インターネットサービスプロバイダ(英語: Internet service provider)とは、インターネット接続の電気通信役務を提供する組織のことである。プロバイダやISPなどと略して呼ばれることが多い。日本では、電気通信事業者であり、インターネット接続事業者(略して接続事業者)と訳されることが ある。回線事業者がプロバイダ業も兼ねて提供している会社と回線事業者の回線を使ってプロバイダ業のみサービスを提供する会社に分かれる。
基本的にはインターネット接続を希望する個人や団体に対し、一定の対価を徴収した上で接続サービスを提供する。またISPによってはネット上でのオンラインショッピングに対する決済サービス等も提供している(詳しくは主なサービス内容を参照)。
大手ISPの中には自社(あるいはグループ)で大規模なインターネットバックボーンを運用し、併せてインターネットデータセンター (iDC) やインターネットエクスチェンジ (IX) などを運営するものも少なくない一方で、中小ISPになると実際には大手ISPのサービスに独自ブランドをつけてサービスを再販しているに過ぎない(自社設備を持たない)場合もあり、運営形態は様々である。
なおISPの多くは営利目的で運営されている(商用ISP)が、中には非営利団体として運営されるISP(非商用ISP)も存在する(UUNETの初期や、日本ではインターネット互助会横浜(IMASY) など)。
ちなみに日本で最も加入者の多いISPはNTTドコモのiモードである(2014年3月末現在で約5004万人。ただしspモード加入者を含む)。iモードは無線接続によるISPとして世界最大級であり、2006年1月にギネス世界記録から「Largest Wireless Internet Provider」の認定を受けている。
また、2011年時点で加入者数が世界最大のブロードバンドISPは中国電信で、中国が上位二社を占めている。
インターネットサービスプロバイダ(ISP)の中には、動画やその他の広帯域サービスの顧客向け配信を改善するために、独自のコンテンツ配信ネットワーク(CDN)キャッシュノードをネットワークに導入しているところがある。
企業がISPと接続するパターンは複数ある。ISPと1本のリンクで接続する「シングルホーム」と、ISPと2本以上のリンクで冗長化して接続する「デュアルホーム」、複数のISPと接続する「マルチホーム」、そしてISPと2本以上のリンクで冗長化し、かつそれぞれのISPと2本以上のリンクで接続する「デュアル マルチホーム」の4つがある。一般家庭ではISP1社と契約し、回線も1本のシングルホームが標準的である。
インターネット接続サービスの提供としてインターネットへのコネクティビティ(接続性)を提供する事を主要なサービス内容とする。
ネットワークセキュリティが、ユーザへのサービス提供も含めて重要となっている。電子メールアカウントのスパム(いわゆる迷惑メール)対策・コンピュータウイルス対策、パケットフィルタリングを有償または無償で提供している。また、ユーザ自身による不正・不法または違法な行為への対処も(一部限定的ながらも)求められている。(たとえば迷惑メールの発信元対策としてのOP25Bの導入など)
ダイヤルアップ接続のISPは、アクセスポイントからインターネットまでの接続であり、電話会社がアクセス回線を提供する回線事業者である。
常時接続の場合、アクセス回線・インターネット接続が一体の契約と、分離型の契約とがある。
2015年時点での主な回線接続サービス
インターネットは米国のインターネット・バックボーンとなるプロバイダを頂点に、各国にある1次プロバイダ・2次プロバイダ・3次プロバイダ等と階層的なシステムとなっており、そこから末端ユーザーがつながる構造になっている。
元々インターネットの歴史は、1960年代から1970年代にかけて、コンピュータネットワークに関する研究機関(大学・企業の研究所等)同士が個別に互いのネットワークを接続するところから始まっているが(ARPANETやALOHAnetなどは複数の研究機関によるアライアンスの例である)、1980年代に米国内のそれらのネットワークは全米科学財団ネットワーク (NSFnet) に発展した。しかし当時NSFnetの利用には「学術研究目的の利用に限る」という制限が設けられており、この制約のため「企業同士がNSFnet経由でデータをやり取りすることができない」など、 学術機関以外がネットワークを利用する際にいろいろと問題が生じていた。
また1990年代初頭までは、インターネット接続の手段として専用線以外にUUCP接続が広く使われていた。UUCPでは電子メールやネットニュース等の配信をバケツリレー方式で行うが、このリレーの途中にある組織のネットワークが何らかの要因(定期メンテナンス・障害等)で停止すると、それらの配信がストップしてしまうという問題があった。特にネットワークトポロジーの中心に近いところの機関(いわゆる「上流」)でネットワークが停止すると、その機関から配信を受ける多くのネットワーク(いわゆる「下流」)に影響が出ていた。
これらの要因を受け、1980年代後半になると特に企業から「利用目的に制限のないネットワーク」や「上流のメンテナンスの影響を受けない安定した接続」を求める声が強まったことから、1987年にUUNETが設立されサービスを開始。当初は非営利組織としてサービスを開始したUUNETだったが、ISPというビジネスが成り立つ目処が立ったことから2年後の1989年に商用化され、以後米国内で多くの商用ISPが発足した。同じく1989年には、マサチューセッツ州ブルックライン市に拠点を置くThe Worldも世界初期のビジネスとしての一般向けのインターネット・サービス・プロバイダ事業を開始した。
