ジオン公国(ジオンこうこく、Principality of Zeon)は、宇宙世紀を舞台とする『ガンダムシリーズ』に登場する架空の国家である。ジオン共和国(初代)の後身。『機動戦士ガンダム』では、主人公アムロ・レイが所属する地球連邦軍に敵対する勢力として登場する。
地球周回軌道上で、地球からは最も遠い月の裏側、ラグランジュ点のうちL2点(直線解)付近に位置するサイド3に本拠を置くスペースコロニー国家。首都はズム・シティ。ジオニズムを国是と称するが、国政を掌握するザビ家的解釈によるジオニズムは「人の革新」を「選民」としている。形式的には国家元首は公王のデギン・ソド・ザビで、ダルシア・バハロ首相が政府の首班である。しかし、実質的には公王の子息のギレン・ザビが総帥として国政の実権を掌握している。
総人口は1億5000万で、100億を超える地球圏の総人口の大半が連邦に帰属する中では(月面都市群やサイド6等の中立地域の存在を考慮しても)圧倒的に不利な状況にあり、国力も「地球連邦の30分の1以下」であるとされる。しかし優秀な将兵や優れた軍事技術を保有しており、特にミノフスキー物理学時代の申し子であるモビルスーツを連邦に先駆けて実用化したことにより、公国軍は極めて精強で一時は連邦を圧倒する活躍を見せた。
主な産業は製造業で地球連邦向けの輸出で潤う一方、資源は不足しており資源開発に多大な投資を行ってきた。宇宙世紀0034年には資源枯渇による急激なインフレが発生し、翌0035年には通貨危機が発生。0042年には工業生産力がピーク時から4割低下し、混乱した国民が強い指導者を求めた結果ザビ家の独裁政治を許す布石となった。その後、奇跡的に経済は持ち直すが国民の資源枯渇に対する恐怖は、資源を多く持つ地球との対立へと国を導く。
宇宙世紀0050年代、宇宙移民者(スペースノイド)たちの間に、被抑圧者階級としての自覚が高まってきていた。新たなフロンティア開拓の美名のもと、人々(=労働者)は宇宙で暮らし始めたが、“地球環境保全のため人類の生活圏を宇宙にシフトさせる”という理念は結果的に破られた。第1期移民が完了した時点で、移民はストップしてしまう。地球連邦の利権に群る政治家・官僚や富裕層は、宇宙より生活環境の安定している地球に居残り続けたのである。これは、先行して地球に別れを告げた移民者たち=スペースノイドにとって裏切り行為にほかならなかった。さらに連邦政府は各コロニー・サイドを「植民地」扱いし、コロニー公社などの特殊法人を通じてありとあらゆる重税を課すなどの多くの搾取を行うようになった。
このような状況の中、地球を自然のままそっとしておくべきとする「地球聖地論(エレズム)」と、宇宙生活で独特の視野を得た宇宙生活者の自治権確立をうたう「コントリズム」を融合した思想(後の「ジオニズム」)を唱えて、ジオン・ズム・ダイクンがサイド3にて政治活動を始める。やがてその運動はサイド3全域に広がり、宇宙世紀0058年に単独での自給自足が可能となった時点でジオン共和国の成立が宣言され、同時にジオン国防隊(国軍の前身)を設立させた。ダイクンは連邦政府との自治権をめぐる問題は、武力による実力行使ではなく、あくまで平和的に対話で解決しようとしていたと言われるが、実態は不明。宇宙世紀0059年、地球連邦政府はジオン共和国に経済制裁を実施し、両者の対立は深まっていった。
安彦良和による漫画・アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、当初の国名はムンゾ自治共和国 (Republic of Munzo) とされ、ダイクン死去後の0071年にジオン自治共和国 (Republic of Zeon)と変更したとされる。
宇宙世紀0068年、ジオン・ダイクンが死去。ダイクンの死後、共和国は彼の側近であったデギン・ソド・ザビが引き継ぐことになった。デギンはそれまでのダイクンのやり方を一変させ、連邦との実力行使も辞さない独立を目指すべくダイクン派を一掃し、ザビ家による独裁体制を敷き、共和制から君主制に移行して自らは「公王」に即位した。ジンバ・ラルは幼いキャスバル(シャア)とアルテイシア(セイラ・マス)を連れて地球へ脱出した。
デギンは革命の英雄ジオン・ズム・ダイクンの思想を継いだ正統な後継者であることを対外的に宣伝するため、国号自体は変えずにジオン公国とした。デギンの長男ギレン・ザビはダイクンの思想を先鋭化させ、地球連邦政府に対する開戦準備を着々と進めていくこととなる。さらに、デギンはダイクンの正当な後継者であると周囲に印象付けるために、首都の名前を、ダイクンのミドルネームから取ってズム・シティとした。
『THE ORIGIN』では、公国制移行および連邦からの独立宣言は0078年10月24日とされる(具体的な日付はアニメ版より)。
