ヨグ=ソトース(英: Yog-Sothoth)は、クトゥルフ神話に登場する架空の神。
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品に登場する存在。「存在」ではなく「空虚」(void)とも表現される。T.S.ミラーの学術論文によると、ラヴクラフトの描写は汎神論的であり、果てしない全ての物事や時間さえもが「神」(ヨグ=ソトース)の一部分とされている。森瀬繚の『図解 クトゥルフ神話』によると、ヨグ=ソトースとは「時空の制限を一切受けない最強の神性にして『外なる神』の副王」だとされる。この神性は過去・現在・未来を、全存在(旧支配者や「外なる神」さえ)をも含有しており、かつあらゆる時間・空間と共に存在している。ラヴクラフトの『銀の鍵の門を越えて』では、ヨグ=ソトースに関して「始まりも終わりもない。」とされ、「かつてあり、いまあり、将来あると人間が考えるものはすべて、同時に存在するのだ。」とされている。
等もヨグ=ソトースと呼ばれる。主人公のランドルフ・カーターが出会った際には、次のように描写されている。
オーガスト・ダーレスによって体系化されたクトゥルフ神話において人間に害をなすと位置付けられた旧支配者・外なる神の一柱である。
『ダニッチの怪』にて人間の女性と子をなした事は、ヤハウェの見立てと考察されており、新潮文庫2019年版にて翻訳を行った南條竹則も文庫巻末にて解説している。正確には子の方に視点を置いて、ヨグ=ソトースを父と呼ぶ怪物をイエスになぞらえていると言い、ブラックユーモアと付け加えている。またリチャード・L・ティアニーのThe Drums of Chaosではヤハウェの正体をヨグ=ソトースとし、イエスはヨグ=ソトースの落とし子であるという設定になっている。この作品における旧神は酷薄な支配者であり、宇宙を破壊して一切を旧神の抑圧から解き放つことがヨグ=ソトースとイエスの目的であるとされる。
日本語への翻訳(音訳)による表記ブレがある(例:ヨグ=ソトホート、ヨグ・ソトト、ヨグ・ソトホース)。また本質的には人間に発音できない名称であり、なんとか人間の言語で表記したものがYog-Sothothなのだという。これらはクトゥルフ神話の存在としてはスタンダードな設定。ハイパーボリアでは「Yok-Zothoth(ヨク=ゾトス)」、アヴェロワーニュでは「イォグ=ソトース(Iog-Sothoth)」の訛りで呼ばれた。
別名や形容も多数。以下は代表例。
(The All-in-One, The One-in-All)
定まった形を持たない、神聖な超越神。
だが具体的に顕現する姿は、「絶えず形や大きさを変える虹色の輝く球の集積物」、「一つ一つが太陽のように強烈な光を放つ玉虫色の球体の集積物」として知られる。ただしこの姿はあくまで表面であり、本体はその奥にいる、触角を持つ粘液状の怪物であるという。
銀の鍵を用いて第一の門を通り抜けると、「旧きものども」が窮極の門を守護している。旧きものどもの筆頭はヴェールをかぶったウムル・アト=タウィルであり、彼はヨグ=ソトースの化身であるとも代理者であるともいわれている。リン・カーターによると、ウムル・アト=タウィルはかつて他の魔道士と同様にヨグ=ソトースの崇拝者として窮極の門を訪れ、ヨグ=ソトースに仕えるために自己を抛って旧きものどもの統領にまで上り詰めたのだという。
現在よく知られている「虹色の球体」という姿は、ダーレスの『暗黒の儀式』およびレイニー/カーターの辞典で広まったものである。考えたのはラヴクラフトであるが、ちらりと言及した程度でありヨグ=ソトース自体を登場させてはいない。ラヴクラフトは『ダニッチの怪』では、ウェイトリー家のおぞましい双子を指すことで父神の実態をほのめかしている。また友人宛の手紙では「思い通りの姿をとれる」「気体にも液体にも固体にもなれる」「触腕ある姿を好む」などと述べている。
ラヴクラフトはその作品中でヨグ=ソトースの性格を具体的に語ってはいないが、ウィリス・コノヴァーに宛てた1937年1月10日付の書簡に「執念深い傾向で有名」と記述している。また、当時ラヴクラフトらと仲が悪かったフォレスト・J・アッカーマンにヨグ=ソトースをけしかけることをコノヴァーが提案したときは「蠅を潰すような仕事を外宇宙の不滅なる魔神にやらせるとは失礼千万だと断られてしまいました」と返信した。
クトゥルフ神話には神々の系譜がある。ラヴクラフトが友人に宛てた手紙で冗談めかして語っている。
ラヴクラフトの系譜によると、アザトースが3つの存在「ナイアーラトテップ」「無名の霧(Nameless Mist)」「闇」を生み出し、無名の霧からヨグ=ソトースは生まれたとされる。ヨグ=ソトースは雄性・男性神格である。また闇からはシュブ=ニグラス(雌性)が生まれており、クトゥルフなど旧支配者の多くが、ヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスの子孫にあたる。ユーノーに浮気を知られたときのユーピテルのように、ヨグ=ソトースも気まずい思いをするときがあるに違いないとラヴクラフトは1936年9月23日付のコノヴァー宛書簡で述べている。
リン・カーターの系譜によれば、ラヴクラフト同様にアザトースの子だが、兄弟的存在が異なる。続いてヨグ=ソトースの異母子達がクトゥルフ、ハスター、ヴルトゥーム、ツァトゥグァ。
後続作者らは神々の系譜を設定変更しているが、邪神達の祖を遡ればヨグ=ソトースに行きつくという設定は大枠で共通しており、ヨグ=ソトースが父なる男神ということは一貫している。ヨグ=ソトースは時空を超えた超越神として言及されているが、また一方では実体があり、子孫にあたる存在が多数いる。
オーガスト・ダーレスは、『永劫の探究』の第4・5部において、シュリュズベリイ博士のセリフに仮託して、ヨグ=ソトースを最強の旧支配者と呼んだ。ヨグ=ソトースは四大霊では大地の神に分類される。四大霊と大地の神ヨグ=ソトースを広めたのはレイニー/ダーレス/カーターの3人であるが、カーターは最終的にヨグ=ソトースなどを、かつて地の精とされたのは誤りであり四大霊を超えた第五元アイテールであると訂正している。
ブライアン・ラムレイの系譜では、邪神の王クトゥルフに次いで強大な邪神とされる。クトゥルフとヨグ=ソトースに対応する旧神として、クタニドとヤード=サダジがいる。ヤード=サダジの姿は、黄金色に輝く球体の集積物として描写される。
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