スペースデブリ(古フランス語: débris、英語: space debris、orbital debrisとも)または宇宙ゴミ(うちゅうゴミ、アメリカ英語: space junk)とは、なんらかの意味がある活動を行うことなく地球の衛星軌道上〔低・中・高軌道〕を周回している人工物体のことである。宇宙開発に伴ってその数は年々増え続け、対策が必要となってきている。
本記事で扱う「スペースデブリ」には、耐用年数を過ぎ機能を停止した(された)、または事故・故障により制御不能となった人工衛星から、衛星などの打上げに使われたロケット本体や、その一部の部品、多段ロケットの切り離しなどによって生じた破片、デブリ同士の衝突で生まれた微細デブリ、更には宇宙飛行士が落とした「手袋・工具・部品」、はがれた塗料片など、数10mの巨大なものから数mmの欠片までが含まれる。 なお、天然岩石や鉱物・金属などで構成された宇宙塵(微小な隕石)は「流星物質」と呼ばれ区別されている。
これらスペースデブリの総数は増加の一途を辿っているうえ、それぞれ異なる軌道を周回しているため、回収及び制御が難しい状態である。これらが活動中の人工衛星や有人宇宙船、国際宇宙ステーション(ISS)などに衝突すれば、設備が破壊されたり乗員の生命に危険が及ぶ恐れがあるため、国際問題となっている。現にニアミスや微小デブリとの衝突などは頻繁に起こっており、1996年にスペースシャトル・エンデバーのミッション(STS-72)で若田光一宇宙飛行士が回収した日本の宇宙実験室(SFU)には、微細なものを含めると500箇所近い衝突痕が確認された。
スペースデブリは地球中心に対して十分に速移動速度が低い場合は落下して大気圏へ再突入するが、人工衛星として運用する物体は地表に対し、300 - 450kmの低軌道では7 - 8km/s、36,000kmの静止軌道でも3km/sと非常に高速で移動している。さらに相対的に検討すると10km/s以上で衝突することもある。運動エネルギーは速度の2乗に比例するため、スペースデブリの破壊力はすさまじく、直径が10cmほどあれば宇宙船は完全に破壊され、数cmでも致命的な損傷は免れない。さらに数mmのものであっても場合によっては宇宙船の任務遂行能力を奪う。5 - 10mmのデブリと衝突するのは弾丸を撃ち込まれることに例えられる。
このような衝突を防ぐことを目的として地球近傍のデブリ等を観測する活動は宇宙状況認識(SSA)と呼ばれる。北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の宇宙監視ネットワーク(Space Surveillance Network、略称:SSN)、ロシアの宇宙監視システム(Space Surveilance System、略称:SSS)などでは約10cm以上の比較的大きなデブリをカタログに登録して常時監視が行われており、日本でも美星スペースガードセンター(BSGC)、上斎原スペースガードセンター(KSGC)の2施設でデブリの監視が行われている。また、航空自衛隊宇宙作戦隊でもデブリ監視を行う予定である。カタログ登録されたデブリの数だけでも約9,000個に及び、1mm以下の微細デブリまでも含めると数百万とも数千万個とも言われる。
2017年4月18日からドイツ・ダルムシュタットで開催されたスペースデブリに関する会合で、スペースデブリは4半世紀で倍増したと報告された。最高速度28000km/hで地球の軌道を周回しているため、小さなゴミでも有人宇宙船、人工衛星の表面を破壊するほどの衝撃力を持ち、危険である。1993年には、地上のレーダー観測で、地球軌道上に10cm以上のスペースデブリが約8000個確認されている。それが2017年現在では約20000個に増え、1m以上の宇宙ゴミも5000個あるという。約1cmほどのスペースデブリは「飛んでいる弾丸」ともいわれ、75万個に上り、1mm以上のものは1億5000万個あるとする欧州宇宙機関(ESA)の予測モデルもある。こうした、スペースデブリが互いに衝突してさらにゴミが拡散しかねない状況を招いた2つの要因として、中国の老朽化した気象衛星「風雲」を対衛星兵器で破壊した2007年1月の実験と、2009年2月のロシアの軍事衛星「コスモス2251」とアメリカイリジウム・サテライト社の通信衛星との衝突が考えられるという。
