ターザン・シリーズは、エドガー・ライス・バローズによるアメリカのSF冒険小説のシリーズ名。主にターザンを主役とする。
本項での日本語表示は、早川書房版に準ずる。
野生児として育ったターザンを主役とした、冒険小説のシリーズ。生まれ育ったジャングルの習慣・思考が身についているため、文明に対しては批判の目を向けることもしばしばある。バローズの4大シリーズとしては、2番目に開始された(巻数としては一番多い)。
アフリカのジャングルなどの未開の地での冒険が多いが、単なる冒険小説の範疇ではなく、SFの範疇に入る作品もある。例えば、
などである。バローズの作品を多く翻訳している厚木淳は、本シリーズに関して「SF的設定の濃い作品が読み応えがあるようだ」と述べている(ただし、「第1巻は別格」とも)。
バローズはアフリカを訪れたことがないため、劇中の描写は想像や資料によるものである。第1作の連載時は虎が登場していたが、読者の指摘により、単行本化の際に豹や雌ライオンなどに改められた。なお、ターザンは第1巻で成人に達するが、第6巻では少年期の短編集として、新規に描かれている。
第10巻までの変遷を示す。ハヤカワ版の他、創元版もあるので、タイトルではなく巻数で示す(外伝的扱いの『石器時代から来た男』を除く)。タイトル横は発表年。登場人物、種族、国家、その他の用語などについてはターザン・シリーズの登場人物と用語を参照。
リチャード・A・ルポフは『バルスーム』にてバローズの「自己反復と模倣」について述べ、「ターザン・シリーズが一番ひどい」としている。しかし、前述の通り、本シリーズで登場したプロットが他の作品に転用されることもある。
なお、ルポフによると、「バローズの作り出した、猿人ターザンの同類(分身)」として明示されているのは、以下の通り。
日本語版は、ハヤカワ文庫特別版SFより刊行されたものが、最も巻数が多い。「TARZAN BOOKS」として22巻が刊行されている(ただし、未刊分が3巻分残っている)。
ハヤカワ文庫特別版SFは、当初は全26巻が予定されていた(実際は全25巻予定。理由は後述)。以下、リストを示す。ただし、「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」には、連載開始の月しか明記されておらず、連載か読み切りか判断できない。当該巻や他の資料に明記されているものは補足した。
通し番号(101から125)の順番に刊行されていないのは、編集方針である(長期シリーズであり、シリーズの概略を早期に示すため)。ただし、『勝利者ターザン』と『ターザンと呪われた密林』の順番が入れ替わっている理由は不明。114の代わりに25が記載されているのは、ペルシダー・シリーズの第4巻として、既に刊行されていたためである。
森優の「史上最大最高の冒険ヒーロー」に従い、元の通し番号([]で表示)と、出版予定期(第1期。(1)と表記)についても併記する。これにより、次の2点が判明する。
このため、全26巻の予定が全25巻予定になっている(2010年2月現在、3巻分が未刊)。未刊分の邦題、訳者については、早川書房『文庫解説目録(1983年)』による。
補足として、『石器時代から来た男』(創元推理文庫)を、時系列に従って組み入れている。ハヤカワ版でも、「別巻」として刊行の予定があった。「E・R・バロウズ作品総目録(H・H・ヘインズの資料による)」ではターザン・シリーズの第3作とされているが、バランタイン版、エース・ブックス版ではシリーズに含まれていない。また、H・H・ヘインズの資料では「ターザンとチャンピオン」、「ターザンとジャングルの殺人者」も個別に数えているため、全29作となっている。
表紙・口絵・挿絵は、その多くを武部本一郎が手がけている(第1巻から1980年の『ターザンと禁じられた都』まで)。武部の死後は、加藤直之が担当している(『ターザンの逆襲』、『ターザンと豹人間』、『ターザンと呪われた密林』の3作)。なお、『地底世界のターザン』はペルシダー・シリーズのため、柳柊二が描いている。
