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人形佐七捕物帳


人形佐七捕物帳


人形佐七捕物帳』(にんぎょうさしちとりものちょう)は、横溝正史作の時代小説シリーズ、またそれを原作とした映画・テレビドラマ作品である。

概要

神田・於玉ヶ池(神田松枝町を経て現在の岩本町2丁目)に住む岡っ引の佐七が、次々と江戸の事件を解決してゆく。よく練られたトリックと冴え渡る推理、一見おどろおどろしい筋立てや濃密な性描写などが特徴である。人情話が主体で、成り行きで解決することも少なくない他の捕物帳ものとは一線を画す。美男で好色な佐七と焼きもち焼きの年上女房お粂との夫婦喧嘩、佐七の子分の江戸っ子の辰と上方っ子の豆六のやりとりなど、ユーモラスな描写もある。

全180編に及ぶ捕物(時代劇)シリーズで、岡本綺堂『半七捕物帳』、野村胡堂『銭形平次捕物控』、佐々木味津三『右門捕物帖』、城昌幸『若さま侍捕物手帖』と並んで五大捕物帳と称される。

2016年までに映画作品が16作品、テレビドラマ8作品が制作されている。

登場人物

佐七
岡っ引。寛政6年(1794年)生まれ。「人形左七」とまで呼ばれる京人形のような美男子ぶりに加え、気風がよく、度胸もある。男ぶりの良さに加え頭脳明晰で数多の事件を解決していることから、町娘たちを始終騒がせており、本人も女好きであるので、恋女房のお粂をやきもきさせている。
横溝によれば、名前は、マキノ・プロダクションの映画シリーズ「佐平次捕物帖」から「佐」、『半七捕物帳』の半七から「七」を一字ずつとったもの。ここから『江戸育御祭佐七』のお祭り佐七、それを演じた十五代市村羽左衛門が連想されたため、美男子だという設定になり、『半七捕物帳』の「津の国屋」に登場する美男の岡っ引き、人形常こと常吉から「人形」を借用して「人形佐七」としたものという。
お粂
佐七の年上の女房。寛政5年(1793年)生まれ。元花魁の美女。佐七とは事件を通じて知り合う。今でも佐七にべた惚れだが、もてすぎる亭主に「お前さん、あたしゃ悔しい!」と悋気が絶えない。佐七に頼まれて捜査に加わることもある。
横溝によれば、名前は、『半七捕物帳』の半七の妹の名をそのまま借用したもの。
辰五郎
下っ引で佐七の手下。寛政8年(1796年)生まれ(なお、同年は辰年である)。通称“辰”“巾着の辰五郎”。江戸っ子気質でそそっかしい。豆六の兄貴分で、上方出身の豆六をからかいながらもかわいがっている。雷が苦手。
豆六
下っ引で佐七の手下。寛政10年(1798年)生まれ(なお、同年は午年である)。うらなりの豆六。馬面。上方の藍玉問屋の子で、御用聞きに憧れて江戸に下ってきた。いまだに上方言葉が抜けず、口達者なので、江戸っ子で兄貴分の辰とは口喧嘩が絶えない。蛇が苦手。
神埼甚五郎
南町奉行所の与力。佐七を手下として、目をかけている。佐七も敬服しており、一時御改革のあおりで甚五郎が御役御免(=リストラ)となったときは、佐七も十手を返上した。
吉兵衛
古顔の岡っ引き。このしろの吉兵衛。音羽周辺を縄張りとする。佐七の父・伝次と兄弟の杯を交わした仲で、現在も佐七の親代わりとして面倒を見ている。
茂平次
岡っ引。通称“海坊主の茂平次”。浅草鳥越を縄張りとする。佐七より20年は年長だが、あからさまにライバル視し、張り合っている。とにかく怪しい奴はしょっ引いて吐かせるという荒っぽい捜査を行う。

お源

辰五郎の伯母。両国のおででこ芝居で下座の三味線をひいている。

シリーズ一覧

このシリーズは多くが短編で作品数が多数であるうえ、新聞、雑誌、単行本を含む多様な媒体で発表されており、改稿再発表も多く、改稿に際して改題した事例や主人公が異なる捕物帳を佐七に改稿した事例もあるため、全作品を網羅することが困難になっている。1973 - 1975年に春陽文庫から刊行された「全集」には150作が収録されたが多数の未収録作品があった。その後の研究で「全集」未収録は30作とされ、2003 - 2004年に刊行された『横溝正史時代小説コレクション』(出版芸術社)に収録された。さらに、2019 - 2021年には春陽堂書店が全180作を発表順に収録した「完本」を刊行した。なお、2006 - 2007年の嶋中文庫も全集未収録作品を含めて発表順に収録しているが、脱落している作品があるうえ中断している。

