抗NMDA受容体抗体脳炎(こうNMDAじゅようたいこうたいのうえん、英: Anti-NMDA receptor encephalitis)とは、脳の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体、NMDA型グルタミン酸受容体に自己抗体ができることによる急性型の脳炎である。
1964年に、順天堂大学医学部の飯塚礼二らによって原因不明の脳炎症状を呈した「急性瀰漫性リンパ球性髄膜脳炎」と剖検報告があった。
1997年に、日本大学医学部の西村敏樹、亀井聡らによって、若年女性に発症し、痙攣・意識障害・昏睡・呼吸障害等の重篤な神経症状を呈するも、長期予後成績が良好であった症例として、「若年女性発症の急性非ヘルペス性脳炎(Acute Juvenile Female Non-Herpetic Encephalitis AJFNHE)」が報告された。
1997年に、他に「卵巣奇形腫手術後に神経症状が改善した可逆性急性辺縁系脳炎」として、国立がんセンター中央病院精神科の岡村仁より15歳女性症例と、藤田保健衛生大学医学部の野倉一也より19歳女性症例の症例報告あった。
2005年に、ペンシルバニア大学医学部のJosep Dalmau、Roberta Vitalianiらによって、卵巣の奇形腫を合併した若年女性に生じた脳炎が報告され、特異的な自己抗体の検出と腫瘍随伴症候群の示唆が報告された。
2007年に、同大学医学部同グループによって、NR1/NR2 submit4量体で構成されるグルタミン酸受容体の一つである「N-Methyl-D-aspartate:NMDA受容体」の細胞外立体成分をエピトープする抗体(抗NMDA抗体)であることが報告され、疾患概念として提唱された。
報告されている中では、80%以上が若年女性であり、50%以上で腫瘍の併発があり、主に卵巣奇形腫であった。また、高齢者や男性での発症の報告もあり、男性では睾丸胚細胞腫や小細胞性肺癌の併発があった。
患者によって違いがあるが、症状の出方には一定の順序に従う傾向にある。
ある日から突然、鏡を見て不気味に笑うなどの精神症状を示しだし、その後、数か月にわたり昏睡し、軽快することが自然転機でもあるため、過去に悪魔憑きとされたものがこの疾患であった可能性が指摘されており、映画「エクソシスト」の原作モデルになった少年の臨床像は抗NMDA受容体抗体脳炎の症状そのものと指摘されている。
すべての患者を説明する説ではないが、ランセットの調査で、腫瘍学的スクリーニングを受けた98人の患者のうち58人は腫瘍を持っており、主に卵巣奇形腫であった。このことから抗NMDA受容体抗体脳炎には奇形腫との高い合併率が見られる。奇形腫は内胚葉、中胚葉、外胚葉すべてを含む腫瘍であり、それにより髪の毛や骨などが含まれることが多い。この奇形腫の中に脳組織が含まれた場合、脳組織に対する抗体が生じ、抗NMDN抗体脳炎が発症するものと考えられる。そのため、治療には奇形腫がある場合はそれが抗体産生の源となっているため、奇形腫の外科的切除をまず行う。
自己抗体が脳内のNMDA型グルタミン酸受容体を攻撃することにより起こる。病気の正確な病態生理はいまだ議論されているが、脳脊髄液 (CSF) 中に抗NMDA抗体をみとめる。
抗体はCSFに侵入すると、NMDA受容体のNR1サブユニットに結合する。神経障害がおこるメカニズムとして下記の3つのものが考えられている。
患者に腫瘍が発見された場合(腫瘍随伴症候群の場合)は長期予後は一般に良好であり、再発の可能性が低い。腫瘍を外科的に除去することにより自己抗体の供給源を根絶することができるからである。同様に早期診断、治療は患者の転帰を有意に改善することが近年示されている。大多数の患者が初発症状として精神症状を呈し精神科を受診しているため、すべての医師(特に精神科医)は思春期における急性精神病の原因として抗NMDA受容体脳炎を検討することが重要である。
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