性格などが障害となって、なかなか関係が進展しない。そうこうしているうちに、ほかの女性武将がつぎつぎと良晴に想いを寄せるようになる。良晴も、極度の女好きという性質から、危機に陥った女性に対しては、たとえ敵方であってもその命を救うことに全力を挙げてしまう。大坂の合戦で記憶を失った際には、毛利家の小早川隆景に拾われて恋に落ち、敵方であるはずの毛利家に仕えて信奈と戦った。後先を考えない良晴の行動の結果、東北から九州にいたる多数の有力大名が良晴を奪いあう展開となる。織田家も例外ではなく、良晴への愛を隠さなくなった重臣・光秀と信奈との対立が、家中の結束に陰を落とす。
一方、未来の歴史を知ることのできる人物は、良晴以外にもいた。カトリック・ドミヌス会ジパング支部長である宣教師ガスパール・カブラルと、室町幕府の先代将軍であった足利義輝の弟、細川藤孝である。前者は未来を写すことのできる鉱物「プラトン立体」による観測で、後者は古代の予言書である『古今伝授』を解読することで未来を知っており、良晴による歴史改変に対抗しようとする。ガスパールは良晴を現代に帰すかあるいはその存在を消すかすれば歴史への干渉を止められると考え、その計画の実現のために九州のキリシタン大名・大友宗麟に仕えていた。藤孝は、『古今伝授』が予言した未来――光秀の謀反など――を実現させて織田家を滅ぼすことを目指し、策謀をめぐらせる。
記憶を取り戻して織田家に帰参した良晴は、九州に派遣される。肥後で大名・相良義陽に出会った良晴は、自分が肥後相良家の末裔だったことを知る。義陽は良晴の「義姉」を名乗り、信奈のもとに戻る良晴に同行する。九州からの帰路において良晴はガスパールと対面し、彼には記憶がないこと、おそらくは信奈を喪った後に過去に時間を遡って今度こそ信奈を救おうとしている「二周目の相良良晴」が自分の正体だ、とガスパール自身が想定していることを聞かされる。
良晴が九州から戻り、信奈と合流したあと、有力大名のほとんどが参戦する天下分け目の合戦が関ヶ原で開催される。藤孝が仕掛けていた策謀にはまった光秀は信奈を裏切るという「運命」に屈しかけるが、ギリギリのところで踏みとどまり、信奈・良晴との友情を再確認する。織田軍はこの合戦にかろうじて勝利をおさめ、関東と九州の一部をのぞいて、天下統一をほぼ成し遂げた。
関ヶ原の合戦の戦後処理が終わらないうち、相模沖にヨーロッパの連合艦隊があらわれ、戦争となる。日本側連合軍はヨーロッパ軍の攻撃を防ぎきり、和睦を成立させるとともにイングランドと通商条約を結んで、対等な立場での貿易と外交に乗り出す。これに衝撃を受けたのが、京で宮中の政治を取り仕切ってきた公家たちである。信奈は御所の神権を簒奪するつもりだ、という藤孝の扇動に乗った彼らは、外国勢力を日本から追放する「攘夷」を決行する。京の本能寺で良晴と信奈が結ばれた夜、偽勅によって動員された明智光秀軍の襲撃を受けて本能寺は灰燼に帰す。
奇跡的に生き延びた良晴は、本能寺近くの南蛮寺で半兵衛、官兵衛、ガスパール、藤孝らから説明を受け、信奈を救う途があることを知らされる。それは、良晴自身がタイムトラベルを繰り返して歴史に生じる矛盾をすべて解決したうえで、襲撃中の本能寺に戻って信奈を助けるという、困難きわまる内容であった。良晴はこの提案にしたがうことを即決し、南蛮寺に集まった人々に支えられて、時間と空間を超える旅に出発する。
