大相撲八百長問題(おおずもうやおちょうもんだい)は、2011年に発覚した日本相撲協会の現役の大相撲力士による大相撲本場所での取組での八百長への関与に関する問題である。
大相撲の八百長とは、主に本場所での取組で力士同士が白星を金で売買する故意の敗退行為である。携帯電話のメールでやり取りしていたとされ、勝ち負けのほかに取組での具体的な戦い方の内容についてもやり取りしていたとされるもので、数十万円の金銭がやり取りされたと報道されている。実際の取組ではメールのやり取り通りの内容になったことが明らかになっている。
前年2010年に起きた大相撲野球賭博問題の捜査において、賭博に関与した力士から証拠として押収した携帯電話のメールを調べていて、発覚した問題である。大相撲の八百長に関する疑惑は、週刊ポスト(小学館)が「角界浄化キャンペーン」と称して元力士の告発などの形態で1980年代から30年にわたって報じており、週刊現代(講談社)も後の2008年になってこれを取り上げるなどしてきたが、相撲協会は一貫して八百長があることに関しては否定し、週刊現代に対しては複数の協会員が訴訟を起こし、勝訴した(2011年以前の八百長疑惑問題については八百長#大相撲も参照)。発覚当日の理事長による会見でも「過去には八百長は一切なく、新たに出た問題」と発言している。
前年に発覚した野球賭博などの賭博罪と違い、大相撲の取組で力士が八百長行為を行うことは直接には法律に違反しない。八百長が疑われた取組で賭博が行われれば賭博容疑で捜査となるが、この日明らかになった取組では賭博行為は見当たらなかったとされている。
しかし2月3日に枝野幸男内閣官房長官は記者会見で、この問題が起きたことで日本相撲協会の公益法人化に難色を示す発言をしており、公益認定等委員会を所管する蓮舫・行政刷新会議担当相も「公平なルールで競技が行われないのでは、公益法人認定の要件を満たしているとは言えず、現段階で(公益法人認定は)厳しい」旨の発言をしている。
公益財団法人化にも否定的な意見が増えたのみならず、協会の解体も視野に入るほどとなり、協会は民間の格闘技団体になるしかないとの見方も出始めた。
この問題を受けて、相撲協会は発覚した翌月に行われる春場所(大阪場所)中止を決定した。
この問題が改めて表面化した時期は2011年2月2日、2010年7月に野球賭博問題での捜査で警視庁が押収した力士の携帯電話中のデータ(消去されていた電子メールも復元)を調べていたが、その過程で13人の名前が発覚した。これを受けて相撲協会はそのうち12人から事情を聴取したが、この日はいずれの力士も関与を否定している。同日、野球賭博問題でも設置した特別調査委員会(座長伊藤滋)を設置することを決めた。また十両以上の力士への聞き取り調査と、全協会員へのアンケートも実施するとしている。一方で、電子メールの内容が公表されたことについて「野球賭博と関係ないメールがなぜ公表されるのか」「通信の秘密はないのか」という批判が協会幹部から出たとされるが、警視庁の幹部は「公共性、公益性に照らし連絡すべきだと考えた」としている。
この日会見した放駒理事長は「(八百長は)過去には一切なかった問題で、新たに出た問題」とし、「協会存亡の危機である」とも述べこの問題について謝罪した。同日、賭博問題で逮捕された力士が相撲についても賭けの対象にしていた、と証言したことが明らかになっているが、今回疑惑となった八百長の取組は賭けていないとしている。翌日2月3日の衆議院予算委員会で高木義明文部科学大臣は相撲協会から「3人が八百長を認めた」報告があったことを明らかにした。また同日一部の力士が八百長を認めたことが報道されている。
2月4日、放駒理事長は記者会見で翌月に控えた春場所開催見送りを検討する考えを示し、6日に予定していた前売り入場券の発売延期を決めた。延期の理由は調査委員会による聞き取り調査には時間がかかる為としている。また八百長に関わっていたとされる千代白鵬は相撲協会に引退届を提出したが受理されず、その理由として「処罰の対象力士なので、受理できない」と述べている。
2月6日、相撲協会は臨時理事会を開き、大阪府立体育会館にて3月13日より開催される予定となっていた平成23年春場所の開催の中止を正式に決定した。過去の本場所中止は、1946年(昭和21年)6月開催を予定していた夏場所が、当時の両国国技館が第二次世界大戦の戦災で破損しており、建物の改修が遅れたために中止になった事例があり、65年ぶりで、不祥事による中止は史上初のケースとなった。また、4月に5ヶ所で予定していた春巡業を含め、2011年の地方巡業をすべて中止すると発表した。
また協会側は例年、春巡業と同時期に執り行う伊勢神宮並びに靖國神社での奉納相撲に関して、今回の事態発覚当初は「先方と協議・検討した上で決定する」としていたが、2月14日に伊勢神宮奉納相撲は中止、靖国神社奉納相撲については現時点で10月例大祭までは開催見送り(延期)とすることを発表した。
