ディープ・インパクト (Deep Impact)は、アメリカ航空宇宙局 (NASA)のディスカバリー計画の一環として行われていた彗星探査計画、または探査機の名前である。
ディープ・インパクトは、2005年1月12日の打ち上げ以降、173日をかけて約4億3100万キロメートル (km)を旅したのち、テンペル第1彗星に向けて、重さ約370キログラム (kg)の衝突体(インパクター)を発射した。衝突体は、米東部夏時間の7月4日午前1時52分に彗星に衝突した。衝突時のスピードは時速約3万7,000キロメートル (km/h)だった。
2007年以降は、名称をエポキシに変えて運用が続けられ、2010年11月4日にはハートレー第2彗星に接近して観測を行った。その後も延長ミッションが続けられていたが、通信が途絶えて復旧できなくなったため、2013年9月20日に運用が終了したことが発表された。
この計画は、テンペル第1彗星に重さ370kgの銅とアルミニウムからなる合金製のインパクターを撃ち込み、その衝突によってできるクレーターや飛び散る塵から彗星の内部構造を調査するというものである。彗星の内部構造の解明、またその観測データからの太陽系や惑星誕生のメカニズムの解明が期待されている。
観測は、探査機に搭載されたカメラ・赤外線スペクトロメータで行われた。また、ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、その他数々の地上の望遠鏡からも可視光線や赤外線などによる観測が行われた。
インパクターには、人工知能が与えられ、搭載されているカメラで目標である核の画像を撮影、自ら解析し、もっとも効果的な観測が可能だと思われる地点(太陽光が当たる“昼”の部分で出来るだけ平坦な箇所)に衝突するように姿勢制御を行うように設計された。
NASAは、「彗星に名前を届けよう」というキャンペーンを企画した。これは、世界中から有志の名前を募集し、集まった名前をコンパクトディスクに書き込んで彗星に届けるものである。名前を書き込まれたCDは、インパクターに搭載されて彗星に衝突した。
当初の目標を達成したディープ・インパクトは、2007年より名称をエポキシ (EPOXI)に変更して活動を続けた。この計画は探査機に搭載された望遠鏡を用いて太陽系外惑星の観測を行う Epoch (Extrasolar Planet Observation and Characterization)と、新しい彗星の接近観測を行う DIXI (Deep Impact eXtended Investigation)の2つのミッションから構成されている。ディープ・インパクトを再利用したことで、計画は4,000万ドルの低予算で実現された。
2013年8月8日に衛星との最後の通信を行った後、交信ができなくなった。当時はアイソン彗星の観測を行うなど、週に1回の断続的な運用が行われていたが、衛星の姿勢が回転し、制御不能で通信ができない状態となった。NASAは復旧の努力を続けたが、2013年9月20日に公式に運用終了を発表した。
2011年2月、テンペル第1彗星にNASAの別の探査機スターダストが訪れ、ディープ・インパクトによる衝突実験の痕跡や彗星の変化を調べた。スターダストはディープ・インパクトより古参(1999年打ち上げ)の彗星探査機で、2006年に宇宙塵サンプルリターン任務を達成した後に、延長ミッションとしてテンペル第1彗星に訪れたものである。
ロシアの占星術師マリーナ・バイは、ディープ・インパクトによる彗星の破壊で、宇宙の自然のバランスが破壊されたとして、2005年7月にNASAに対して精神的損害への賠償として約90億ルーブル(約350億円)を求める訴訟をモスクワで起こした[2]。
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