完 = 完本人形佐七捕物帳(春陽堂書店)
全 = 人形佐七捕物帳全集(春陽文庫)
捕 = 横溝正史時代小説コレクション捕物篇(出版芸術社)
嶋 = 人形佐七捕物帳(嶋中文庫)
[甚] = 不知火甚左(不知火捕物双紙)
[近] = 花吹雪の左近(左近捕物帳)
[鷺] = 鷺坂鷺十郎(鷺十郎捕物帳)
[紫] = 紫甚左(紫甚左捕物帳)
[内] = 不知火甚内(南無三甚内)
[金] = 朝顔金太(朝顔金太捕物帳)
[長] = 松平長七郎
[若] = 智慧若(智慧若捕物帳)
[門] = 服部左門(左門捕物帳)
[伝] = 黒門町伝七(伝七捕物帳)
[文] = お役者文七(お役者文七捕物暦)

収録書籍の書誌情報

  • ほおずき大尽 人形佐七捕物帳全集1(1973年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10601-X)
  • 遠眼鏡の殿様 人形佐七捕物帳全集2(1973年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10602-8)
  • 地獄の花嫁 人形佐七捕物帳全集3(1973年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10603-6)
  • 好色いもり酒 人形佐七捕物帳全集4(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10604-4)
  • 春宵とんとんとん 人形佐七捕物帳全集5(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10605-2)
  • 坊主斬り貞宗 人形佐七捕物帳全集6(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10606-0)
  • くらやみ婿 人形佐七捕物帳全集7(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10607-9)
  • 三人色若衆 人形佐七捕物帳全集8(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10608-7)
  • 女刺青師 人形佐七捕物帳全集9(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10609-5)
  • 小倉百人一首 人形佐七捕物帳全集10(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10610-9)
  • 鼓狂言 人形佐七捕物帳全集11(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10611-7)
  • 梅若水揚げ帳 人形佐七捕物帳全集12(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10612-5)
  • 浮世絵師 人形佐七捕物帳全集13(1974年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10613-3)
  • 緋牡丹狂女 人形佐七捕物帳全集14(1975年 春陽文庫 / 1984年 春陽文庫【新装版】 ISBN 4-394-10614-1)
  • 幽霊山伏 横溝正史時代小説コレクション―捕物篇1(2003年 出版芸術社 ISBN 978-4-88293-241-3)
  • 江戸名所図絵 横溝正史時代小説コレクション―捕物篇2(2004年 出版芸術社 ISBN 978-4-88293-242-0)
  • 人形佐七捕物帳1 嘆きの遊女(2005年 嶋中文庫 ISBN 978-4-86156-344-7)
  • 人形佐七捕物帳2 音羽の猫(2005年 嶋中文庫 ISBN 978-4-86156-345-4)
  • 人形佐七捕物帳3 幽霊姉妹(2005年 嶋中文庫 ISBN 978-4-86156-346-1)
  • 人形佐七捕物帳4 嵐の修験者(2006年 嶋中文庫 ISBN 978-4-86156-347-8)
  • 完本 人形佐七捕物帳 一(2019年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19010-3)
  • 完本 人形佐七捕物帳 二(2020年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19011-0)
  • 完本 人形佐七捕物帳 三(2020年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19012-7)
  • 完本 人形佐七捕物帳 四(2020年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19013-4)
  • 完本 人形佐七捕物帳 五(2020年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19014-1)
  • 完本 人形佐七捕物帳 六(2020年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19015-8)
  • 完本 人形佐七捕物帳 七(2021年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19016-5)
  • 完本 人形佐七捕物帳 八(2021年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19017-2)
  • 完本 人形佐七捕物帳 九(2021年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19018-9)
  • 完本 人形佐七捕物帳 十(2021年 春陽堂書店 ISBN 978-4-394-19019-6)

『横溝正史時代小説コレクション』は「怪奇篇」3編と「捕物篇」3編の併せて6編からなり、「捕物篇」のうちの2編に人形佐七捕物帳が収録されている。

選集など

自選人形佐七捕物帳(角川文庫)

