HD DVD(英語: High-Definition Digital Versatile Disc)とはDVDフォーラムにより承認された青紫色半導体レーザーを使用する第3世代光ディスクの規格である。
ソニー・フィリップス・松下電器産業(現パナソニック)が中心となって開発を進めていたBlu-ray Disc(以下、BD)に対抗する形で2002年8月29日に東芝とNECがDVDフォーラムに「AOD (Advanced Optical Disc) 」として提案、同年11月26日にDVDフォーラムがAODを「HD DVD」の名称で正式承認したことで誕生。しかし2008年2月19日にHD DVD陣営の中心の東芝が全面撤退を発表、普及団体も解散したためBDとの規格争いは終結した。
HD DVDはDVD規格をベースにしてハイビジョン放送時代に対応するために開発された光ディスク規格である。CD、DVDと同様、直径12 cm / 8 cm、厚さ1.2 mmのプラスチック製円盤であるが、読み取りに使われるのは波長405 nmの青紫色レーザーである。DVDよりも波長の短いレーザーを用いることでより高密度の記録が可能となっている。HD DVDの直径12 cmディスクは1層で15 GBの容量を持ち、2層で30 GBの容量を持つ。直径8 cmディスクでは1層で4.7 GB、2層で9.4 GBの容量を持つ。保護層の厚さがDVDと同じ0.6 mmであるため、DVD製造ラインの一部を流用可能であるとされ、また振動によるレンズとディスクの衝突の回避に使用する接近検知システムの一部流用が可能であるとされた。
HD DVDはほぼ同時期に規格が策定されたBDと第3世代光ディスク規格の地位を争っていたが、市場(消費者と、その動向を受けた映画配給会社)はBDを選択。2008年2月19日の東芝の撤退発表で規格争いは終結した。
ただし2004年12月には、HD DVDのコンテンツや商品開発の促進や普及を目的としたHD DVDプロモーショングループがメモリーテック、日本電気、三洋電機、東芝の4社が中心に設立された。だが2008年2月の東芝のHD DVD終息表明を受け関連各社もHD DVD事業の撤退方針を打ち出しており、同グループも約3年以上に規格争いの歴史に終止符を打つこととなり2008年3月28日に公式に解散した。
HD DVDは製品として展開されることはなくなったものの、物理規格や再生機器設計などの技術の一部がCBHDに流用されている。
HD DVDにはDVDと同様に読み取り専用型と記録型の規格が存在する。書き換えができる記録型HD DVD規格はランドグルーブ記録を採用しているHD DVD-Rewritable (HD DVD-RW) の規格策定が行われていたが、2層化が困難なことなどからHD DVD-Rの基本構造を継承したHD DVD-ReRecordable規格を策定しHD DVD-Rewritableの名称をHD DVD-RAMに変更、HD DVD-ReRecordableの名称をHD DVD-RWと決定した。
HD DVD-RWはデータ用が2007年7月からPCメーカー等に向けてサンプル出荷されており、2007年12月に製品化された。ビデオ用は2008年2月に製品化が発表されたが東芝の撤退により対応するビデオレコーダーは発売中止となりメディアの発売も中止された。しかしその後、磁気研究所、あきばんぐダイレクトが台湾RiTEK社製のHD DVD-RWメディアの販売を開始した。この製品はAACSに対応しており、書き込みに対応したQosmioシリーズの一部で地上デジタル放送のムーブが可能である。日本国内で入手可能なHD DVD-RWメディアはRiTEK社製のものだけであった。
HD DVD-RAMは製品化されていない。
多層化に関しては2005年5月に片面3層 45 GB(1層15 GB)HD DVD-ROMの開発発表が行われ、2007年のCESにて片面3層 51 GB(1層17 GB)HD DVD-ROMの発表が行われた。また片面3層 51 GBのHD DVD-ROMについては2007年9月12日にDVDフォーラムによって規格化がなされ、11月15日に正式にver.2.0として承認され規格化を完了したが製品化はされていない。
規格は以下。