放駒理事長は記者会見で「相撲の歴史に最大の汚点を残すことになった」と述べ、「調査が終わり、処分が終わるまで本場所は難しい」として夏場所以降の開催の中止についても示唆している。八百長関与を認めた、もしくは疑惑が出た力士の処分については「全容が明らかになるまで保留」とし、過去に出た八百長疑惑についても「裁判で結果が出ていて、なかったもの。風評被害で迷惑な話だ」と述べている。
春場所の中止決定から一夜明けた2月7日、特別調査委員会は幕内(十両以上)の関取全員を対象にした聞き取り調査を開始。調査は2月12日まで6日間にわたって行われたが、新たな八百長関与の事実は出ていない。2月14日の臨時理事会において特別調査委員会から中間報告を受け、メールで名前が挙がった14名の調査を継続するとともに、関与を認めた4名に対する処分は先送りとなった。
2月10日には、日本相撲協会は綱紀粛正を求める「自粛・奨励17カ条の心得」を作成、協会員である力士・親方らに通達。主な項目として、稽古は東京の各部屋で行うこと、巡業や各部屋主催のパーティー、激励会などの自粛、社会貢献活動やボランティア活動を積極的に行うことなどを盛り込んだ内容となっている。
2月16日、特別調査委員会は協会員から幅広く情報を収集する「情報提供ホットライン」を設置し、協会員全員からメール、ファクス、手紙による情報の受け付けを3月15日までの期限で実施した。
2月28日には、本来なら春場所の番付となるものの、中止により『順席』を示した一覧表が各部屋に配布された。
3月9日、八百長問題の再発防止を目的として相撲協会が設置した特別委員会の初会合が両国国技館で開かれ、委員会の正式名称を大相撲新生委員会と決定。同委員会では、八百長に対する懲罰の厳格化や、研修制度の導入など6項目が盛り込まれた再発防止案がまとめられている。
3月11日、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)及び東京電力・福島第一原子力発電所での事故が発生。しかし、既に春場所の中止が決定していたことから、震災及び原発事故の発生は角界に直接的な影響を及ぼさなかった。
4月1日、関与したと確認出来た者に対する処分が決定、発表された(詳細は後述)。当初は除名や解雇等の厳罰処分も検討されたが、これまで協会が対策を講じてこなかったことを理由に引退勧告などとしている。発覚後に八百長を認めた力士については情状酌量をくみ出場停止2年となるが、引退勧告を受けた力士の中にはこの時点でも関与を認めておらず、関与を認めた他の力士の証言などで決められたことなどに対し、不服としている者もいる。
4月3日、処分発表を受け緊急に力士会が召集される。モンゴル出身の力士などを中心に夏場所ボイコットの提案もなされたが、魁皇博之が反対意見を唱えこの提案はお流れとなった。
4月5日、この日が引退届の提出期限とされたが、相撲協会はこの日までに19力士が提出したことを公表し、谷川親方のみが退職勧告に反発し、同日、記者会見を開いている。翌4月6日、相撲協会は臨時理事会を開き、夏場所を『5月技量審査場所』として無料公開で開催することを決め、勧告に応じなかった谷川親方を解雇処分にしている。
八百長に関する調査はこの後も続けられ、4月11日には新たに八百長を認定された2力士が引退勧告処分を受けたが、この両力士は期限となる4月13日までに引退届を提出しなかったため、翌14日の臨時理事会で解雇処分とした。
5月4日の相撲協会の臨時理事会および評議員会において、大相撲新生委員会からの提言による防止案をもとに、十両以上の力士や付け人の支度部屋への携帯電話の持ち込み禁止等の再発防止策をまとめた。この再発防止策は8日より始まる技量審査場所から適用されることになった。
また同日、名古屋場所で幕内、十両の定員を各2人減らし、関取の枠を計4人削減することを決めた。しかし八百長問題で引退・解雇された十両以上の力士が17人いるため、13人の幕下力士を関取に昇進させる方針とした。貴乃花審判部長は幕下上位の力士が負け越しても昇進する可能性を示している。
4月22日、蒼国来と星風は相撲協会に対し不当解雇に対する幕内力士及び十両力士としての地位保全及び給与支払い仮処分を東京地裁に申請した。大相撲八百長問題で相撲協会に対し法的手段に出たのは初めてである。
5月25日、相撲協会は自主引退を含めた58人の力士の引退を発表した(解雇された蒼国来・星風を除く)。
6月2日、臨時理事会において2011年7月10日からの名古屋場所の通常開催と、放駒理事長は辞任しないことを決定した。
6月9日、蒼国来に対し、相撲協会は幕内力士の月給に当たる約130万円を1年間支払う内容で東京地裁で和解した。
6月18日、蒼国来は日本相撲協会に力士としての地位確認及び給与の支払いを求める本訴訟を東京地裁に起こした。蒼国来の弁護団は関与認定の根拠とされた協会の特別調査委員会による春日錦と恵那司の証言に基づいて作成された供述書に両名が署名拒否していたと発表した。