  • 羽子板娘(1977年 角川文庫 ISBN 4-04-130448-2)
    • 羽子板娘 / 恩愛の凧 / 浮世絵師 / 石見銀山 / 吉様まいる / 水芸三姉妹 / 色八卦 / うかれ坊主
  • 神隠しにあった女(1977年 角川文庫 ISBN 4-04-130449-0)
    • 神隠しにあった女 / 好色いもり酒 / 百物語の夜 / 彫物師の娘 / ほおずき大尽 / 春宵とんとんとん / 緋鹿の子娘 / 三河万歳
  • 舟幽霊(1977年 角川文庫 ISBN 4-04-130450-4)
    • 舟幽霊 / 万引き娘 / くらやみ婿 / 女難剣難 / 遠眼鏡の殿様 / 風流六歌仙 / 夜毎来る男 / 恋の通し矢

人形佐七捕物帳傑作選(角川文庫)

「傑作選」と題しているが、初めての読者にも読みやすいよう主要登場人物の初登場作品などを選んだもので、作品としての評価が高いものという選択ではない。

  • 人形佐七捕物帳傑作選(2015年 角川文庫 ISBN 978-4-04-102483-6)
    • 羽子板娘 / 開かずの間 / 嘆きの遊女 / 螢屋敷 / お玉が池 / 舟幽霊 / 梅若水揚帳

人形佐七捕物帳ミステリ傑作選(創元推理文庫)

  • 名月一夜狂言 人形佐七捕物帳ミステリ傑作選(末國善己編 / 2023年 創元推理文庫 ISBN 978-4-488-47821-6)

羽子板娘 / 名月一夜狂言 / 戯作地獄 / 生きている自来也 / 出世競べ三人旅 / 鶴の千番 / 春色眉かくし / 彫物師の娘 / 春宵とんとんとん / 狐の裁判 / 当り矢 / 風流女相撲 / たぬき汁 / 遠眼鏡の殿様 / 呪いの畳針 / ろくろ首の女 / 初春笑い薬

映像化作品

映画

  • 羽子板の謎(1938年、松竹、主演:中村正太郎)
  • 人形佐七捕物帖 通り魔(1953年、新東宝、主演:嵐寛寿郎)
  • 人形佐七捕物帖 めくら狼(1955年、東宝、主演:小泉博)
  • 人形佐七捕物帖 妖艶六死美人(1956年、新東宝、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 大江戸の丑満時(1957年、新東宝、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 花嫁殺人魔(1957年、新東宝、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 浮世風呂の死美人(1958年、新東宝、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 腰元刺青死美人(1958年、新東宝、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 鮮血の血房(1959年、新東宝、主演:中村竜三郎)
  • 人形佐七捕物帖 裸姫と謎の熊男(1959年、新東宝、主演:中村竜三郎)
  • 人形佐七捕物帖 般若の面(1960年、東映、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 くらやみ坂の死美人(1960年、東映、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 血染の肌着(1960年、東映、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 ふり袖屋敷(1960年、東映、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 恐怖の通り魔(1961年、東映、主演:若山富三郎)
  • 人形佐七捕物帖 闇に笑う鉄火面(1961年、東映、主演:若山富三郎)

テレビドラマ

  • 人形佐七捕物帳(1960年、NET、主演:若柳敏三郎)
  • 大衆名作座 人形佐七捕物帳(1965年、NHK総合、主演:松方弘樹)
  • 人形佐七捕物帳(1971年、東宝・NET、主演:林与一)
  • 人形佐七捕物帳(1977年、東映・テレビ朝日、主演:松方弘樹)
  • 時代劇スペシャル 人形佐七捕物帳 死を呼ぶ猫は金の爪(1984年、俳優座映画放送部・映像京都・フジテレビ、主演:片岡孝夫(現片岡仁左衛門(15代)))
  • 人形佐七捕物帳 佐七一番手柄(1990年9月25日、ユニオン映画・テレビ東京、主演:堤大二郎)
  • 人形佐七捕物帳 凶悪けものを追え!江戸の華 美人役者に迫る魔手!(1992年4月7日、ユニオン映画・テレビ東京、主演:堤大二郎)
  • 人形佐七捕物帳(2016年、BSジャパン・バンエイト、主演:要潤)
Collection James Bond 007

漫画

  • 横山光輝が「稚児地蔵」を漫画化している。
  • 秋田書店の『サスペリアミステリー』誌で、2002年から2006年にかけて暁綾子、小川和美、上坂ナオ、佐藤千江子、たまいまきこ、鳥羽笙子、夏見咲帆、ひたか良らの競作でが漫画化された。
  • 田中つかさの作画による漫画が『コミック乱ツインズ』(リイド社)に連載し、同社の単行本(全3巻)が発売されている。

脚注

出典


Text submitted to CC-BY-SA license. Source: 人形佐七捕物帳 by Wikipedia (Historical)