片面にDVDとHD DVDの両方の記録層を持つツインフォーマットディスクは記録層の深さが現在のDVDと同じであることからピックアップ用のレンズ共用が可能なため、設計製作上のハードルが低いとされる。一部のHD DVDソフトで採用された。
両面ディスクの片面にHD DVD、もう片面にBDの記録層を持つTotal Hi Defが、2規格が店頭に並び混乱を生じることへの解決策としてワーナー・ブラザースにより独自に開発され、製品化が進められていたが2007年秋に開発中止された。ワーナーは2008年1月にBD一本化を表明している。
主に市販ビデオソフトを収録するために策定された規格。従来のDVD-Video規格のHD DVD版とも言えるものだが、コピープロテクションなどではAACS (Advanced Access Content System) とよばれる新技術が使用されている。各プログラムデータの多重化(コンテナフォーマットを参照)にはMPEG2 PSシステムが採用されている。
DVD-VideoのContent Scramble System (CSS) が破られ違法コピーが蔓延していることから、CSSに代わる新たな著作権保護機構としてより強固なAACSが採用されている。このAACSは再生専用メディアに限らず、記録型メディアにも対応している。
HD DVDではHDiとよばれる対話型操作機能が必須機能となっており、すべてのHD DVDプレーヤーで利用可能。HDiはマイクロソフトが中心となって開発されXMLやECMAScript、SMILといったWWW関連技術からなるものであった。全てのプレーヤーにネットワーク端子の搭載が必須のため、インターネットを通じて対応ソフトの追加コンテンツの配信が可能。
なお、映画会社などからリージョンコード導入に対する要望により導入に向けて検討が行われていたものの、最後までHD DVD-Videoではリージョンコードによる制御は行われていなかった。
映像コーデックは下記。
音声コーデックは下記。
DVDでのDVD-VRに相当する規格である。映像コーデック、音声コーデック、インタラクティブ機能、著作権保護機構、リージョンコードについては前述のHD DVD-Videoに準拠している。
DVDではDVD-VRがビデオ用アプリケーションのDVD-Videoより後に策定されたためDVD-Video用プレーヤーと再生互換が無かったことの反省としてHD DVDではHD DVD-VideoとHD DVD-VR(HDVR)のフォーマット構造を多くの部分で共通化し、HD DVD-VRフォーマットのディスクもHD DVD-Videoプレーヤで再生可能な設計とした。従ってDVDと異なりレコーダーにHD DVD-Videoフォーマットの記録機能とHD DVD-VRの記録機能を併載する必要が無い。
エンコード録画用(DVD-VRに相当)のVideo Object (VOB) モードと放送ストリーム(TS信号)をそのまま記録するStream Object (SOB) モードの2種類がある。
このHD DVD-VRを利用して、記録型DVDにHD DVDと同様の形式でデジタルハイビジョン放送を記録できる規格としてHD Recが製品化された。これはDVD-R/RW/RAMメディアにMPEG-4 AVCなどのコーデックでHDやSDの映像を記録する規格である。
同じくDVDメディアにHD DVD-VRで映像を入れる規格としてHD DVD9がワーナー・ブラザースにより提案されたが製品化されなかった。BDでも同様のコンセプトでBD9が提案されており、HD DVD9とあわせて3x DVDの総称でもよばれた。上記HD Recと直接は無関係。
HD DVD9はDVD-Videoの3倍の帯域幅を持ち、MPEG-2のかわりにVC-1やH.264といったより高圧縮のコーデックを用いることでハイビジョン規格の映像をDVDメディアに保存することが可能。DVDメディアであるため記録容量がHD DVDに比べて少なく、記録時間や画質の面ではHD DVDに劣る。片面2層 8.5 GBのDVDに平均ビットレート13 Mbpsで85分のハイビジョン映像の収録でき、HD DVDプレーヤーにのみ対応する。当初ワーナー・ブラザースが想定していた物は片面2層 8.5 GBのDVDに平均ビットレート8 Mbpsで120分のハイビジョン映像を収録し、青紫色半導体レーザーを用いない3x DVD対応のDVDプレーヤーで再生可能にする事であった。