本作は、先行する歴史小説が確立してきた人物像やエピソードを借用したパロディ作品 である。地理や諸大名の地政学的支配地域などはおおむね史実に基づいているものの、それ以外の設定には現実の歴史における戦国時代日本と大きく異なるところがあり、作者は「微妙なパラレルワールド」(1巻あとがき279頁)と表現している。なお、このパラレルワールドでは、未来から来た良晴が使う「日本」という呼称は一般的ではなく、ふつうは「日ノ本」と呼んでいる、という設定 のようだが、徹底はしていない。特に最初の2巻においてそうである。
本作では、史実では男性であったはずの有名武将の多くが女性になっている。こうした女性は「姫大名」や「姫武将」と呼ばれている。「姫武将不殺」の掟(新装版1巻173頁)があるため、合戦で敗北した場合でも、出家することで生き長らえる選択肢がある。
主人公・良晴は、戦国時代に飛ばされてきた当初、姫大名の存在について訝しんでいた。それを聞いた柴田勝家は、「最初の第一子が姫であれば、その姫が家督を継ぐ定めだ」「武士の社会ではそれくらい常識だぞ」(1巻46頁)と応答している。ただし、作中の世界において戦場に女性が出て戦うのは、武士の第一子が家督を継いだ場合だけではない。たとえば、毛利家の吉川・小早川姉妹は第一子ではない(9巻)。島津家の四姉妹のうち、家督を継いでいるのは義久だけである(13巻)。すくなくとも織田家においては女性の足軽がいることを示す記述がある(新装版1巻186頁、3巻301頁)。松永久秀(新装版3巻)や滝川一益(10巻)の国盗りの物語は、流浪の民が実力で地位を奪い取る下剋上の途が女性にも開かれていたことを示す。海外では聖ヨハネ騎士団に女性騎士(5巻のジョバンナ・ロルテスと新装版6巻の下問乱亭)がおり、イスパニア軍やオランダ軍の名だたる指揮官も女性である(20巻)。日本の武士社会のローカルな家族制度だけでは説明のつかないこと だが、作中ではその背景は語られない。
著者の春日みかげは、1巻あとがきにおいて「わがままな女の子に「サル」とののしってもらえる素敵な環境を模索していたら、いつの間にか戦国時代の織田家にたどり着いていた」(1巻278頁)と説明している。織田信長がわがままな性格で、木下藤吉郎を「サル」と呼んでいた、というおなじみの設定を借用 するためだったということだが、信奈以外の多数の武将をも女性化した理由には触れない。後には、22巻あとがきで戦国武将の兄弟間の争いに言及 して「男同士ならともかく……きょうだいの片方が女の子だと、どうしても「それはダメだ」と止めたくなってしまいます」と述べ、姫武将という設定には歴史を改変して悲劇を防ぐ方向に物語を進める機能があったことを示唆している。
なお、史実では女性だったはずなのに男性となっている登場人物はいない。実在の女性武将として知られる立花誾千代(14巻)や井伊直虎(16巻)のほか、豊臣秀吉の妻・ねね(1巻)、織田信長の母・土田御前(1巻)、伊達政宗の母・義姫(7巻)、明智光秀の母・お牧の方(15巻)、イングランド女王・エリザベス一世(19巻)は、本作でも女性である。もっとも、誾千代はまだ7歳の子供であり、戦闘には参加しない。直虎は死亡した夫に代わってやむなく「おんな城主」になったのであって、生粋の姫武将ではない。
本作では、姫武将たちのほとんどについて、「少女」といえる範囲の年齢(ほぼ10代)に集中する生年設定 となっている。桶狭間の合戦と墨俣城築城が同じ年に行われる など、年代や時間の流れについての史実との対応はルーズである。重要な政治勢力である天皇(→姫巫女)や一向宗(→にゃんこう宗)も、別の存在に置き換えられている。さらに、良晴などによる歴史への介入で、史実からの乖離が顕著になっていく。このように、本作は歴史改変SFとしての性格を持っている。
