『電影少女』(でんえいしょうじょ、ビデオガール)は、桂正和によるSF恋愛漫画作品。
様々なメディアミックス展開が行われており、桂正和の代表作の一つである。基となった読切『ビデオガール』と共に桂にとっては漫画家としてのターニングポイントとなった作品でもある。
2018年1月時点で累計発行部数は1400万部を記録している。
読み切りとして書かれた『ビデオガール』(後述)を基に『週刊少年ジャンプ (WJ)』(集英社)誌上で1989年51号から1992年31号まで連載、最終回のみ増刊号『週刊少年ジャンプ1992年ウインタースペシャル』に掲載された。『プレゼント・フロム LEMON』終了後、2年振りの連載となった桂正和4作目の連載作品であり、また桂が手掛けた初の本格恋愛漫画。
単行本はジャンプ・コミックス (JC) より全15巻が刊行されている。後に愛蔵版(1997年 - 1998年)・文庫版(2003年)としてそれぞれ全9巻で再出版され、ラジオドラマ、実写映画、テレビドラマ、OVA、小説、ゲームと様々な形でのメディアミックス展開も行われている。
ピュア(純粋)な心の持ち主にしか見えないレンタルビデオ店において貸し出される特殊なビデオテープから実体として現れる 少女・ビデオガールと、その少女たちの助けを必要としている恋に悩む少年を中心として、その少年の恋愛模様を描く。物語の中心となるビデオガールは2人登場し、本作品はそのビデオガールの名前から「あい編」と「恋(れん)編」との2編構成となっている。なお、英題を兼ねる副題は編に合わせて2種存在する。
『電影少女』第1部に当たり、『WJ』1989年51号から1992年18号まで連載。副題および英題は「VIDEO GIRL AI」。JCの1 - 13巻に収録されている。
再生時の失敗から性格が豹変したビデオガール天野あいとの関係を中心に、心優しい高校生弄内洋太の恋愛事情を描く。
「恋編」は連載期間が短く知名度も低いため、一般的に『電影少女』として広く知られているのはほぼ「あい編」のみであり、様々なメディアミックス作品も「あい編」のみを原作としている。
『電影少女』の第2部に当たり、『WJ』1992年19号から31号までおよび、1992年ウインタースペシャルに掲載された。副題および英題は「VIDEO GIRL LEN」。JCの14巻と15巻に収録されている。
最初から心をもつビデオガール桃乃恋が、過去のトラウマから恋愛に臆病になっている高校生田口広夢と彼の親友刈川俊騎の恋を応援する様を描く。
「恋編」は「あい編」に比べると極端に連載期間が短いが、短期間で終了したことについて桂は「いろいろな事情」と語り、トシキについてもっと描きたかったことを述べるなど、打ち切りであったことを示唆している。
『電影少女』の読みは単行本の中で「でんえいしょうじょ」とルビが振られており、これが正式な読みとなっている。ただし『D・N・A² 〜何処かで失くしたあいつのアイツ〜』や『I"s』など後の作品の単行本では、作者のコメント内の『電影少女』に「ビデオガール」とルビが振られている物もあり、「ビデオガール」という読みも、正式、もしくはそれに準ずる読み方として扱われている。
なお『電影少女』という表記はタイトルのみの使用となっており、作中に登場する少女たちの呼称や英題を兼ねる副題では「ビデオガール (VIDEO GIRL)」となっている。
桂は本作のキーワードとして「リアル」を挙げており、このキーワードは内容・絵柄共にこの作品を特徴付けている。そしてさらには桂の作風に大きな転換期を与えている。
本作品の連載開始前、桂は『WJ』において好評であった短編「SHIN-NO-SHIN 愛と憎しみのタイムスリップ」(『ZETMAN 桂正和短編集』に収録)を元に次の連載を開始するつもりであったが、当時『WJ』副編集長の、恩師として慕っていた鳥嶋和彦の鶴の一声により本作品の連載が決定される。
しかし、元来ヒーロー物やSFを好む桂は恋愛漫画の執筆に当初はあまり乗り気ではなく、せめてもの抵抗としてありがちな恋愛漫画を避けることを画策する。そして少年誌の恋愛漫画の常套手段であった「主人公の表情と間で考えや気持ちを読み取ってもらう」方法を避け、その逆として「細かくリアルに心理描写を描き出す」方法を取ることとする。
こうした心理描写は女性読者にも共感を与え、「男なのになぜ女の子の気持ちがわかるのか」と尋ねる少女からのファンレターが届いている。また教育評論家の斎藤次郎はこうした心理描写を「少女漫画顔負け」と評し、ラブコメディとしてちゃかさずに恋愛を描いた本作品を「少年誌初の『恋愛漫画』」と表現している。