当初はUUNETを含む商用ISPはいずれも「UUCPやTCP/IPを通信プロトコルに用いた、NSFnetとは異なるもう一つのネットワーク」という扱いだったが、これら商用ISPによるネットワークは急速に拡大。1991年には商用ISP同士の初の相互接続点である「CIX」が発足した。さらに、1993年のビル・クリントン政権発足に伴う情報スーパーハイウェイ構想等の影響から、NSFnetがそれまでの方針を転換し「学術研究目的以外の利用も認める」ことになったため、NSFnetと商用ISPの間の障壁が消滅し事実上ネットワークが統合された。この結果全米を網羅する巨大なネットワークが誕生し、以後のインターネットの隆盛につながっていくことになる。
日本国内におけるISPは、届出電気通信事業者の中で「電気通信回線設備を設置しない事業者」という区分(旧一般第2種電気通信事業者)にあたる。なお、ISP事業の開始に当たっては総務省(総合通信局)への届け出が必要である。ISP事業は、届出電気通信事業者(電気通信回線設備を設置する事業者)や登録電気通信事業者、認定電気通信事業者の事業範囲に含まれる為、これらの事業者がISPを兼ねる場合もある。
日本では1980年代終盤頃からWIDEプロジェクトやJUNETなどが相次いで立ち上がり、企業や大学等が参加する大規模なネットワークが構成され、米国の流れを受けて1990年代に入り多くの商用ISPが発足した。
中継局より離れた場所からインターネットへと接続するためには加入者と中継局とを結ぶ加入者回線が必要となるが、加入者系光ファイバー網をグループで持つ企業には以下が存在する:
また加入者系は特に持たないものの全国の中継系光ファイバー回線をグループで持つ企業として以下が存在する:
その他、国土交通省や自治体や下水道局などの官公庁も光ファイバーを持っており、その中の一部は自らないし子会社を通じてケーブルテレビおよびインターネット接続サービスを提供している。なお加入者光ファイバー回線の所有会社も電柱を持っているとは限らず電柱所有者に共架料を払って維持が行われてるところもあり、また電柱自体も土地所有者に電柱敷地料を支払うことで維持が行われている。
加入者回線からは先は中継交換網(NGNなど)に接続され、中継交換網を通ってインターネット接続サービス提供のためのISP網や仮想通信サービス網(後述)へと接続されることとなる。
上記の加入者回線および中継交換網を使った固定回線によるインターネット接続サービスには主に以下の3つの種類が存在する:
フレッツ光などの加入者回線〜中継交換網とISPの分離サービスにおいては1つの回線で複数のISPを接続することが可能となっている(マルチセッション)。また一部のISPは自社ISP網の障害時のバックアップ用などとして自社ISP網と他社ISP網の同時提供を行うサービスを展開している(ぷららのダブルルートオプション(終了)など)。
また無線インターネットサービスでも固定回線の加入者回線に相当する無線アクセスネットワーク (RAN) や関連設備に相当するコアネットワークが存在する。固定加入者回線を持つ会社の多くは無線アクセスネットワークも提供しているが、コアネットワークを持つモバイルネットワークコード(MNC)の割り当てを受けた会社は少なく、ケーブルテレビ会社自ら提供する無線サービス(地方BWA)では他社のコアネットワークに相乗りすることが多くなっている。自ら無線アクセスネットワークおよびモバイルネットワークコードを持つ企業およびそれを使ったサービスには以下がある:
また無線アクセスネットワークの卸提供を受けてコアネットワーク以降を運用する企業およびサービス(フルMVNO)には以下がある:
なお近年ではコアネットワークを通さずに無線アクセスネットワークから直接インターネットへとデータを転送するローカルブレイクアウトという仕組みを持った基地局も登場している。また企業向け無線インターネット接続では企業内ネットワークの無線区間にプライベートLTEやローカル5G、無線LANや高出力無線LAN等を用いることで最終的に固定系インターネット接続サービスへと繋げることも行われている。
IPトランジットサービスは国際ティア1ネットワークを通して世界のインターネットへの到達性を提供するBGP接続サービスとなっている。
仮想通信サービスはアクセス回線網から世界のインターネットへと繋がる通信網の卸提供サービスとなっている。仮想固定通信は主にフレッツ光のIPoE接続で使われており、仮想モバイル通信は主に携帯電話各社で使われている。
主な仮想固定通信提供者 (FVNE) およびそのサービスには以下が存在する:
また主な仮想移動体サービス提供者 (MVNE) は仮想移動体サービス提供者#日本におけるMVNEを参照。
固定回線の利用者サービスには、ISPが回線事業者からのアクセス回線網の卸提供を受けたもの(コラボ光など)・回線事業者がISPを一体化したもの(コミュファ光プロバイダ一体型など)・分離型のもの(フレッツ光、auひかり、コミュファ光プロバイダ選択型など)が存在する。ISPと回線事業者との組み合わせが1対1であってISPを選択できないようなサービスの場合は、事業分界点としてのPOIは明確にならない。なお一部の回線事業者のサービスはアクセス回線の大部分を伝送路設備保有会社のダークファイバを用いて構築している(自社網外のauひかり、NUROなど)。
またアクセス回線網(NGN網など)からインターネット網への接続には自社ISP網を使ったもの(フレッツ光のPPPoE接続など)と仮想通信提供者(VNE)網の卸提供を受けたもの(フレッツ光のIPoE接続など)が存在する。両方使えるISPも多い。
携帯電話サービス・無線アクセスサービスでも同様にISPが回線事業者や仮想移動体サービス提供者(MVNE)からのアクセス回線網の卸提供を受けたもの(MVNO)と回線事業者がISPを一体化したもの(auやdocomoやsoftbankなど)が存在する。またそれぞれの単純再販も存在する。
インターネットを使用する国際回線では、末端ユーザーがアクセス・プロバイダに、アクセス・プロバイダが上位のプロバイダに使用料を負担する構造となっているが、開発途上国では先進国に対して使用料を負担することとなるため、先進国と途上国との間の情報格差の要因になっているという指摘がある。
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