良晴は信奈を「本能寺の変」で死なせない為に行動しており、史実では実現しなかった信奈(信長)による日本統一と、その後海洋進出を経て鎖国することなく大航海時代のヨーロッパ諸国と渡り合っていく近世日本の姿を思い描いている。それに加えて、良晴はしばしば信奈以外の人物の命を救ったり、多数の死者が出る合戦を回避したりする。また、ガスパール・カブラルや細川藤孝(幽斎)は、良晴とは異なる方法で未来を知って歴史に介入する。
結果として、特定の場所・時期に死ぬはずの人物がそこでは死なずに生き続ける。それ故に史実にはなかった事件や合戦が新たに起きて、ストーリーは史実から大きく離れていく。織田派が今川将軍を、反織田派が足利将軍をそれぞれ擁して争うという8巻から18巻に至る対立の構図も、桶狭間の合戦で良晴が今川義元を降伏させて助命した(1巻)こと、そしてそれによって「今川幕府」樹立の可能性が出てきた ことを知った細川藤孝が、二条御所で襲撃を受けた足利義輝をその妹・義昭ともども明に亡命させた(新装版2巻)ことから生じている。そのほか、史実では暗殺されたはずの織田信勝(津田信澄)、戦死したはずの浅井長政(お市)、病死したはずの武田信玄 や上杉謙信などが生きのびて、物語の最後まで活躍を続ける。
にもかかわらず、よく知られた史実を基にしたエピソード がしばしば作中にあらわれ、改変された歴史のなかに位置づけられていく。たとえば関ヶ原の合戦(16-18巻)では、いちおう徳川家康と石田三成(佐吉)が東西に配置されているが、その他の武将の多くは、現実の関ヶ原の合戦時には亡くなっている面々である。しかし彼らは、血縁や戦場での行動を通して、史実との間に種々の符合をみせる。
作中には、実在のコンピュータゲームを元ネタとした架空のゲームや、当時流行の物語が出てくる。よくそれらになぞらえて状況や人間関係が説明される。
良晴は、戦国時代にタイムスリップしてきてからの経験と考察、黒田官兵衛からの示唆をあわせ、歴史は物語よりもゲームに似ている と考えるに至った。物語のようにあらかじめ決まった順番で話が進む一本道ではなく、別々の発生条件を持つイベントが、発生条件が満たされたときに生起することによって歴史を作っていくというのだ。発生条件がそろわないようにすればイベントは回避できるが、しかしその後になって、いつかたまたま条件のそろうときがくれば、結局そのイベントが発生してしまう。イベントがいつ起きるかにはさまざまな可能性があり、それによって歴史はこまかく分岐しうるが、こまかなちがいを捨象して大局的にみたならば、歴史の大きな流れはたいして変わらないものになるはずだ。逆にいえば、大局を変えてしまうほど歴史を派手に書き換える――重大なイベントの発生条件をずっと回避しつづける――のは至難なのである。
それぞれ別々の動機によって歴史を書き換えようとするガスパールや藤孝も、良晴とは独立に、同様の仮説にたどり着いていた。本作の後半では、ちがう立場から「正史」に不満をもち、ちがう方向に歴史を変えようとする人々が、イベント発生条件をめぐって知力を絞る。特に藤孝は、特定のイベントのためにそろえるべき発生条件について独自の理論化に到達した。イベントを発生させるために藤孝が重視したのが「『場』の力」である。関ヶ原の合戦では、藤孝はこの理論を部分的に応用して合戦に参加する武将の行動を操作しようとした(15-18巻)。本能寺の変では、藤孝自身が陰謀の全体を周到に組み上げた(21巻)。
人名や地名がたまたま一致している、といったこともイベント発生条件にふくまれる。19巻には、これを利用したコメディ展開が盛り込まれている。
良晴がいた元の世界(現代)の描写は、最終盤をのぞけば、彼の夢や回想にしか出てこない。良晴は物語の開始時点ですでに戦国時代へタイムスリップしており、その前後のことは覚えていなかった。後で思い出すこともなかったので、タイムスリップの原因や方法はまったく不明であった。
