アルトフルートはフルート属の楽器のひとつで、木管楽器に属する。コンサート・フルートの低音用の拡張として、フルート・ダモーレの次に位置する。低音域の目立ってやわらかい音色を特徴とする。ト調の移調楽器であり、ピッコロやバスフルートと同様に、ハ調のフルートと指使いは同じである。
アルトフルートの管はコンサート・フルートよりもかなり太く、演奏者はより多くの息を必要とする。このため、低音域の1オクターブ半でデュナーミクの変化をつけやすい。
アルトフルートのデザインを完成し、ト調(記譜より4度低い)に音程を定めたテオバルト・ベームは、この楽器を好んでいた。
音域はG3(中央ハの下のト音)からG6(実音でト音譜表の上第4線、三点ト)までで、さらに最高音域としてD♭7まで伸ばすことができる。
イギリスの音楽ではアルトフルートのことをしばしばバスフルートと称するが、同じ名前の楽器が別に存在するために混乱のもとになっている。名称の混乱の原因は、現代のコンサート・フルートの音域がルネサンス時代のテナー・フルートと同じであることに起因し、テナー・フルートより低い音域の楽器なのでバスと呼ばれるのである。
アルトフルートの頭部管にはU字形のものとまっすぐなものの2種類の形状がある。U字形の頭部管は腕を伸ばす必要が少なくなるため、小さな演奏者に好まれ、重心が演奏者に近づくために、より軽く感じられる。しかしながら、まっすぐな頭部管の方が全体的に調音が優れており、より一般的に使われる。
アルトフルートのアンブシュアはコンサート・フルートのものに近いが、楽器の大きさに比例して大きくなる。したがって、吹口は下唇のより下の位置にあたり、唇の開きはより大きくなる。
以下の一覧は完全であることを目的としていない。もっともよく演奏され、よく知られた代表的な曲の例としてあげてある。また、もともと他の楽器のために書かれて、後にアルトフルート用に編曲された楽曲は原則として除外されるが、例外として非常によく知られた作品は含まれており、その場合は本来の楽器を注記している。
クラシック音楽でアルトフルートが登場する早い例としてはニコライ・リムスキー=コルサコフのオペラ『ムラダ』がある。アルトフルートは特にイーゴリ・ストラヴィンスキーとモーリス・ラヴェルに関連し、ふたりともさまざまな管弦楽曲でアルトフルートの特徴的な音色を利用した。ラヴェルの『ダフニスとクロエ』、ストラヴィンスキーの『春の祭典』、フランコ・アルファーノのオペラ『シラノ・ド・ベルジュラック』、セルゲイ・プロコフィエフの『スキタイ組曲』で使われている。ドミートリイ・ショスタコーヴィチはオペラ『賭博師』(未完)と『ムツェンスク郡のマクベス夫人』、および『交響曲第7番』で使用している。グスターヴ・ホルスト『惑星』のいくつかの楽章でも用いられる。20世紀音楽でもっとも有名なアルトフルートの用例のひとつにピエール・ブーレーズが書いたコントラルトと6人の器楽奏者による『ル・マルトー・サン・メートル』がある。
ハワード・ショアの『ロード・オブ・ザ・リング』の音楽を代表として、現代のさまざまな映画音楽でも使用される。1940年以前のハリウッド映画でもときどき使われることがあった。たとえばジェローム・カーンの『空とぶ音楽』(1932)と『Very Warm for May』(1939)がそうで、どちらもロバート・ラッセル・ベネットによってオーケストレーションがなされた(自筆スコアはアメリカ議会図書館音楽部門のジェローム・カーン・コレクションが所蔵する)。
最近になってアルトフルートを専門とする演奏家が多数出現した。フランスの即興演奏家・作曲家であるクリスティアン・ル・デレジール、アメリカのクリス・ポッター、イギリスのキングマ・システムのアルトフルート奏者カーラ・リーズ、ジャズ演奏家のアリ・ライアソンやブライアン・ランドルス、アメリカ出身で現在オーストラリアに住むピーター・シェリダン、スイスの作曲家・演奏家マティアス・ツィーグラーおよびシュテファン・ケラー、オランダの作曲家・演奏家アン・ラベルジュなど。日本では第21回日本フルートコンヴェンション・アルトフルート部門で優勝した奥野由紀子が、アルトフルート奏者としてオール・アルトフルート・プログラムによるリサイタルやCDをリリースしている。
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