『野性の証明』(やせいのしょうめい)は、森村誠一の小説、またそれを原作とした映画やテレビドラマ。
東北の寒村で大量虐殺事件が起こる。その生き残りの少女と、訓練中、偶然虐殺現場に遭遇した自衛官。この二人を主人公に、東北地方の都市を舞台にした巨大な陰謀を描く。
小説の最後は映画とは異なり、主人公は暴力団との戦いの最中に、記憶を取り戻した頼子の憎しみの視線を受けながら北野刑事に拘束された時に、頼子の父と同じ病気で脳を犯されており、絶望の中、完全な狂人になってしまう。
『人間の証明』に続き、森村誠一が角川春樹の依頼により映画化を前提として執筆した原作を、角川書店が映画化。原作には無かった主人公と自衛隊との戦闘シーンが作品後半に追加された。この作品がデビュー作となる薬師丸ひろ子の「お父さん、怖いよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」の台詞はTVCMで流された。当時の自衛隊は映画やドラマに協力することはなく、ましてや、『野性の証明』では自衛隊は敵として描かれていることもあり、しかも、反体制的な人間が多かった当時の映画側から自衛隊へ撮影協力を依頼することもなかった。結局、最後の戦闘シーンのロケは日本では不可能だったので、角川映画は自前で自衛隊の部隊を用意し、アメリカで撮影が行われた。第52回キネマ旬報ベスト・テン第40位、読者選出第7位となった。
1980年5月のある日、反政府ゲリラの一団がアメリカ大使と家族全員を人質にとって立て籠もり事件を起こした。県警の救出作戦は失敗し、人質の命に危険が迫る中、政府首脳は秘密裏に陸上自衛隊に出動を命じる。味沢岳史一等陸曹を含む突入部隊は犯人たちを全員殺害し、人質を救出した後、素早く現場を立ち去った。
味沢が所属する部隊は、極秘裏に編成された精強の特殊部隊「特殊工作隊」だった。事件後、味沢たちの部隊は訓練の一環として北上山地の原生林の中に一人ずつヘリから下ろされ、目的地まで自力でたどり着くよう命令される。訓練は精神異常をきたす隊員や行方不明者がでるなど過酷を極め、味沢も疲労困憊して登山道に滑落したところを通りかかった女性登山者・越智美佐子に見つかってしまう。越智は近くの部落に助けを求めに走ったが、味沢は訓練中民間人との接触を厳禁されていたため、その場を離れた。しかし味沢が向かった先は越智が向かった部落だった。部落では、住人の長井孫一が発狂し手斧で次々に村人を殺していた。越智も長井に殺されてしまう。長井は最後に自分の娘・頼子を殺そうとする。その様子をみていた味沢は、頼子を助けようと命令に反して介入し長井を殺してしまう。一部始終を見ていた頼子は、恐怖のあまり記憶を喪失してしまう。国防軍への昇格を目論む自衛隊幹部は事件が発覚することで非合法部隊の存在が表面化する事態を危惧したが、唯一の目撃者・頼子が記憶喪失に陥ったため、真相が明るみに出ることはなかった。
一年後、味沢は自衛隊を除隊し、頼子を養子にとって羽代市の保険会社で働いていた。記憶を失っていた頼子は味沢が自分の父を殺した男とは知らず、親子として暮らしていた。また、羽代市には部落で殺された越智美佐子の妹・朋子が新聞記者として働いていた。美佐子の死に責任を感じていた味沢は朋子を陰ながら見守っており、朋子を暴走族から助けたのをきっかけとして味沢親子と朋子は親交を持つようになる。そんなある日、岩手県警察の北野刑事が味沢親子の周辺を探り始める。北野は部落の大量殺人事件を捜査する中で、事件の生き残り・頼子を味沢が引き取った事を知り、やがて味沢が自衛隊で特殊部隊にいたことを突き止めた。 警察によって事件が暴かれることを恐れた陸自奥羽方面総監部の幹部は、味沢親子を抹殺することをもくろむ。
一方、味沢は保険金殺人の調査を進めていくうちに、地元暴力団と政治家の大場一成そして警察が癒着している証拠をつかむ。大場一味による市政の壟断に義憤を覚えていた朋子は、新聞でその実態を暴こうとするが、会社に入り込んでいた監視者からの連絡で駆け付けた大場の息子・成明と仲間の暴走族に襲われて殺され、味沢はその犯人に仕立て上げられて警察に追われる身となる。頼子と共に逃走中、味沢は自分たちを襲ってきた暴走族を返り討ちにし、成明を人質に取るが、成明を取り返そうと追ってきた暴力団の一団と戦いになった。鍛錬で身に着けた特殊工作隊員の戦闘能力を発揮して成明や暴力団員たちを次々に殺していく味沢の姿を見て、頼子は記憶を取り戻し、味沢が自分の父を殺したと気が付く。一部始終を見ていた北野刑事は味沢を部落民を皆殺しにした殺人鬼として逮捕し、宮野に連行しようとする。
途中、北野たちは羽代署の刑事に止められる。刑事は北野から味沢親子を奪おうとするが、そこに一台のトラックが現れた。トラックの運転手は自動小銃を取り出して刑事を射殺した。運転手は味沢親子を監視していた特殊工作隊員・渡会であり、これ以上味沢親子を放置すれば、未だ非合法である「特殊工作隊」の存在が明るみに出てしまうと判断し、ついに実力行使に出たのだった。
渡会は北野と味沢親子をトラックの荷台に押し込め、自衛隊の演習地にある作業小屋に拉致・監禁すると、その抹殺任務の発動を特殊工作隊本隊に連絡した。皆殺しの危機を察知した味沢は隙を見て渡会を殺して脱出を図るが、連絡で駆け付けた特殊工作隊の指揮官・皆川以下22名の隊員たちが追ってきた。
演習地の山林を舞台に味沢親子と北野、そして追跡する皆川達の間で激しい戦いが繰り広げられ、追跡者たちを全員倒したものの、ようやくわが身の危険を顧みずに戦い続ける味沢の覚悟を知って、誤解を解いて和解した北野を失い、続いて親子の情を捨てきれずに味沢を追いかけてきた頼子が銃撃を浴びて殺されてしまう。「お父さん、ありがとう」と言い残して息を引き取る頼子。一人生き残った味沢は、その無念と共に頼子の亡骸を背負い、押し寄せる戦車と歩兵部隊が待ち受ける中へ単身で突撃していった。
なお「陸自奥羽方面総監部」は実在しない架空の方面隊である。相当するのは東北方面総監部及び東北方面隊だが、防衛庁の協力が得られなかったために架空の方面隊となった。和田陸将と久我陸将補の制服袖にある部隊識別章(ワッペン)は東北方面隊で当時実際に使われていた記章である。
自衛隊員役のエキストラを一般から募集した。100メートルのウサギ跳びやフィールドアスレチック競技などによる選考を行い、全国の応募者から選ばれた合格者200人は「野性軍団」と呼ばれ、ロケ地であるアメリカへの旅費と小遣い10万円が支給された。頭を五分刈りにした野性軍団は、千葉県にある陸上自衛隊・第1空挺団への体験入隊を経た後渡米し、キャンプ・ロバーツでの撮影に臨んだ。
「戦士の休息」歌:町田義人(作詞:山川啓介/作曲・編曲:大野雄二)
「野性の証明 オリジナル・サウンドトラック」
毎日放送ほかで下記の期間放送。
「戦士の休息」町田義人
1978年11月8日に東京スポーツ新聞社より田丸ようすけによる本作のコミカライズ版が発行された。
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