この世界に突然やってきた良晴は、自分が知る戦国時代日本とのちがいから、彼がいた元の世界にはつながらないパラレルワールドだと考えていた。しかし13巻での実の祖先である相良義陽との邂逅を経て、互いの世界は地続きである事が示唆される。この歴史の謎を解くことが、物語後半の焦点の1つである。
最終巻(22巻)が提示する解答によれば、良晴の当初の想定どおり、彼がいた元の世界は、作中の戦国世界とはつながっていないパラレルワールドであった。パラレルワールドに天岩戸を開いて良晴を送り込んだのはほかならぬ良晴自身であり、戦国世界に導いたのは木下藤吉郎と契約を交わした五右衛門が持っていた「人手によらずに切り出された石」(プラトン立体)である。本能寺の変から生き延びた良晴がタイムトラベルを繰り返して信奈を救うという使命を完遂した結果、未来が書き換えられ、戦国世界からつながったあたらしい「現代」が確定した。ラストシーンでは、女性の「織田信奈」が大航海時代の英雄として世界的に活躍したという歴史が「現代」まで伝えられていることを暗示して、物語が閉じられる。
本作のもう1つの特徴として、陰陽道をはじめとするオカルト要素が挙げられる。陰陽師(竹中半兵衛、土御門久脩など)、幻術使い(松永久秀)、錬金術師(千利休)といった異能の力を持つ者たちが作品世界を彩っている。他方、天岩戸を開く三種の神器、観測や移動を時間と空間を超えておこなえるプラトン立体、未来を予言する古記録である『古今伝授』など、呪術的な力を発揮する古代遺物も物語の展開上重要な役割を果たす。
本作では、陰陽道は中世までの時代でのみ成立しうる古い呪術であり、近世に向かう過程でその効力を失っていくものとして描かれる(3巻215頁、新装版2巻あとがき)。陰陽師が使役する式神が大軍を翻弄するほどの能力を持つ一方で銃などの近代技術に弱い(2巻)という本作独自の設定は、このような陰陽道の位置づけを象徴する。竹中半兵衛は、自らも陰陽師でありながら、近世への移行を確実なものとするため、叡山の「不滅の法灯」を消して京の結界を解き、「龍脈」への「気」の供給を絶った(新装版4巻)。そのあと、「気」によって支えられていた半兵衛の体は衰弱し、生命の危機に陥ることになる(8-9巻)。
これに対して、錬金術は、近代科学につながるものであり、時代を先駆ける新しい技術として位置づけられる。千利休は「ごす・ろり」を旨とする茶道(ただし飲むのはワイン)の創始者だが、貴金属をふくむ有用な物質を作り出す錬金術師でもあり、松永久秀謀反の折には、化学的に合成した物質を武器として、陰陽師・土御門久脩が作り出した「鬼」を撃退した(9巻176頁)。
プラトン立体や三種の神器も「気」で作動するので、「気」が充填できていなければ使えない。ただし、高度の高いところでは「気」が供給されるという設定であり、21世紀の現代では、高層ビルに上ることでタイムトラベルのための出入口「天岩戸」を開くことが可能となった(22巻)。
本作には、史実や著名な伝承に対応するイベントが多数登場する。歴史小説パロディあるいは歴史改変SFとしての性格上、内容や前後関係は史実と大きく異なる場合がほとんどである。改変の結果、残虐な行為や登場人物の死を回避していることが多い。たとえば織田信勝暗殺や叡山焼き討ちは未遂に終わっているし、三木城でも八上城でも兵糧攻めはおこなわれていない。斎藤道三・今川義元・浅井長政・山中鹿之助・相良義陽・龍造寺隆信らは戦死を免れる。主な登場人物のうち、史実に対応したタイミングで死ぬのは、浅井久政・朝倉義景・松永久秀くらいである。