死後に発見された『ターザンと狂人』は、早川書房が日本語翻訳権を独占している。
ハヤカワ版、東京創元社版を邦訳順で一覧化。創元版のみ原題を記す。「挿絵」が空欄の場合は武部本一郎。「用語」は「ターザン用語の手引」(#ターザン用語(類人猿の言語))が収録されているかどうかを示す(『地底世界のターザン』は、野田昌宏の「ペルシダー百科事典」)。
『ターザンと女戦士』での谷口高夫の解説によると、「ハヤカワ版(1971年~)以前のものは、小山書店の2巻以外は抄訳ばかりで、映画のノベライズも混じっていた、と記憶する」とのこと。
バローズの死後、様々な人物が続編等を描いている。
ハヤカワ文庫版では、「類人猿(マンガニ)の言語」を「ターザン用語の手引」として収録してあるものがある(#ハヤカワ版と創元版(邦訳順)参照)。その中から、主なものを五十音順で記述する。なお、翻訳者により、表記ゆれが存在する。また、マンガニの言語は、小猿やヒヒも使用している。
バローズ自身が明かしたところによると、以下の3点が参考になっている。
3.に関しては、一部のバローズ・ファンは否定していたが、リチャード・A・ルポフの調査で明らかになった(カリフォルニア大学のイタリア語教授だったルドルフ・アルトロッキがバローズ自身に問い合わせ、1937年3月31日付の返信の中で触れており、この写しが残されていた)。なお、ハヤカワ版の「TARZAN BOOKS」は、『ジャングル・ブック』にちなんでつけられている。
キップリングは、バローズと本シリーズを、自伝『多少なりとも私自身』(SOMETHING OF MYSELF,1937)の中で「模倣」、「ドタバタ化」として痛烈に批判した 。
本節は、『ターザンと蟻人間』の解説である、森優の「ターザンと洞窟の女王」による。
キップリングは、『ジャングル・ブック』の着想の一つとして、『多少なりとも私自身』の中でヘンリー・ライダー・ハガードの『百合のナダ』(NADA THE LILY)を挙げている。これにより、バローズはキップリングから、キップリングはハガードから、という経路が確認できた。
森は、「ハガードは有名な作家であったし、デビュー前のバローズはシカゴ公共図書館に通いつめていたから、読んでいないとは考えにくい」とし、次の点を主張している。
さらに、森はバローズの伝記作家であるロバート・W・フェントンの指摘を紹介している。それは、バローズの小説"H.R.H The Rider"(1918年、未訳。邦題は『騎手殿下』、あるいは『H・R・H・ザ・ライダー』)のタイトルは、「ヘンリー・ライダー・ハガード(Henry Rider Haggard)への手向けではないのか?」という説である。
この他、野田昌宏は、『地底世界のターザン』の解説で、ジャック・ロンドンの著作とヘンリー・モートン・スタンリーのアフリカ旅行記からの影響を推測している。
1950年代の段階で、本シリーズは31ヶ国語に翻訳され、58ヶ国で発売されている。1962年に始まった第2次ブームは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダなどに広まっている。アメリカでは、1962年だけで1000万部を売り上げた、とライフ(1963年11月29日号、文芸欄)は伝えている。この売り上げは、アメリカのペーパー・バックの総売り上げの1/30に達した。
なお、第1作が発表と同時にベストセラーとなった、という説があるが、これは間違いである。何故なら、フェントンの調査によると、1914年の初版は5000部しか刷られておらず、年内の再版分を含めても15000部にしか過ぎないからである。ただし、後年にコロンビア大学が発表した「1875年から1934年までのベストセラー・ベスト65」の中では、第1作が27位に入っており、累計75万部を売り上げた、とされている。また、1945年の段階でのシリーズの総発行部数は、209万部に上る。
本節は、『野獣王ターザン』の解説として森優が書いた「シリーズ随一の傑作」による。