ジオン公国は宇宙世紀0079年1月3日、地球連邦政府に対して、完全な独立を求めて宣戦布告。のちに一年戦争と呼ばれることになるこの戦いの初期、ジオン公国軍はザクIIなどのモビルスーツを中心とした戦力や「コロニー落とし」の戦術でモビルスーツを持たない連邦軍を圧倒し、サイド1・サイド2・サイド4・サイド5の各スペースコロニーを壊滅させ、本来同胞たるはずのコロニー住民を、武装・非武装問わず虐殺するに至り、一説に地球圏の総人口の半数を死滅させたと言われる。
これほど大規模な虐殺を行ったのは、宇宙世紀の世界観では前にも後にもジオン公国のみである。またコロニー落下の影響により、地球環境は甚大なダメージを被った。核兵器の使用禁止などを盛り込んだ南極条約の締結後は、戦線は膠着するもすみやかに地球に侵攻、鉱物資源の確保等、戦争の長期化に備えた。
しかし、連邦軍もV作戦を発動して独自にモビルスーツを開発。同時に宇宙艦艇の再建等で戦力を増強した連邦軍に徐々に押され、最終的にはジオン本土(サイド3)に対する最終防衛ラインであるソロモンとア・バオア・クーを失陥した。また、ザビ家一族も不和・内紛からまだ幼いドズル・ザビの娘ミネバ・ラオ・ザビ一人を残して全員が死亡してしまった。
議会によって共和国に衣替えしたジオン共和国は、宇宙世紀0079年12月31日18:00、サイド6を通じて連邦政府に休戦を申し入れ、連邦政府は即座にこれを受諾、宇宙世紀0080年1月1日、月のグラナダにて地球連邦政府と終戦協定を結び、同年2月18日終戦条約(グラナダ条約)を締結した。
ジオン共和国の投降勧告に従わなかったジオン公国軍残存勢力は地上においてはアフリカ、宇宙においては暗礁宙域やアクシズなどの小惑星群などへ撤退し、再起へ向けて地下勢力化していく。宇宙世紀0083年にはこうした勢力の一つデラーズ・フリートが反乱を起こし、ジオン残党の存在をアピールした。
アクシズでは、ザビ家の遺児であるミネバ・ラオ・ザビの存在からジオン公王家が保護されていたとなっている。侵攻してきた連邦軍を撃退し独立を守ったことから、アクシズ政府内部では、自身を「ジオン公国」と捉える意識が強い。本国であるジオン共和国についても、事実上連邦の植民地とみなしていた。
一年戦争後からサイド3で存続していたジオン共和国は、グリプス戦役(『機動戦士Ζガンダム』の作中)においてはティターンズに協力させられていたが、第一次ネオ・ジオン抗争(『機動戦士ガンダムΖΖ』の作中)ではネオ・ジオン(アクシズ)に吸収されてしまう。そして、それまで形式的な自治を認められていたものの、宇宙世紀0093年の第二次ネオ・ジオン抗争を経て、0100年に自治権を放棄。正式に地球連邦政府の傘下となる(『機動戦士ガンダムUC』では0096年の段階でジオン共和国の自治権返上が決定している)。
また、地球に潜伏するジオン兵の中では長きにわたる潜伏とデラーズ・フリートやアクシズの度重なる決起の失敗に加え、ハマーン・カーンやシャアといったカリスマが姿を消してしまったためにジオンの求心力と独立の機運が衰え、スペースノイドの自治が連邦に一矢報いるという手段と目的の混在にまで至っている。
総司令官は総帥でもあるギレン・ザビ。ミノフスキー粒子による有視界戦闘に対応し、多数のモビルスーツを搭載できる艦艇を中心とした部隊編成で、開戦当初は古い戦術のままであった連邦軍を圧倒した。『機動戦士ガンダム』の段階では、ドズルの宇宙攻撃軍、キシリアの突撃機動軍、ガルマの地球方面軍といった設定しかなかったが、後に制作されたOVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』や『機動戦士ガンダム MS IGLOO』シリーズで描写されることで、組織が増えていった。
ジオン公国軍では、名を上げた者(例えばシャア少佐など)には軍服のカスタマイズや、パーソナルカラーの使用が許された。これは士気高揚とプロパガンダの両方を兼ねており、彼らの活躍と異名は総帥府のプロパガンダ放送を通じて地球圏全域に広く宣伝された。
徽章は所属部隊を表すもので、ジオン公国軍将兵のほぼ全員が着用する。将校は金属製、下士官兵はフェルト製である。将校帽用国家徽章、親衛隊帽章、MSパイロット徽章、MSパイロット帽章、ペーネミュンデ徽章、ジオン海兵隊徽章、宇宙艦艇乗組員徽章、地上部隊用帽章が確認されている。
ジオン公国軍の勲章について初めて言及したのはシャア・アズナブルである。テレビ版第6話にてガルマ・ザビに対し、ホワイトベースを撃破すれば「ジオン十字勲章ものだ」と語った。後に多くの勲章があると設定された。1級ジオン十字章、2級ジオン十字章、ブリティッシュ作戦功労章(人間の右手がコロニーを握っているデザインに「B」の組み合わせ)、ルウム戦役シールド(直立したコロニーと「ROUM」文字の組み合わせ)、第一次降下作戦シールド(地球とHLVの組み合わせ)、宙雷戦功章(剣と大型ミサイルを交差し、その上にジッコが描かれる)、白兵戦功章(ナイフと柄付手榴弾が交差し、その上にジオン公国紋章)、戦傷章(ジオン公国紋章のついたヘルメットが描かれたワッペン)などがある。