プロジェクト・ウェストフォードと呼ばれる実験が、アメリカ・マサチューセッツ工科大学のリンカーン研究所によって1963年に行われた。これは、長さ2cmの銅製の針を高度3,500 - 3,800km、傾斜角87 - 96度の軌道に散布し、そこに電波を照射して反射させることによって長距離通信を目指す、いわば、宇宙空間に人為的に電離層を作り出すものだった。結果、初期の目的は達成されたものの、散布された針は実に4億8千万個に及ぶこととなり、国際的な批判を浴びた。2020年1月時点になお軌道を周回し、追跡されている針は42個である。
人工衛星や多段ロケットの最終段などが軌道上で爆発することを「ブレークアップ(破砕、爆散)」という。1961年から2000年までに163回のブレークアップが起きている。ひとたびブレークアップが起きると、観測可能なものだけでも多い時で数百個から数千個のスペースデブリが発生する。これらは爆発前の軌道に沿って雲のような塊(デブリ・クラウド)を形成し、時間が経つにつれて徐々に拡散していく。
ブレークアップの原因としては次のようなものが挙げられる。
その他、ブレークアップほど深刻ではないが、微細なデブリが生じるケースとして、衛星の熱制御に使われる冷媒の漏れ、固体ロケットモーターの燃焼時に噴煙内に生じる微細な粒子、塗料が剥離した破片も問題になっており、これらの発生を減らすような対策が検討されている。
カタログ登録された直径10cm以上のデブリは軌道が判っているため、ニアミスの恐れがある場合は衛星あるいは宇宙機の方が軌道を修正して回避することが可能であり、また1cm以下のデブリなら有人宇宙機にバンパーを設けることで衝突した時のダメージを軽減できるが、その中間の大きさのデブリへの有効な対処は難しい。
デブリを減らすためには、使用済みのロケットや人工衛星を他の人工衛星と衝突しない軌道(墓場軌道)に乗せるか大気圏突入させる、デブリを何らかの手段で回収するなどの対策が必要である。これらの対策は少しずつ開始されているが、既に軌道上にあるデブリを回収・除去する手段については、後述のように、導電性テザーを利用する方法や、レーザーを利用する方法など、様々な方法が提案・実験されているものの、まだ本格的な実用化には至っていない。基本的なデブリ対策としては、地上におけるゴミ問題と同様に、ゴミを発生させないようにするのが最良策である。
デブリの対策は、当初は各宇宙機関が独自のガイドラインを作って規制していたが、2007年に機関間スペースデブリ調整委員会 IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)が国際的なガイドラインを策定しており、現在はそれに従って対応が行われている。高度約2,000km以下の低周回軌道の衛星の場合は、運用終了から25年以内に大気圏への再突入・落下が行われるよう考慮して運用が行われている。またそれよりも高度が高い衛星(静止衛星など)は、運用に使われる軌道から外して墓場軌道に投入する必要がある。
具体的に取られている措置としては、初期の頃はロケットからの衛星分離時に破片が飛散していたが、日・米・欧州のロケット・衛星では、これらをほとんど飛散しないような設計に変更している。その他、衛星を再突入させるほどの推進剤が残っていない場合でもできるだけ高度を下げて軌道上滞在年数を減らすことで他のデブリとの衝突リスクを下げる試みがERS-2やUARS衛星などで行われている。また衛星を軌道投入した後、ロケットに軌道変更の余力が残っている場合は制御しながら再突入する試みが始まっており、日本ではH-IIBロケット2号機で試験が行われた。
2015年4月21日には日本の理化学研究所により、理化学研究所、エコール・ポリテクニーク、パリ第7大学、トリノ大学、カリフォルニア大学アーバイン校からなる共同研究グループが高強度レーザーを使用してデブリを除去する技術を考案したことを発表した。
導電性テザーをスペースデブリに取り付け、テザーに発生するローレンツ力を利用してデブリの勢いを殺し大気圏に突入させるというアイデアもJAXA等で研究されている。2016年12月に打ち上げられたこうのとり6号機では実際にテザーシステムが搭載され、本任務である国際宇宙ステーション(ISS)への補給任務完了後に実証実験を行う予定だったが、装置の不具合で実験が行えなかった。