HD Rec、HD DVD9ともDVD-Video規格とは全く異なるため一般的なDVDプレイヤーで再生することはできず、再生には特に対応した機器が必要である。
ソフトメーカー側の動きとしては規格争いの終結に伴い、各メーカーがBD参入を発表した。ユニバーサル映画の初参入やパラマウント映画の再参入の他、ワーナーやパラマウントはHD DVDのみで発売されていたタイトルのBlu-ray化も行った。日本のソフトメーカーは2009年に日活やショウゲートがソニー・ピクチャーズ エンタテインメントに販売を委託する形でBlu-rayに参入し、松竹も同年秋に参入した。一方既発売HD DVDソフトの生産は中止され、以降に発売予定だったタイトルも発売中止や初回限定生産となることが多く見られた。
既にHD DVDにムーブされたコピーワンスのデジタル放送コンテンツはBDなど他のメディアへの再ムーブが現状では出来ないため、ドライブの修理が出来なくなった時点で再生が困難となる。
なお終息宣言直後の2008年2月には東芝社長の西田が「BDへの参入予定はない」と明言していたが、2009年6月の株主総会の席では「SDメモリーカードの将来的な規格開発においてBD陣営との協力が重要になる」としてBD参入に含みを持たせる表現に変わった。
東芝は2009年7月18日に、現行DVD機に加えて新たにBD再生専用機の年内の発売を発表。再生専用機を先行発売する理由は、海外でテレビ番組のインターネット配信が進んでおり、日本で主流の録画再生機の需要増大が見込めないためとしていた。しかし後に需要状況を鑑みてBDレコーダーも発売した。当初はOEM供給だったが、2010年にレグザブルーレイを自社開発し発売している。
HD DVDの販売促進目的で2004年12月22日にメモリーテック、日本電気、三洋電機、東芝の4社が中心となりHD DVDプロモーショングループが設立された。その後北米や欧州へ展開されたものの、2008年2月19日に東芝がHD DVDから完全撤退することを発表したため同年3月28日解散。
解散の時点で一般会員・準会員合計で135社が加盟していた。
以下の支持企業リストは東芝の撤退が決まる前のもの。太字はHD DVDの幹事企業。※印はBlu-ray Disc Association(BDA)にも参入を表明している企業。
以下に記載するのは2008年2月19日までに発売された代表的な製品である。全機種とも東芝の撤退により生産完了している。
何れも3波長化しておりCDやDVDも使用可。
2006年に最初の製品が登場した。大容量(DVD比)の記録型HD DVDにデジタルハイビジョン放送を、ハイビジョン画質(水平解像度1080本)のままで長時間記録できるのが最大の特徴であった。
光ディスクへの記録方式としてはデジタル放送をそのままの形式 (MPEG-2 TS) で記録型HD DVDに記録するのが代表的だが一部の機種を除きDVDレコーダーと同様、記録型DVDに標準画質(水平解像度480本、MPEG-2形式)に変換して記録できる。またMPEG-4 AVC圧縮することにより、記録型Blu-ray Discにより長時間記録することができる機種や記録型DVDにMPEG-4 AVC圧縮形式で記録 (HD Rec) 可能な機種も登場している。
ハイビジョン画質対応のテレビ受像機(日本国内では主に薄型テレビ)が一般家庭に普及しはじめ画面の大型化が進んでいるのに伴いHD DVDレコーダーの普及も期待されていたがBDレコーダーの台頭、東芝の撤退により消滅。
なお従来型のDVDレコーダーではデジタルハイビジョン放送を記録型DVDに記録する際に標準画質に劣化させなければならず、このことがBD/HD DVDを含む第3世代光ディスクレコーダーとの大きな差異となっていたが2007年からAVCRECおよびHD Rec機能搭載のDVDレコーダーが登場したことにより現在では記録型DVDにもハイビジョン放送をハイビジョン画質のままで記録することが可能となっている。
デジタルテレビ放送チューナーと300 GB / 600 GBのハードディスクドライブ (HDD) を搭載し、地上・BS・110度CSデジタル放送をHDDに録画できる。さらに記録型HD DVD-Rに品質を損なわずに保存できる。HD DVDへの直接録画も可能。