心理描写のリアリティ追求は行動のリアリティにも繋がり、男女交際の当然の帰結としてベッドシーンなどの性描写へと繋がっていく。しかし「キスまで」という少年誌的な制約は厳しく、桂はこの制約の中で「裸を出さずにエッチに描く」ことにより、際どくリアリティのある描写を目指していく。
それでもこうした描写はたびたび問題とされ、単行本に収録される際の修正・単行本発行後の修正(3・5・6巻では初版と重版で異なる部分がある)・山口県での第3巻の有害図書指定と、当時強まっていた漫画に対する表現規制のあおりを直接受けることとなる。なお、こうした過激な表現は洋太と伸子との交際がきっかけとなっており、伸子の登場の前後で作品の質が違うと桂は述べている。
こうした「裸体描写を抑えながらも過激度を上げる」というギリギリの表現方法は、以降も桂の作品の特徴となっており、後の「エム」や『I"s』などにも受け継がれていった。
読切『ビデオガール』のころより桂は、それまでの絵柄を壊しリアリティのある絵柄を模索し始める。
これは『電影少女』連載前に入院によって漫画の描けない生活を送っており、手が自分の絵を忘れてしまったことも転機とはなっているが、その他にも自分のキャラクターのルックスに飽きたこと、アイドル好きが加熱していたこと自分の絵よりも現実の女の子の方がかわいいと思っていることなどが理由として挙げられている。
舞台は武蔵野に位置する東京都三鷹市。冴えないが気持ちの優しい高校生弄内洋太は、同級生の美少女早川もえみに密かな恋心を抱いていた。しかし彼女は、洋太の親友である新舞貴志に憧れており、洋太はもえみの片思いに協力することを約束し、彼女への失恋は決定的となってしまう。
失恋に沈む洋太の前に、不思議なビデオショップ 『GOKURAKU』 が現れる。店主から貸してもらったビデオテープ『なぐさめてあげる♥』を自宅で再生すると、ビデオガール天野あいがテレビから出現。あいは洋太の恋を応援すると言い出し、洋太とあいは一緒に暮らすことになる。
騒々しい共同生活の中で、あいと洋太は互いに心惹かれるようになっていくが、ビデオガールには『恋愛禁止』の掟が課されており、2人の仲はGOKURAKU管理者によって一度引き裂かれてしまう。その後、『応援するぜ』というタイトルに変更されたあいは、再び洋太の元へと返される。
その後、洋太は後輩の仁崎伸子と付き合うが、あいやもえみへの想いに悩まされる。さまざまな出来事を重ねていくうちに、あいに頼り切っていた頼りない自分自身の弱さに気付き、洋太は人間的に成長していく。
あい編から7年後の下北沢などが舞台。過去のトラウマから「自分は女性を好きになってはいけない」と思い込む高校2年生田口広夢は、同じ絵画教室に通う白川あゆみに一目惚れをする。しかし彼女にはある悪い噂があった。親友刈川俊騎の後押しもあり白川をデートに誘い出したヒロムだったが、白川が噂通りの行動をとるのを目の当たりにしショックを受け逃げ出してしまう。
激しく傷ついたヒロムと、彼を心から心配するトシキの前に、突然 NEO GOKURAKU が現れる。まだ試作品だというテープを無理矢理借り出し、ヒロムの自宅で再生すると、彼らの前にビデオガール桃乃恋が現れる。再生時間は「あなたが本当の恋に出会うまで」。
※は恋編にも登場する人物。
声優はカセットブック版 / OVA版の順番に記載する。
ピュアな心の持ち主にだけ見える不思議なレンタルビデオショップを営む組織。
『電影少女 -VIDEO GIRL AI-』のタイトルで1991年に集英社カセットおよび集英社CDブックより、カセットブック・CDブックが発売。脚色は後にノベライズも担当した富田祐弘。
『電影少女 -VIDEO GIRL AI-』のタイトルで1991年に実写映画化された。監督は以前より桂の知人であった金田龍が務めた。同時上映は『ふしぎの海のナディア』。
テレビ東京系列の「土曜ドラマ24」枠(毎週日曜日0時20分 - 0時50分〈土曜日深夜〉)、2018年1月期より『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』のタイトルで連続ドラマ化された。ストーリーは、原作から25年後を設定しており、主人公は弄内洋太の甥である男子高校生・弄内翔(もてうちしょう)が、おじの家の納屋で古いビデオデッキを見つけるところから展開する。
放送に合わせて第1話の脚本を原作者がコミカライズした『電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-』(原作・作画:桂正和、オリジナル脚本:喜安浩平)が『ヤングジャンプ』(2018年5・6合併号、集英社)に22ページの読み切りとして掲載された。