デブリ対策にビジネスとして取り組むことを掲げるベンチャー企業「アストロスケール」が2013年に設立された。CEOは日本人の岡田光信で、現在は日本に拠点を置いている。具体的には、まずデブリの分布を把握するための人工衛星を、続いてデブリを除去する衛星の打ち上げを目指している。2018年9月19日にはサリー・サテライト・テクノロジーによって開発されたスペースデブリを軌道から取り除く世界初の実験衛星であるRemoveDEBRIS(リムーブデブリス)が網による超小型衛星の捕獲に成功した。
人工衛星の素材面からのアプローチとして、京都大学と住友林業はデブリ対策として木材の利用を検討。2022年には国際宇宙ステーションでホオノキなど使った宇宙暴露試験も行われた。2024年には、外板に木材を使用した人工衛星の打ち上げが計画されている。
宇宙空間に長期間曝露されていた物体の表面には衝突により多数の微小なクレーターが形成される。この成因の衝突物体が流星物質であるかデブリであるかは、クレーターの底に付着した残留物を分析したり、クレーターの形状から衝突速度と角度を推定したりすることにより判断される。
1983年に打ち上げられたスペースシャトル・チャレンジャー(STS-7)では、軌道上で窓ガラスに何かが衝突し、深さ約0.5mmの微小クレーターが形成された。衝突したのは人工衛星から剥がれた塗料片だろうと考えられている。 また、1984年にチャレンジャー(STS-41-C)によって回収されたソーラーマックス衛星の外壁2.5平方メートルの表面には、約3年の宇宙空間への曝露により千個ものクレーターが形成されていた。このうちの約7割が人工的なデブリによるものとされている。
その後も同様の調査により、時代が下るにつれて衝突頻度が加速度的に上昇していることが判明している。デブリが調査された代表的なものには、
などが含まれている。また、ミールや国際宇宙ステーションから回収されたものでも分析が行われている。
このように、現在、微小デブリとの衝突はきわめて日常的な出来事になっている。
人工衛星レベル程度なら再突入に耐えられずに燃え尽きるが、それ以上のロケットのエンジン部などは燃え尽きずに地上に落下する。計画的に制御されて太平洋上の人家から遠く離れた到達不能極スペースクラフト・セメタリーへ落下させれば安全であるが、そうでない場合もある。それらを以下に示す。
地上に被害が出た場合は、宇宙損害責任条約を批准していれば打ち上げた国が補填する。2024年3月の事例では落下物の打ち上げは宇宙航空研究開発機構が担当していたが、被害者は自国の宇宙機関(アメリカ航空宇宙局)に対して訴訟を起こすとしている。被害の程度によっては保証されない場合もある。また問い合わせ窓口が不明確であり、2024年3月の事例では当初アメリカ航空宇宙局に連絡したが取合ってもらえなかったという。アメリカではアメリカ航空宇宙局やアメリカ宇宙軍ではなく、政府から資金援助を受ける宇宙関連NPOであるエアロスペース・コーポレーションに連絡することが推奨されている。
1993年に機関間スペースデブリ調整委員会 IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)が設立され、各国の宇宙機関の間でスペースデブリの対策に対して協議されている。
2007年にIADCは、スペースデブリ軽減のためのガイドライン(Space Debris Mitigation Guidelines)を発行した。現在はこのガイドラインに従ってデブリをこれ以上増やさないような努力が行われている。
2019年2月11日から、オーストリアで開かれる国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で、日本は、米国など10カ国とともにスペースデブリ抑制など宇宙空間の長期利用に向けた取り組みを求める声明を出すことが2月5日判明した。日本が率先して、今後本格化する国際ルールづくりで主導権を確保する狙いがある。声明は、COPUOSの下部組織の科学技術小委員会で12日(現地時間)に発出し、日本の呼び掛けに米国、英国、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア、韓国、豪州、ニュージーランドの計9カ国が応じ、同様の声明を出す。
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