認知(にんち)とは、法概念としては嫡出でない子(非嫡出子)について、その父又は母が血縁上の親子関係の存在を認める旨の観念の表示をすることをいう。法律上、当然には親子関係が認められない場合について、親子関係を認める効果がある。
日本の民法の規定上は、父・母からのいずれによる認知も想定されているが、基本的は父子関係においてのみ問題となる。これは、母子関係は原則として母の認知をまたず分娩の事実によって当然に発生するためである。母の認知は懐胎・分娩の事実が立証不可能の場合に限定的に機能するにすぎない。ただし、近時の人工生殖技術の進歩により代理母における母子関係などの新たな問題が生じており立法上の課題となっている。
認知の立法主義には意思主義(主観主義)と事実主義(客観主義)がある。
なお、日本の民法は両者が混在するとされる。
日本法における認知には任意認知と強制認知(裁判認知)とがあり、認知の法的性質については、任意認知は父が自らの子と承認する意思表示であり、強制認知は父の意思に反する場合にも裁判によって親子関係を確定するものであるとみる説と、任意認知は父による観念の通知で非嫡子父子関係を推定するにすぎず、強制認知によって非嫡子父子関係は確定するとみる説があり両者は対立する。
届出又は遺言によってする認知を任意認知という。なお、認知者以外の者の嫡出推定が及ぶ子については、嫡出否認がなされないと認知することができない(離婚後300日問題など参照)。
一定の無効な行為が無効行為の転換の理論により認知の届出としての効力を認められることがある。
認知を有効になしうる能力を認知能力というが、認知には意思能力があれば足りる。認知者が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない(民法780条)。 なお、以下の場合には認知に一定の承諾を要する。
子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。この訴えによる認知を強制認知あるいは裁判認知という。認知によって親子関係を形成する形成訴訟である(最判昭29・4・30)。父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、訴えを提起することができない(民法787条)。認知の訴の特例に関する法律(昭和24年法律第206号)により、今次の戦争の戦没者については、死亡の日に代えて、子等が、死亡の事実を知った日から3年(ただし、死亡の日から10年以内)は提起できるとしている。
訴えの原告は子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人である(民法787条、最判昭43・8・27民集22巻8号1733頁)。訴えの被告は原則として父又は母であるが、死後である場合には検察官を相手方とする(人事訴訟法第42条第1項)。
認知の訴えは父又は母の死亡の日から3年を経過したときは提起できない(民法787条)。死後認知の場合に、年月の経過によって証拠が不明確になることや、相続財産などをめぐる濫訴を防ぐ趣旨である。
なお、認知請求権の放棄は認められない(通説、判例として最判昭37・4・10民集16巻4号693頁)。
認知の効果は法律上の親子関係の発生であり、これにより相続や扶養などの法律的効果が発生する。認知の効果は出生の時に遡る(民法784条本文)。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない(民法784条但書)。なお、相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権については民法910条が規定している。
なお、認知によっても親権者・監護者、戸籍・氏は当然には変更されず、認知後に父母の協議や家庭裁判所の審判で定めることができる(民法819条4項・6項、民法719条1項)。
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