囲碁の女流棋士(じょりゅうきし)とは、女性のプロ棋士のこと。単に「女性棋士」などと呼称されることもある。
女流棋士は、男性の棋士と同様に男女混合の一般棋戦に参加すると同時に、女流しか参加できない女流棋戦に参加することができる。
日本の囲碁界において、「女流棋士」とは性別が女性の棋士を指す用語であり、ほとんどの棋戦において男性の棋士と同じ扱いを受ける ほか、昇段の規定も男性の棋士と同じである。一方で、女流棋士のみが出場できる女流棋戦も2022年現在6棋戦存在する。
なお、将棋の女流棋士は女流棋士固有の制度のもと活動しており、囲碁界とは事情が異なる。「棋士」 の出場棋戦には原則として出場権が与えられず、女流棋士のみが出場できる女流棋戦が存在するほか、段級位の制度も棋士とは異なる。
2019年現在の制度について記載する。
日本棋院の棋士採用試験では、正棋士の採用枠(一般採用枠)が毎年度5名ある一方で、女流特別採用棋士の採用枠が1名ある。女性であっても性別の関係ない一般採用枠でも受験することができ、日本棋院では2019年現在宮崎志摩子・桑原陽子・加藤啓子・謝依旻の4名が一般採用枠で入段している。
2018年度からは、女流棋士の採用枠を緩和する目的で、女流特別採用推薦棋士の制度が制定された。女性による総当たりの試験を勝ち抜いた者が棋士になれる女流特別採用棋士の試験とは異なり、院生研修などで所定の優秀な成績を収め、院生師範の推薦があった者が採用される。2018年度には、国際棋戦での活躍などが嘱望される、原則として小学生を対象とした英才特別採用推薦棋士も制定されている。
女流特別採用棋士や女流特別採用推薦棋士、英才特別採用推薦棋士は、正棋士と同じように棋戦に出場することができるが、棋士給与の支給や対局料で正棋士とは差がある。ただし、女流特別採用棋士は三段以上、女流特別採用推薦棋士は四段以上、女流の英才特別採用推薦棋士は五段以上に昇段すると資格が正棋士に変更され、他の棋士と同等の処遇を受けられるようになる。正棋士になるまでは、席次(棋士としての位)は同じ段位の正棋士の下位とされる。
関西棋院の棋士採用試験でも、定員は示されていないものの日本棋院の女流特別採用棋士と同じような制度があるほか、外来棋士採用試験での優遇 がある。
古代中国において囲碁は琴棋書画の一つとして文人・士大夫・官僚など、知識階級の男性の遊戯とされていた。後漢時代には兵法に類似しているとして武人などもたしなむようになったが、女性にどの程度広まっていたのかは不明である。
囲碁が日本に伝来すると公家の間でも流行したが、平安時代には女性のたしなみとなり、枕草子など古典文学にも碁を打つ女性の姿が描写されている。鎌倉期になると武家の男性に広まり、囲碁は男性の遊戯という傾向が強くなる。江戸期には庶民層にも広まったが、女性は女官などが嗜む程度であった。しかし家元制度が整備されると18世紀後半に初段に進んだ横関伊保、安井知得仙知の娘で三段まで進んだ安井鉚などが現れる。幕末に著された『大日本囲碁姓名録』(弘化3年)には、二段野口松、豊田源(のち三段)など七名が記されている。林家分家の林佐野は16歳で入段、その後四段まで進み、明治碁界でも方円社設立に関わるなど活躍した。
林佐野の養子である喜多文子は六段に進み(死後名誉八段を追贈)、日本棋院設立に大きな役割を果たした。喜多は鈴木秀子 (棋士)、杉内寿子、伊藤友恵など多くの弟子を育てた。杉内は1942年に入段し、2019年に女流棋聖戦本戦入りを果たすなど、息の長い活躍を続けている。また増淵辰子も長きにわたって第一線にあった他、坂田栄男など優れた門弟を育成している。
1952年、初の女流タイトル戦である女流選手権(後に女流本因坊戦へ発展解消)が設立される。ここでは杉内寿子、本田幸子、楠光子の本田三姉妹や伊藤友恵、小林禮子らが活躍した。伊藤は淡路修三などの弟子を育てた他、囲碁普及にも大きな貢献をしている。1970年代からは小川誠子・小林千寿らが活躍し、女流棋戦の数も増加した。また小川は、1984年からNHK杯囲碁トーナメントでの聞き手も務め、以後は解説役の棋士と聞き手の女流棋士というスタイルが定着した。
平成以降ではこれらのタイトルを青木喜久代・小林泉美・加藤啓子・梅沢由香里・謝依旻・万波佳奈・矢代久美子・鈴木歩ら多数の棋士で争う戦国時代に入った。
ところが、2006年に当時17歳11か月の謝が女流最強戦を制し、最年少女流棋戦優勝記録を更新すると、2008年には女流名人・女流本因坊を制した。2010年には女流棋聖3連覇中の梅沢を下し、史上初となる女流本因坊・女流名人・女流棋聖の三冠独占を達成。2011年も三冠を維持するなど、謝は2006年から2015年までの10年間で21の女流タイトルを獲得し、さらに2016年には新設された女流立葵杯・扇興杯を含む女流五冠を独占する活躍を見せた。
しかし、2014年に当時15歳9か月で会津中央病院杯を制し、謝の最年少記録を更新した藤沢里菜も力をつけ、2016年から2017年にかけ謝の獲得していたタイトルから四冠を奪取。2018年も藤沢は三冠を獲得している。
2019年は、上野愛咲美が竜星戦準優勝、藤沢里菜が天元戦本戦で勝利、また史上最年少10歳でプロ入りを果たした仲邑菫が年間17勝7敗の好成績を挙げるなど、女流棋士飛躍の年となった。2020年には藤沢里菜が若鯉戦で優勝し、女流限定棋戦以外の棋戦で初の女流棋士としての優勝を遂げると、上野愛咲美が2021年・2022年と若鯉戦を連覇し、さらに2023年には新人王戦も女流棋士としての初制覇を達成した。また2021年には、上野愛咲美が年間成績54勝25敗で、最多対局及び最多勝を記録。この両部門で女流棋士が1位となるのは、日本棋院が全棋士で集計を始めた2006年以来、初めてのことであった。また12歳の仲邑菫も43勝を挙げ、勝利数3位にランクインした。
生まれた時代ごとに記載する。
日本棋院による2000年から2007年6月までの集計では、女流棋士の対男性棋士の勝率はおおむね3割台前半で推移しており、この期間の勝率は.339である。これは将棋の女流棋士の対棋士勝率(おおよそ1割台半ば)よりも高い。2007年6月時点で男性棋士に勝ち越している女流棋士には吉原由香里、小林泉美、青木喜久代がいる。
2023年現在、日本の女流棋士が七大タイトルの獲得や七大タイトルへの挑戦、全棋士に出場資格のある棋戦(いわゆる一般棋戦)での優勝、三大リーグ(棋聖戦・名人戦・本因坊戦の各リーグ戦)入りを果たしたことはない。しかしながら、2020年には藤沢里菜が第15回若鯉戦で優勝し、男女混合の公式棋戦で史上初めて優勝を果たしている。
また、一般棋戦においても、上野愛咲美の準優勝を筆頭に下記のような実績がある。
また、若手棋戦では下記のような優勝や準優勝の実績がある(非公式戦を含む)。
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