主要なイベントのリストを下記に示す。時期区分については、新装版8, 13, 16, 20, 21各巻の「あとがき」を参考にした。なお、正徳寺の会見(天文22年=1553年)から関ヶ原の戦い(慶長5年=1600年)までに、史実としては47年の歳月が流れている。しかし本作の登場人物は、この間ほとんど歳をとらない。作中の経過時間は定かでないが、22巻では「数年」とある。日付や季節のわかる記述をたどると、桶狭間の戦いが旧暦5月(1巻)、姉川の戦いのあとの岐阜でのクリスマス停戦(5巻)、良晴が記憶を失って毛利家にいた半年(11巻)を経て安土城での盂蘭盆会(12巻)、本能寺の変の際の茶屋四郎次郎邸での桔梗の描写(22巻)を総合して、最短で2年程度である。
信奈が尾張と隣国・美濃を掌握するまで。この間、斎藤道三、竹中半兵衛、明智光秀などの新たな理解者を得る。
信奈は京に上り、今川義元をお飾りの将軍に推し立てて浅井・朝倉・叡山・武田などの敵対勢力(いわゆる織田包囲網)と戦う。金ヶ崎からの退却戦を経て、良晴との仲は家中公認同然の状態になる。
本猫寺が加わった織田包囲網との戦い。浅井・朝倉との正面決戦のほか、小田原まで秘密裏に出かけて武田信玄と会見する(行き掛かりで、関東まで出征してきていた伊達政宗とも会見)など外交努力も重ね、包囲網を打ち破る。
強敵・毛利の東進を防ぐため、良晴が播磨に派遣される。黒田官兵衛が良晴配下の軍師となる。織田家は、版図が急拡大したため、家臣団の連携がとりにくくなっていく。
織田包囲網は消滅しておらず、今度は本猫寺と毛利家・村上水軍相手の戦いになる。織田軍は負け戦が続くものの持ちこたえ、いったん停戦が成立する。合戦の最中、窮地に陥ったところで三種の神器を使ってタイムトラベルのための入口(天岩戸)を開き、良晴を未来に帰そうとするが、信奈とのキスシーンが全国中継され、ふたりの仲は公知となってしまう。秩序を重んじる上杉謙信はこれを見て激怒し、織田信奈を敵とみなす。
信奈は、毛利の背後を衝くために、九州・豊後の大友家に良晴と官兵衛を、薩摩の島津家に近衛前久を派遣する。しかし良晴が途中で遭難して肥後に流れつき、ご先祖様である相良義陽と出会い、島津の捕虜になり、さらに九州各地で転戦するなど、予想外の展開となる。この間、良晴に心を寄せる姫武将多数。
中国地方から毛利軍が東進、中部・北陸・東北地方から武田軍・上杉軍・伊達軍などが西進して、関ヶ原で天下分け目の合戦となる。
関ヶ原の戦い以降も、ヨーロッパ連合軍の襲来、本能寺の変と苦難は続く。
年齢などの設定は特に説明がある場合を除いて初登場時に準拠する。本作においては数え年と満年齢が混在していることに注意が必要。特に注記がない限り、歴史上の人物に関しては本作オリジナルの設定である。史実に関しては各項目参照。
声優はドラマCD / テレビアニメ版の順。声優名1人の場合は、原則アニメ版のみであることを示す。
※「浅井」の読みは12巻まで「あさい」だったが、15巻から「あざい」となる。新装版では「あざい」で統一されている。
2010年1月22日、HOBiRECORDSより発売(2009年末開催のコミックマーケット77で先行販売)。小説1巻を元に構成されているが、エピソードの一部が省略されているため、小説を読んでいないとわかりづらい部分がある。ボーナストラックとして担当声優のコメントが収録されている。
また、ドラマCD化を記念し、2009年12月9日より期間限定のWebラジオ『皆口裕子の野望』が配信された。
『織田信奈の野望』
『織田信奈の野望 ひめさまといっしょ』