劇中アニメ制作はシグナル・エムディが担当。現・プロダクションI.Gの西久保瑞穂らが1992年に手掛けた後述のOVAが素晴らしかったことと、原作リブートという意味でも、そのラインを絶対に生かしたかったため。若いスタッフたちが関監督の監修のもと手掛けた仕上がりは、ドラマ世界を広げるアニメーションになった。イラストは原作者の桂正和描き下ろし。
2019年1月19日未明(18日深夜)、テレビ東京で特別編が放送された。テレビ北海道、TVQ九州放送は同時ネット、テレビ愛知、テレビ大阪は遅れネットで放送された。
主要人物
ゲスト
先述した特別編のエンディングにおいて、2019年4月期より新シリーズ『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』がテレビ東京系 金曜未明の深夜ドラマ枠「木ドラ25」にて放送開始されると発表。今回は原作に登場した別のビデオガール・神尾まい(マイ)が登場。ドラマ第1シリーズのラストに写真で登場した謎のビデオガール・神尾マイを主人公にしたシリーズ2作目であり、神尾マイ役を演じる乃木坂46の山下美月と萩原利久がダブル主演を務める。ストーリーは第1シリーズと同じくオリジナル的な要素をかなり多めに、マイにより人生を狂わされていく少年の悲喜劇が描かれる。ドラマプロデューサーによると「アイ(前作)がジェダイ(聖)の物語だとすると(今回の)マイはシス(闇)の物語」とのこと。
ビデオを再生すると出現する〈ビデオガール〉神尾マイ(山下美月)。
再生ボタンを押した「再生者」の願いを叶えるため、あらゆる手段で願いの成就をサポートしつつ、次第に再生者はマイに心から心酔してしまい、マイの不在からは廃人同然のように精神を病んでしまう。
叶野(萩原利久)は偶然再生者となり、かつて幼馴染であった朝川(武田玲奈)との「ゴール」をマイに依頼する。
しかし、叶野が再生者になる以前に、高校では数人の男子生徒がマイに関連して心神喪失したことが他校や巷での噂となり、マイのことを追う記者・弄内(戸次重幸)まで現れる。
マイのなりふり構わない異常なまでの尽力もあり、叶野の想いは成就しつつあり、ついに朝川と付き合うようになるが、叶野に「マイはいとこ」と紹介されるも、叶野とマイが同居していること、かつて朝川はマイと仕事現場で出会っていることなどから不信感を抱く。
デート先を叶野の自宅にし、叶野とマイのいとこというにはあまりに親密な距離感に嫉妬を覚えた朝川は、学校でビデオガールのことを聞いていたことからふとテレビのデッキ類を確認すると、神尾マイが描かれたVHSビデオのパッケージと、それを再生し続けているビデオデッキを発見した。機転を利かせてマイに買い物を頼むと、マイの不在時にビデオの再生を停止し、パッケージごとビデオを持ち去ってしまう朝川。
マイが帰宅しないことから半狂乱となった叶野は、はじめてマイと出会った場所や町を探すが、朝川の訪問から異変があったことを思い出し、何度も電話もするが、朝川は応答しなかった。
再生者がいなくなったことからマイは消滅したと思われたが、なぜか拘束された状態で目を覚ます。側には叶野の高校の教師である松井(岡田義徳)がいた。
実は松井は高校生時代にマイを再生しており、その時の記憶を失っていたが、校内での噂からビデオガールのことを少しずつ思い出し、叶野が所持者だと睨み朝川を説得させビデオテープを持ってこさせていたのだった。
松井は過去のマイの所業を洗脳のように連続して再生さえ、マイのマインドコントロールに成功する。
松井は自宅にマイを住まわせ、それに従順に従うマイだった。ふとしたきっかけから叶野との記憶が頭をよぎり、外へと出かけていき、それを朝川が偶然見つけ、約束ではビデオテープは破棄すると聞いていたのにマイが再生されていることに驚きつつ、朝川の自宅で事情を問いただす。
じょじょに人間的な感情を持ち始めるマイは、松井の命令を無視して高校に手作り弁当を届けるまでになったが、人目につく行動を快く思わない松井は叶野を抹殺することを決意する。
朝川の献身的な対応もあり、叶野はマイへの思いを断ち切り、再び高校に通うようになるまでになり、穏やかな生活を送っていた。
偶然記者である弄内と接触した朝川は、叶野とマイとの関係を少しずつ共有し、松井が高校生時代と同じ高校に勤めていることを朝川に漏らす。
ついに行動を開始したマイは、松井とマイを目撃していた女子生徒・佐竹(新條由芽)をスマホ操作中の交通事故に見せかけて大ケガを負わせ、次のターゲットである叶野を校舎屋上に呼び出した。叶野を突き落とすことにためらうマイの様子を見ていた松井が飛び出し、松井と叶野がもつれ合うように校舎から落下する大ケガとなった。
