乳児院(にゅうじいん)とは、乳児(孤児)を入院させてこれを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする児童福祉施設。児童福祉法第37条に規定がある。児童養護施設が原則として1歳以上の児童を養育するのに対し、1歳未満の乳児を主に養育する。ただし、必要がある場合には小学校入学以前の幼児も養育することができる。
厚生労働省の調査によると、2014年10月1日現在、全国で132の乳児院があり、3,105人が入所している。設備や人員配置については児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)に定められており、嘱託医、看護師、保育士、児童指導員、栄養士、調理員などが養育にあたっている。費用は主に国と地方自治体が負担している。
かつては戦災孤児や捨て子が入所理由の大半であったが、現在は児童虐待や家庭問題による養育者の不在、児童自身の障害などが多くを占める。措置される乳幼児は母の病気で3分の1の理由を占め、次に未婚の母あるいは婚外出産であり、両方で全ケースの17%を占める。1995年の子供白書によると1990年代半ばには、東京のような大都市で、親の一方か両方が外国人である乳幼児の措置が増加した 。
乳児院に入所していた子どもは、その後、実の両親や親族の元へ戻るか、特別養子縁組で新しい親に引き取られるか里親の元へ行くが、それが無理な場合は児童養護施設へ措置変更となる。
厚生労働省では2016年の改正児童福祉法を具体化した「新しい社会的養育ビジョン」において、原則就学前の施設入所停止や、7年以内の里親委託率75%以上など数値目標を定め、施設に対しては、入所期間を1年以内とし、機能転換も求めている。
2016年児童福祉法改正では施設利用制限の設定や里親委託率の目標値を設けると共に、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にしており、これは、国会で全会一致で可決された。施設存続の立場ばかりでなく、家庭での養育を推進するために里親制度の普及活動に取り組む児童養護施設長もいる。
イギリスにおいても長年施設ケアが中心となっていたがジョン・ボウルビィの研究などで施設入所が乳幼児にいかに負の方向に影響するかの発表がなされ、脱施設化にかじを切った。また1960年代以降は避妊方法の普及や非嫡出子への偏見が減りシングルマザーが施設へ子供を預けず自ら育てる状況となった結果も相まって乳児院の入所者自体も減少し、スタッフや小児科医の反対も経つつ最終的に乳児院閉鎖に至った。大手乳児院のバーナードス元代表(CEO)ロジャー・シングルトン卿は施設入所の早急な中止と、障害児も含めたすべての子どもに小規模ホームなどではなく里親や養子縁組の家庭支援を呼び掛けている。イギリスにおいてはファミリーグループホームは決してファミリー・プレイスメント(家庭委託)ではなく、中途半端な資源形態では子どものニード充足には不十分との判断がある。
ところで2019年6月公布の児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律により、令和4年度までに「児童の保護及び支援に当たって、児童の意見を聴く機会及び児童が自ら意見を述べることができる機会の確保、当該機会における児童を支援する仕組みの構築、児童の権利を擁護する仕組みの構築その他の児童の意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されるための措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるもの」とされている。三重県では子どものアドボケイト(代弁者)制度を試験導入している。2020年3月には堺市でNPO法人で施設入所児の「意見表明」を支援する団体が設立されている。
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