『アイアムアヒーロー』(I Am a Hero)は、花沢健吾による日本の漫画。
漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて、2009年22・23合併号から2017年13号まで連載された。
2016年には野木亜紀子脚本で映画化された。
謎の感染症によって平凡な日常が崩壊する模様を描いたSFホラー漫画。当作品は「生ける死体」を題材とした作品ジャンルの一つではあるが、プロローグ部分として単行本ほぼ一巻分を主人公の日常シーン描写に割いており、連載当初はどういったテーマの漫画なのか分からずよくある日常系の作品と思われていた。
第一巻の半分を過ぎたあたりから徐々に日常が壊れていく様子が描かれ始め、パンデミック後も「日常性の崩壊」と「災害」が仔細かつ淡々と描かれる。さらに主人公を始め様々な形で「これまでの社会に劣等感を抱いていた者」を中心として、不条理に対する人々の行動へスポットを当てている。
マンガ大賞2010で4位、マンガ大賞2011で3位。第58回(平成24年度)小学館漫画賞一般向け部門受賞。2021年11月時点で累計発行部数は830万部を突破している。
2016年に実写映画が公開。制作発表時には、作中の感染者を表すZQNが「ゾンビ」だと表現された。
主人公・鈴木英雄は、冴えない35歳の漫画家。デビュー作は連載開始から半年で早々と打ち切りに遭い、借金まで背負いアシスタントとして働きつつ再デビューを目指していた。ネームを描いては持ち込みを続ける日々も3年経ち、出版社にはほとんど相手にされない悶々とした日常を過ごしている。そうした無為な日々の中での救いは、恋人である黒川徹子の存在。だがその彼女も、既に売れっ子漫画家となった元彼を何かと引き合いに出し、酔うたびに英雄の不甲斐なさを詰る始末であった。
そんなある日、全国的に「噛み付き事件」が多発する。町に増えてゆく警官の数、さらには厚労相が入院してその入院先で銃撃戦が起こるといった報道が立て続けになされる。英雄も深夜、タクシーに轢かれ両腕と右足が潰れて首が真後ろに折れながらも、タクシーの運転手に噛み付き奇声を発して立ち去る女性を目撃していた。
やがて周囲の人々がゾンビのような食人鬼と化す謎の奇病が蔓延し、「ZQN」と呼ばれる感染者たちが街に溢れる。恋人や仕事仲間も犠牲となり、都内から逃亡した英雄は富士の樹海で女子高生・早狩比呂美、御殿場のアウトレットモールで看護師・藪(小田つぐみ)と出会い行動を共にする。
半感染状態となった比呂美の免疫力を「人類の希望になるかもしれない」と考えた小田の提言から、一行は東京方面を目指していく。
引きこもり・江崎崇は、ネット上の匿名掲示板を介して来栖と呼ばれる人物が率いる一派に加わり、アジトへと招かれる。一派はZQNの生態を観察しながら生活していた。近隣の中学校に生存者がいると分かり偵察の準備中、ZQNがアジトへ侵入し仲間の一人が感染。そして身を挺する形で噛まれた江崎は半感染となる。アジトを追われた一派は中学校へと移動、そこで「ZQNの巣」と遭遇する。江崎は同じく半感染だったスコップの男と出会い、来栖をも巻き込んだ半感染者たち三つ巴による戦いの結果、勝利を納めた。来栖へ成り代わった江崎は久喜幕府を名乗り、一派を率いて東京に向かう。
漫画家・中田コロリは池袋の高層ビルに籠城し、補給隊隊長としてガソリンを集めさせられていた。高層ビルの支配者であり「浅田教」を主宰する浅田曰く、脱出用ヘリコプターの燃料として必要だという。コミュニティに不満を抱いていた隊員たちからコロリはクーデターを持ち掛けられるも、不安要素が多く実行へは移せずにいた。コロリが悩んでいたその最中に久喜幕府がヘリコプターを奪取するため、高層ビルのコミュニティを襲撃。その際に大量のZQNたちがビル内へ流れ込み、さらには火災も発生し大混乱に陥る。各々が屋上のヘリコプターを目指して戦闘の末、高層ビルから脱出した。
人間とZQNを交えた戦いは終結し、街には草木が生い茂る。英雄はただ一人、廃墟と化した池袋で生き延びようと新たな日常を始めていた。
名前の読みや本名(フルネーム)は明確に判明していない限りそのまま表記する。
病状が発症すると、全身の血管が浮き出た外見となり、感染していない人間(非感染者)に噛みつきで襲いかかる。発症後は驚異的な身体能力を持つ。指で自分の目をつぶすなどの自傷行為に及ぶことがあり、車にはねられたり階段や高所から落ちたりしても、何事もないかのように動き回る。また四足歩行(ブリッジ姿勢)で走るなど肉体的に不可思議な行動をとる者もいる。
例外的に比呂美や江崎など発症後も生体としての死には至らず意識を保っている者もわずかに存在する。発症後は驚異的な身体能力を持ち、興奮状態になると右目および顔面右側に血管が浮き出た外見になる。また半感染者同士での意思疎通やZQNのコントロールなども可能となる。
現実社会と同じく銃刀法が敷かれた日本を舞台としているため、同じジャンルの作品とは異なり銃器類がほとんど登場せず、生存者は国内でも比較的入手が安易な日用・農業用・狩猟用・スポーツ競技用の道具類を武器として転用している。コミュニティ毎に装備の特色があり、近隣のホームセンターや専門店から調達していることがうかがえる。
内容は各漫画家による本作品がトリビュートされたアンソロジー作品。『週刊スピリッツ』(2016年12月号)より順次掲載されたものをコミックス発売された。2016年4月12日発売、ISBN 978-4-0918-7588-4
映画化を記念して刊行されたアンソロジー小説集。カバーイラスト:花沢健吾、ブックデザイン:鈴木成一デザイン室。2016年4月発売、ISBN 978-4-09-187678-2
2016年4月1日より「dTV」にて配信されている。
2016年4月23日より全国東宝系にて公開。主演は大泉洋。R15+指定。この作品を収録したDVD版とBlu-ray版もある。
静岡県浜松市および韓国のアウトレットモールにおいて2014年夏に撮影が行われた。
韓国ロケ中においては発砲シーンで実銃が使用され、主演の大泉は本物の散弾銃の撃ち方や構え方をトレーナーの指示を受けながら練習していた。
『アイアムアヒーロー はじまりの日』(アイアムヒーロー はじまりのひ)と題した映画版のスピンオフ作品で、長澤まさみ演じる藪(小田つぐみ)が主人公となる。2016年4月から「dTV」で配信。「アイアムアヒーロー」の前日譚で小田つぐみの看護師時代のエピソードが描かれている。
2016年3月から東京水道橋にある常設スタジオ後楽園ヒミツキチオブスクラップにてSCRAP主催の体感型謎解きイベントであるリアル脱出ゲーム『ある病院からの脱出』が約5か月のロングランで開催。参加者は受付時に貸与したタブレット端末に表示される情報を頼りに様々な謎を駆使して、1時間以内に廃墟になった病院内をくまなく探索し、ZQNを銃殺(脱出)することがクリア条件。また制限時間内にクリアできなかった場合でも追加料金を支払うだけで制限時間を延長してもらえるサービスを導入している。
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