現場を突き止めた弄内は救急車を呼びつつ2人を助ける。翌日、高校では叶野の飛び降り事故のみが報告され、一方の松井は命に別条はないが廃人同然で休養中として学校では生徒ひとりを殺そうとしたという疑いから内々で懲戒処分となった。
ビデオを停めるよう進言する弄内の意見に耳を傾けつつも、マイのこれからを思案する叶野。朝川も俳優業が軌道に乗り単身渡米して演技の勉強をすることを選択しひとりで挑戦する決意から叶野に別れを告げる。
今のマイの再生を停めると、ビデオテープの限界からもう二度と再生できないだろうと言われた叶野は、まだ叶えていないマイの願いを実現させようとマイの行きたい場所を探すことに協力する。
叶野の思い出の場所であるキャンプを楽しみつつ、マイの行きたい場所が見つかった。それは高校の放送室、マイがはじめて再生された場所だった。
休日にマイとともに学校に向かった叶野だったが、偶然にも学校に復帰する予定だった柳(柾木玲弥)に目撃され、マイに逆上し刃物を振り回す。すんでのところで放送室に籠城することに成功した叶野とマイ。今までの思い出を思い出しつつ、マイは自分の手で停止ボタンに手を伸ばし消滅した。
叶野に再び日常が戻ってきた。朝川からは定期的に連絡があるようで順調な様子、マイとの約束から写真に力を注ぎだす。
『電影少女 -VIDEO GIRL AI-』のタイトルで1992年に制作。VHS で全6巻。2001年には全2巻の DVD として、単品、BOX で販売されている。
特典映像として、東北弁でしゃべるあい、九州弁でしゃべる洋太、京都弁でしゃべるもえみによるかけ合いが収録されている(もえみ役の天野は京都出身)。
※主要キャラクターの声優については上記の登場人物の欄を参照。
『電影少女 -VIDEO GIRL AI-』のタイトルで富田祐弘によってノベライズがなされている。第一話「天野あい」が『jump novel』vol.1(1991年8月21日号)に掲載。1993年6月9日にジャンプ ジェイ ブックスより単行本が発売された。
単行本には小説オリジナルとなるビデオガールの名前を題名とした、第二話「影取ゆう」・第三話「香山ゆめ」の2話が書き下ろされ、全3話が収録されている。この他桂による描き下ろしとして、カラーイラストとスペシャル・エキストラコミック「BONUS CHAPTER ビデオガールたちの休日」(3頁)が冒頭に収録されている。なお、スペシャル・エキストラコミックには小説に登場する3人のビデオガールの他、読切『ビデオガール』のはるの、漫画本編の桃乃恋も登場している。
『電影少女 -Virtual Girl Lun-』のタイトルで1999年に販売された恋愛シミュレーションゲーム。主人公が手にしたCD-ROMから飛び出した「バーチャルガールるん」に助けられながら本当の恋人を見つけることが目的。あい編に出てきたもえみなどの他、ゲームオリジナルの女の子が登場。
「ビデオガール」 (VIDEO GIRL) は連載作品『電影少女』の元となった読切作品。『週刊少年ジャンプ』1989年特別編集ウインタースペシャルに掲載。短編集『桂正和コレクション』の2巻(扉含め6ページまでカラー)および、『電影少女』15巻に収録されている。
本作品の時点で、
といった「あい編」の大枠は既に出来上がっている。
当時担当であった鳥嶋和彦の「描きたい女の子を描いてこい」との要望から、男の子っぽいキャラクターの「はるの」がまず誕生する。その後「SFが入らないと自分が面白くない」桂に対し、「『アメージング・ストーリー』のビデオの『薬品がかかった雑誌から男が出てくる話』の女版で行こう」との提案が出された。そこで「裏本(注:リンク先18禁記事)に薬品がかかり、液が裏まで染みて裏のページの男の性格になる」話にしようとするも、さすがに少年誌で裏本は問題があると判断され、当時人気の高かったレンタルビデオ屋から着想を得て、ビデオを再生したら少女が飛び出してくるという「ビデオガール」の概念が誕生した(同時に録画ボタンによって男の性格になる設定も誕生)。
昨日まで空き地だったはずのところに突如現れたレンタルビデオショップ。「特殊ビデオ」の文字にスケベ心を刺激された山川宗洋はふらりと立ち寄り好みの女の子のビデオを借りていく。家に帰り着き、早速そのビデオを再生してみると、突然女の子がテレビ画面から飛び出してきた。
特記のない限り、著者は桂正和・発行は集英社。
Owlapps.net - since 2012 - Les chouettes applications du hibou