片面1層 15 GBのHD DVD-RにBSデジタル放送(24Mbps)で約81分、地上デジタル放送(17 Mbps)で約115分の記録が可能とされているが地上デジタルのハイビジョン放送は連動データ放送を除くと概ね13 - 14 Mbps程度であり(放送局によって異なる)その場合は片面1層で2時間30分近くの記録が可能となる。
デジタルチューナー内蔵DVDレコーダーのVARDIA・RD-Sシリーズと同等の機能を搭載している。機能の詳細はVARDIAを参照。記録型DVDの規格争いの名残がHD DVDレコーダーにも引き継がれており、発売された全機種でDVD+R/+RWへの録画は不可能。
東芝はHD Recに対応した機種を発売した。
多数のメディア規格が混在するDVDと異なり、録画用メディアは追記型のHD DVD-Rの1種類のみであった。なお、書き換え型のHD DVD-RWはレコーダーとしては対応機種及び録画用メディア未発売のまま終焉を迎えた。
RD-A301にはMPEG-2形式のデジタル放送をより圧縮効率の高いMPEG-4 AVCで再圧縮し、ハイビジョンのままでより長時間の記録ができる機能を搭載している。同時期以降に発売された殆どのBDレコーダーや一部のDVDレコーダーにも同等の機能が搭載されている。
3種類の画質モード(約3.6, 8.2, 15 Mbps)及び47段階のマニュアルレート設定が用意され、片面1層のHD DVDに最大で7時間程度のハイビジョン記録が可能となる。地上デジタル放送の画質を大きく損なわずに保存するためには8 Mbps程度が必要とされる(映像の内容や再生環境・見る人の主観によって異なる)が上記のように地デジのビットレートは13 - 14 Mbps程度であるため、それを12 Mbpsなどのモードで再圧縮しても記録効率がさほど上がるわけではない。
レコーダーは日本で約2万台が販売。
HD DVD-Videoを再生する単体の機器で、2006年に最初の製品が登場した。対抗規格のBDプレーヤーとともにテレビ番組を録画保存する習慣が殆どない海外諸国での普及が見込まれていた。しかしBDプレーヤーの台頭、東芝の撤退により消滅。日本ではわずか3機種が発売されただけであった。なお日本国外ではLG電子とサムスン電子からBD/HD DVD両対応プレーヤーが販売されていた。
国内発売モデルのみ記載。
対応メディアは以下。HD DVD-Rの再生は後期の製品で対応した。
プレーヤーは日本市場で約1万台、海外を含めて約70万台が販売。
マイクロソフトが発売しているゲーム機であるXbox 360は、別売のHD DVDプレーヤーを接続する事によりHD DVDを再生する事ができた。このプレーヤーはWindows XP SP2以降のPC(但しすべてのPCで動作するわけではない)に接続すればHD DVDドライブとして使用可能であった。
2006年12月18日、Muslix64というクラッカーが著作権保護機構であるAACSで用いられているキーを取り出すことに成功、これによりHD DVDの映画などが暗号解除されてBitTorrentなどのネットワークに流出するという事件がおきた。またHD DVDのバックアップツールであるBackupHDDVDが公開され、原理的に2007年1月までのコンテンツは全てコピーが可能となった。これに対しAACSのライセンス管理団体である米AACS LAでは想定済み問題であり必要手段を講じるとしたため、今後発売されるコンテンツに関してはこの方法でコピーできなくなる。しかし限定的とはいえAACSが策定されて1年もかからずにコピーが可能となったことがハリウッドを代表とするコンテンツ供給側の方針などに影響を与えるとする懸念がある。また同じAACSを採用しているBlu-ray Discは著作権保護機構としてAACSの他にROM MarkやBD+の実装があるのに対し、HD DVDはAACSのみであるために今回の問題による第3世代光ディスク規格競争に与える影響が指摘されている(ただしBD+搭載コンテンツは2007年3月からの出荷であったため、2007年1月までのBDコンテンツはHD DVD同様不正コピーされている)。
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