2012年1月17日にテレビアニメ化が発表され、同年7月から9月にかけてテレビ東京・AT-Xほかにて放送された。全12話。最終回の翌週には総集編が放送された。
ナレーションは光明寺敬子が務める。
監督の熊澤祐嗣はアニメーション制作を担当するマッドハウスの過去作品に参加していた流れで声をかけられたことから、キャラクターデザイン・総作画監督の高品有桂は同じくStudio五組の社長に誘われてオーディションに参加したことから、それぞれ起用された。
アソシエイトプロデューサーの青木隆夫はライトノベル好きが高じ、書店でたまたま手に取った原作の第1巻のみやま零による表紙の絵に惹かれ、添えてあった作品の世界観やキャラクターを説明するリーフレットからも面白い題材と思ったことが、本作のテレビアニメ化のきっかけとなった。やがて、2010年にStudio五組を立ち上げた青木らが親しいポニーキャニオンの担当者に本作のテレビアニメ化を提案したところ、担当者も本作を読んでいたためにすぐ動いてくれることとなった。青木は、本作に強く惹かれたところとして「春日みかげによるキャラクターのキャッチーさ」、「ストーリーが史実に沿っていること」、「歴史解釈にフォーカスすることで、作品にシリアスさや重厚感が生まれていること」の3点を挙げている。
女性が戦っている世界ではあるが、それを支える男性の頑張りようや合戦シーンの死にざまもきちんと見せるように意識されており、それを踏まえたうえで作品にメリハリを付ける上で大きな役割を果たすねねや、織田家の当主としての責任を果たそうとしながらどこかで無理をしている信奈は、彼女の理解者である未来人の良晴との交流も含めて注力して描かれている。それと並行し、青木は1クールという限られた尺で「金ヶ崎の退き口までは描きたい」という希望を実現させるため、シリーズ構成・脚本の鈴木雅詞と議論を重ねた。
1話あたりのカット数は第9話放送終了時点で平均310カットと、Studio五組が本作の前に手掛けた『咲-Saki-阿知賀編』の平均350カットに比べて少なめであるが、作業の効率化を図れる一方で1シーンを長く見せる必要があるために単調で飽きやすいフィルムになりがちなところをあえてそうしたのは意図的であり、視聴者が長い時間見ても気にならない止め絵や重要なシーンを総作画監督の高品と宮前真一にきっちり描き込んでもらい増やすことで、カット数を節約した。また、合戦シーンでは3DCGの歩兵や馬のモデリングを活用して画面密度の高い重厚な戦闘シーンが描かれているが、それは監督の熊澤らスタッフやクリエイターの頑張りようやチームワークの良さなど、作り手の意識の高さと情熱がフィルムに反映されたものである旨を青木は自負している。
『伊藤かな恵・矢作紗友里のデアルカラジオ』のタイトルで、2012年6月19日から同年10月30日までHiBiKi Radio Stationで配信されていた。毎週火曜日更新。
GREE用ソーシャルゲームとして2012年8月31日配信開始。サービス提供はインデックス。ユーザー登録は10万人を突破した。
『真・三国志妹』(しん さんごくしまい)は、春日みかげによる全5巻の異世界三国志ライトノベル(2018-2020年)。イラスト担当はをん。『織田信奈の野望』最終巻に登場する水城秀一とその妹が中心となるストーリーである。
第4巻 で、前田犬千代がこの異世界三国志の舞台である「真世界」に召喚される。第5巻 では、現代の横浜にいる相良義陽 が登場し、危機的状況のなかで犬千代と再会する。『織田信奈の野望』本編完結後の出来事を描く設定。
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