首相や議会が存在し、一応は野党も存在していることなどから、建前としては立憲君主制・議院内閣制とみられる。ただしダルシア首相は自ら「傀儡に過ぎない」と言っており、また議会もギレンの影響下にある。実質はザビ家の独裁政治であった。作中のデギンとギレンの会話より、このような独裁体制の導入はギレンの主導によるものとみられる。
元首は「公王」であるが、これは2種類の君主号である「公」と「王」を合成した本作品オリジナルの造語であり、本来どの言語にも見られない言葉である。「公国(Principality)」とは「皇帝(Emperor)」を君主とする「帝国(Empire)」、「国王(King)」を君主とする「王国(Kingdom)」に対して、「Prince(大公、公爵など)」を君主として戴く国家のことである。実在の公国としてはモナコ公国などがある。「公国」の項も参照。
一年戦争後、公国軍のエースだったシャア・アズナブルは、一時はミネバ・ラオ・ザビを守るためにアクシズに公国軍残党勢力を連れて後退したが、ハマーン・カーン達ミネバの侍女連中による謀反騒動に嫌気が差して離脱した。 その後、地球連邦軍の准将「ブレックス・フォーラ」を中心とした反地球連邦政府組織『エゥーゴ』の立ち上げに従事し、組織内にはシャアだけでなく元ジオン公国兵も少なからず存在した。
宇宙世紀0200年頃には、宇宙移民者独立運動のリーダーとして伝説となったシャアの思想に共鳴した人間達が作り上げた組織『ズィー・ジオン・オーガニゼーション』が登場する。その組織はジオン公国とは関係がないのだが、構成員の中にはジオン公国の信奉者も存在した。
一年戦争終戦後も、ジオン公国の名を標榜する残党組織は多数登場している。彼等はジオン共和国には加わらず、独自に反地球連邦政府活動を行っていた。
その闘争は、宇宙世紀0083年、宇宙世紀0087~0089年、宇宙世紀0093年、宇宙世紀0096~0097年と散発的に続いた。 最終的に宇宙世紀0120年から宇宙世紀0122年にかけての火星独立ジオン軍の武装闘争とその壊滅(オールズモビル戦役)で終結する。
『機動戦士ガンダム』作中で「ジオン訛り」という単語が現れる。テレビ版第28話でホワイトベースに潜入したフラナガン・ブーンが、同時に潜入したキャリオカに言うセリフであり、「訛りがひどいため喋るな」と作中で指摘している。
この設定は後に『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』第4話においてバーナード・ワイズマンが連邦軍基地に潜入した際にも用いられ、訛りと会話内容の間違いからジオン兵であることが判明してしまう。このシーンではバーナードのジオン訛りがオーストラリア訛りと勘違いされていた。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』第3話においても、ガトーがジオン残党軍のユーコン級潜水艦に乗り込んだ時に、「久しぶりにジオン訛りを聴いた」と懐かしむシーンがある。
また、OVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO -1年戦争秘録-』第2話では、鹵獲した陸戦型ザクIIに搭乗してジオン兵を装った連邦軍特殊部隊セモベンテ隊のフェデリコ・ツァリアーノ中佐の声に、ジオンの警備兵が「ひどい訛り」と指摘している。もちろんジオン兵を装うための偽装であると思われる。
ただ、いずれの作品においても、劇中での会話は全て日本語であり、視聴者が耳で聞いて特徴的な訛りを理解できるような演出はなされておらず、またジオン訛り自体についての公式設定も存在しない。唯一の例として、OVA『MS IGLOO』の没案、および同作漫画版において地球連邦軍量産型モビルスーツの名前「ジム」(GM)の発音は、ジオン読みでは「ゲム」であるとされており、あたかもジオン訛り≒ドイツ語であるかのように設定されている。また、同作漫画版には連邦からジオンに亡命した際にドイツ語風に改姓した登場人物もいる。
近年の映像作品では、ドイツ語風の名前を持つ将兵や、ドイツの都市や北欧神話を艦名の由来に持つ艦船が多数登場している。
なお、『ポケットの中の戦争』北米版ではケンプファーのパイロットであるミハイル・カミンスキーがロシア語訛りの英語で話すという演出がなされているが、ジオン訛りとは関係ないようである。
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