6月22日、星風は相撲協会を相手取り起こしていた仮処分申請で、十両としての月給103万6千円を1年間相撲協会が支払うことで和解した。
2013年3月25日、東京地方裁判所で蒼国来の解雇について無効の判決が出る。相撲協会はこれを受けて、4月3日の臨時理事会でこの判決に対し控訴を行わないことを決定し、蒼国来は現役復帰となった。相撲協会は今後、当時の調査方法に不備があったかどうかを含めて危機管理委員会で再検証する。
2013年10月29日、最高裁判所は星風の上告を退ける決定をし、一審及び二審の判決が確定し、解雇が確定した。
2019年11月1日、相撲協会は蒼国来が協会を離れていた期間の13場所を幕内在位場所数に加算することを発表した。
番付、所属部屋は2011年2月28日に相撲協会が発表した順席による。
※は当初から八百長メールに名前が挙がっていた力士、親方。
全員が4月5日までに引退届を提出した。4月5日までに引退届を提出していない場合は解雇処分となる。
勧告に従わず提出期限とされた4月13日までに引退届を提出しなかったため、解雇処分となった。当人達は処分に不服であり、4月22日、蒼国来と星風は相撲協会に対し不当解雇に対する幕内力士としての地位保全及び給与支払い仮処分を東京地裁に申請した。
2012年5月24日、東京地方裁判所は星風の八百長があったことを認め、「解雇は有効」とする判決を言い渡した。
2012年10月24日、星風の控訴審においても、「恵那司と千代白鵬の主張は主要部分で矛盾していない」として東京高等裁判所は一審判決を支持し、星風の控訴を棄却した。
2013年3月25日、東京地方裁判所は蒼国来の八百長について、「問題となった取組は無気力相撲と認められない」とされ、「解雇は無効」とする判決を言い渡した。また、その際に、未払いの給料も支払うよう相撲協会に命じた。
2013年4月3日、日本相撲協会は東京地裁の蒼国来の解雇無効判決を受けて、臨時理事会で控訴断念を決定。蒼国来の現役復帰が決定。
2013年10月29日、最高裁判所は星風の上告を退け一審と二審における星風の解雇が決定した。
発覚後に八百長を認めたため、情状酌量で出場停止2年の処分となったが、いずれも4月2日に引退届を提出して引退している。そもそも当時の報道などでは「事実上の引退勧告」という趣旨で報じられ、出場停止期間の消化は前提視されていなかった。
竹縄親方、谷川親方は現役時代の八百長関与、他は部屋所属力士の八百長関与による。それぞれの役職は処分当時。
部屋所属力士の八百長関与による。それぞれの役職は処分当時。
協会は組織責任として、放駒理事長(元大関・魁傑)は役員報酬30%、理事は役員報酬15%、副理事及び役員待遇委員は役員報酬10%を2カ月間の自主返納とした。
2011年2月2日、協会は大相撲八百長問題の事実関係解明のために、協会外部理事の伊藤滋氏を座長に有識者7人による特別調査委員会を設置した。一部のメンバーは大相撲野球賭博問題の際の特別調査委員会委員でもある。
2011年3月9日、協会は大相撲八百長問題の再発防止策を協議するため、元文相の島村宜伸を委員長、協会副理事長の村山弘義を座長とする8名の構成による大相撲新生委員会を設置した。八百長再発防止策として、
の6項目の基本対策をまとめ、再発防止への具体的な検討を行うことにした。
同年4月15日、当初の6項目に加え、
の2項目を新たに盛り込み、合計8項目に関して、八百長問題の再発防止策の提言を理事会に提出した。
本問題は国会などでも取り上げられ、前述の枝野、高木らの他閣僚、政府内からも厳しい声が相次ぐ。
この問題は日本国内のみならず、日本国外でも大きく報道されている。
八百長問題を受け、日本相撲協会以外でも対応に追われている。相撲協会は2011年2月8日、全ての力士、親方らのテレビ出演やイベント活動などを当面自粛することを決定している。すでに収録済みのテレビ番組についても出演場面を可能な限りカットしてもらうという異例の対応となる。
今般の八百長問題発覚を受け、大相撲の取組に懸賞金を提供している企業(スポンサー)側の対応も揺れた。
以下は各企業側の対応。
八百長問題を受け、力士が出演するテレビCMの放映を自粛する企業も出ている。
八百長問題によって巡業が中止になったことを受け、巡業開催予定だった自治体では困惑、怒りの声が上がっている。自治体によっては、相撲協会に損失負担を求める声もあがっている。
疑惑のあった取組について、日本相撲協会関係者は一貫して「故意の無気力相撲」と呼称しており「八百長」という語句は一切使用したことはない。日本相撲協会は公式見解として八百長相撲という表現は発していない。しかし一方で無気力相撲に対する罰則規定を設け、その問題は否定せず、過去には無気力相撲を行った力士に対する注意などをしていた。その後、2011年2月3日に放駒理事長が会見で記者に無気力相撲と八百長は同じものなのかを問われ「無気力相撲=八百長とみなす」旨の見解を示した。
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