プロスタグランジンE2(英: Prostaglandin E2, PGE2)は生理活性物質であるプロスタグランジンの一種であり、PGE受容体を介して発熱や破骨細胞による骨吸収、分娩などに関与している。医薬品(ジノプロストン)としては陣痛促進や治療的流産に用いられる。
PGE2の命名法はプロスタグランジン類に共通するものであり、五員環部分の9位にオキソ基と11位にヒドロキシル基、側鎖部分の15位にヒドロキシル基を有するので“E”、5位、13位の2箇所に二重結合を有するので“2”とされる。
PGE2をはじめとしたエイコサノイドは炭素数20の不飽和脂肪酸を原料に生合成されることが知られており、食物由来物質の中ではアラキドン酸の含量が多い。このことからエイコサノイドの合成系をアラキドン酸カスケードと呼んでおり、PGE2も精嚢腺や肺などにおいてアラキドン酸から生成される。
アラキドン酸カスケードでのPGE2合成反応は以下の4段階に分けられる。1) 生体膜のリン脂質のsn2位にエステル結合しているアラキドン酸がホスホリパーゼA2 (PLA2) と呼ばれる酵素により切り出される。2) 遊離したアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ (COX) により代謝されPGG2になる。この際、アラキドン酸がリポキシゲナーゼ (LOX) による代謝を受けるとロイコトリエンの合成系に入っていくが、本題から外れるため詳述しない。3) さらにPGG2はPGH2に変換され、この反応もCOXが担う。つまり、COXの関与する反応はアラキドン酸→PGG2とPGG2→PGH2の二段階であり、前者をシクロオキシゲナーゼ反応、後者をヒドロペルオキシダーゼ反応と称する。4) プロスタグランジンE合成酵素 (PGES) の働きによりPGH2からPGE2が作られる。
ホスホリパーゼA2はリン脂質を脂肪酸とリゾリン脂質に加水分解する酵素である。PLA2には細胞質PLA2 (cPLA2)、分泌型PLA2 (sPLA2)、Ca2+非依存性PLA2 (iPLA2)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ (PAF-AH) 群およびアディポサイトPLA2 (AdPLA2)が存在しており、その中でもcPLA2の一種であるcPLA2αが最もアラキドン酸含有のリン脂質に対して選択性が高く、PGE2の産生において重要である。cPLA2αの活性は細胞内Ca2+の濃度上昇により制御されており、cPLA2αのアミノ基側末端に存在するC2ドメインと呼ばれる配列にCa2+が結合することによりcPLA2の細胞質から細胞膜下への移動が起こり、細胞膜を構成するリン脂質を捕捉できるようになる。また、cPLA2のリン酸化も重要であり、Ser505、Ser515、Ser727の部位がMAPキナーゼやCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ-2(CaMK2)などの酵素によりリン酸化されることで酵素活性が2-3倍に上昇する。リン酸化が酵素活性を増大させるメカニズムは十分に明らかになっていないが、Ser505のリン酸化はcPLA2αの細胞膜からの解離を遅らせるという報告もある。
PGESはPG合成系の中間体であるPGH2から生理活性化合物であるPGE2への代謝反応を選択的に触媒する酵素である。PGESにはmPGES-1、mPGES-2およびcPGESの3種類が存在しており、それぞれ特徴が異なる。
プロスタグランジン受容体はいずれも細胞膜7回貫通型のGタンパク質共役受容体であり、PGE2受容体も例外ではない。一般にPGE受容体のことを"EP"と略して称することが多いため本稿でもそれに従う。
EPにはこれまでに少なくとも4種類のサブタイプ (EP1~EP4) の存在が報告されており、いずれもPGE2に対して反応性が高い。EP3には選択的スプライシングにより産生される数種類のアイソフォームが存在している。
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