第7巻『野獣王ターザン』は、1919年3月から1920年3月まで雑誌に掲載され、1920年に単行本化された。この執筆は、1918年8月から1920年12月までかかっている(ただし、続編の第8巻『恐怖王ターザン』も含む。また、途中の11ヶ月ほどは、別の作品に取り組んでいる)。
ドイツでは、1923年から1925年の間に第6巻までが翻訳され、200万以上のバローズファンが誕生していた。しかし、第一次世界大戦に材をとった本作は、ドイツ軍を悪役としており、ドイツでのバローズ作品の出版を独占していたチャールズ・ディック社の社長、ディックは、本作の出版を見送っていた。
ところが、シュテファン・ゾーレルというジャーナリストが偶然、英語版の本書を入手し、1925年3月に『ドイツ冒涜者ターザン』と題して抄訳版を出版した。そのため、ドイツではバローズ・バッシングの嵐となった。バローズは、フランクフルト・ツァトゥング紙に謝罪文を提出、同紙は態度を軟化させ、バローズの潔さを評価した。
とはいえ、アドルフ・ヒトラーの台頭により、ドイツの文学・映画など芸術に関する統制が苛烈に行われ、バローズ作品も焚書の運命を辿っている。バローズ作品のドイツでの人気再燃は、その後20年以上が経過しなければならなかった。
なお、後続の作品では、一時期ではあるものの、ドイツ人のヒーローが活躍、もしくはヒロインが登場している。
などが挙げられる。
一方で、第一次大戦時期に設定した『時間に忘れられた国』(1918年)などでは、ドイツ人は悪役となっている。また、第二次大戦の時期になると、再び反ドイツ(ヒトラー、ナチスへの非難)的な作品『金星の独裁者』(1938年。金星シリーズ第3巻。原題は"Carson of Venus")が登場する。
4大シリーズの内、本シリーズ以外(火星、ペルシダー、金星)において、バローズは作中に聞き手(仲介者)として登場している。
バローズ作品に聞き手(もしくは語り手)が登場する場合、それがバローズ個人であるか否かは、明言されている場合といない場合がある。前者は『火星のプリンセス』が代表格で、後者には、例えば『時間に忘れられた国』(の第1部と第2部)がある。
明言されていない場合、「明らかにバローズではない」と、ほぼ断定できる場合と、できない場合がある(前者の例は月シリーズの第1部と第2部で、聞き手は1969年に商務長官の後任に指名されている。バローズが存命の可能性はあったが、94歳と高齢になるため、閣僚の任命はまず考えられない)。
本シリーズの場合、第1巻で「私」が酔漢から話を聞かされ、それを調査した、という導入部が採用されている。この時点では、バローズであるとも、ないとも断言できなかった。
類似の例としては、ペルシダー・シリーズがある。第1巻、第2巻では「私」が聞き手であり、バローズであるという決定的な証拠は明示されなかった(むしろ、経歴等から、別人の可能性が高かった)。しかし、第3巻『戦乱のペルシダー』(創元版は『海賊の世界ペルシダー』)において、劇中の重要人物(アブナー・ペリー)とジェイスン・グリドリーの通信に、「エドガー・ライス・バローズ」という名前が出てきており(しかも、バローズはグリドリーと同席している)、前巻までの聞き手がバローズだと確認できる状況になっている。
この続編となるのが、『地底世界のターザン』(創元版は『ターザンの世界ペルシダー』)であるが、冒頭でジェイスンがターザンを訪ねるシーンにおいて、ペリーからの通信文(『戦乱の~』の写し)を提示し、その信頼性に対して「あなたもよく名前をごぞんじの人」の署名、と、バローズの名前を出さず、回りくどい説明をしている。
こうまでバローズがターザン・シリーズで自身の名を出さないのか、明言されていない(ただし、第1巻において「主要な登場人物について架空の名前を使う」とし、「物語が真実である可能性」をほのめかす演出をしている)。
創元版は「エドガー・ライス・バローズ」、ハヤカワ版は「エドガー・ライス・バロウズ」と表記ゆれが存在する。
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