鍵盤ハーモニカ


鍵盤ハーモニカ


鍵盤ハーモニカ(けんばんハーモニカ)は、楽器の一種。ハーモニカと同じく金属のフリーリードを呼気で鳴らす鍵盤楽器である。ピアノのような鍵盤が並んでいるが、ハーモニカの一種である。

鍵盤と連動したバルブの開閉によって、特定のリードを確実に演奏することが出来るが、ハーモニカと違い吸気で鳴らすことは出来ない。「ピアニカ」「メロディオン」などはメーカーの商標名であるが、通称として一般的に普及している。略して「ケンハモ」「鍵ハモ」「鍵ハ」などと略称する場合もある。

電子鍵盤ハーモニカ (Hohner Electra-Melodica) は、リードではなくウインドシンセサイザーの原理を用いた電子楽器で、音色が自由に設定可能である。内蔵スピーカー、外部スピーカー、ヘッドホンなどから音を発するため、周囲に音を発せずに演奏が可能となる。現在は生産されていない。

特徴

「鍵盤楽器」「吹奏楽器」「フリーリード楽器」の3点を特徴とする。

鍵盤楽器であることから初心者でも音程が安定し、旋律も和音も演奏可能である。アコーディオンなど他のフリーリード鍵盤楽器と比較すると、蛇腹機構が無く軽便で取り回しが楽で、習得も容易で、廉価である。座奏や立奏、独奏や合奏など応用場面も広い。

日本では幼稚園や小学校の一斉授業や鼓笛隊など低年齢の教育楽器の印象が強いが、表現力が豊かで、大人や演奏家も用いる本格的な楽器である。

歴史

ヨーロッパで開発

息を吹き込んで金属製のフリーリードを鳴らして演奏する鍵盤楽器は、1829年にイギリスで発明されたシンフォニウム(コンサーティーナの原型)など、19世紀から存在した。

現代に近い形状をもつ鍵盤ハーモニカは、1957年にドイツのホーナー社が開発した「メロディカ」が最初である。現在の鍵盤ハーモニカと同じく「ピアノ式鍵盤」をもつ世界初のモデルは、1958年にイタリアとフランスで作られた「クラヴィエッタ」(Clavietta) である。当初は教育楽器として広まったが、1970年代にキーボード奏者であるオーガスタス・パブロがこの楽器を本格的に取り入れて以来、世界のプロフェッショナル演奏家らも用いる。

日本で開発と普及

ホーナー社のメロディカは、日本では1959年3月に娯楽雑誌の記事で紹介され、1960年初頭から輸入販売が始まった。同時期にクラヴィエッタの輸入販売も始まったが、メロディカもクラヴィエッタも、日本の小売価格は非常に高価であった。

国産品は1961年半ばには鈴木楽器製作所が「メロディオン」を製造・発売し、同年中にトンボ楽器製作所が「トンボ・ピアノ・ホーン」を、東海楽器製造株式会社が「ピアニカ」を発売した。

日本の楽器各社は、学校教育に導入と販売促進を目指して教育現場の要望に応えて改良を重ね、1960年代半ばから70年代に音楽科授業で広く導入された。当時は児童数が急増して学校の備品整備が不足し、多くは学童の「個人持ちの楽器」となった。近年は楽器メーカーが大人向け機種を開発して表現力が豊かな楽器としてプロフェッショナル奏者も用いるほかに、自治体が高齢者の健康効果を評価して大量購入している。

種類

鍵盤の形状による分類

  • ピアノ式鍵盤 - オルガンやピアノと同様の鍵盤を装備し、日本で「鍵盤ハーモニカ」はこの機種を指す場合が多い。
  • ボタン式鍵盤 - 狭いスペースに多くの鍵盤を並べた、演奏能力向上型で、一部の演奏家が愛好している。
  • 折衷型 - 黒鍵と白鍵の長さを切り詰めて、楽器の横幅をピアノ式鍵盤式よりコンパクトにまとめた機種である。

その他、音域によるアルト、ソプラノ、バスなどの分類や、鍵数による24鍵、27鍵、32鍵、37鍵、44鍵などの分類がある。障害で鍵盤を弾けない子供に特注品を製作した事例がある。

鍵盤ハーモニカは「右利き」用で、「左利き」用は僅少である。

奏法

専用の吹き口(唄口、パイプ)から楽器の本体に息を吹き込みつつ、手の指で鍵盤を操作して演奏する。

演奏の姿勢は多様である。

  • 「片手弾き」は、通常は右手のみで弾く奏法である。立奏や、鼓笛隊など歩行演奏時は、左手で楽器本体を保持し、右手のみで鍵盤を弾くことが多い。

「両手弾き」は、両手とも順手で弾く「横弾き」と、右手は順手で左手は逆手の「縦弾き」の2種類がある。

  • 「両手横弾き」は、楽器を横向き位置して両手とも順手で弾く。オルガンやピアノと同様に鍵盤を視認しつつ両手演奏が可能となる。
  • 「両手縦弾き」は、楽器を縦位置に保持し、右手は順手で、左手は逆手で、それぞれ楽器の本体の左右から鍵盤を弾く。熟練演奏家の一部が得意とする高度な演奏技術である。

ほかに「立奏の両手弾きで1人で2台の鍵盤ハーモニカを同時に演奏する」、「メロギター(1人で鍵盤ハーモニカとギターを同時に演奏する)」、「額で弾く」など、演奏家が独自の工夫した独特の奏方も多い。

楽器本体と奏者の口の距離の関係上、平置き演奏時はホース状の卓奏用パイプを、立奏時はI字状あるいはS字状の立奏用パイプを用いることが多い。立奏時も卓奏用パイプを使用する奏者もいる。

主な製造者と商標

製造者は10か国20社以上で、日本は以下が広く流通している。

  • 東海楽器製造、ヤマハ - ピアニカ。東海楽器製造の命名した商品名、ピアノとハーモニカの合成語である。30年ぶりに軽量化などを施し改良したモデルを2014年に販売した。
  • 鈴木楽器製作所(スズキ) - メロディオン。メロディーとアコーディオンの合体語である。
  • 全音楽譜出版社(ゼンオン) - ピアニー
  • キョーリツ - メロディピアノ
  • ホーナー - メロディカ・ピアノ

ギャラリー

その他

鍵盤ハーモニカの呼称

全国的に「ピアニカ」が優勢

鍵盤ハーモニカは商標の普通名称化があり、楽器メーカーの登録商標である「ピアニカ」や「メロディオン」が、この楽器全体を指す普通名称のように使われる傾向にある。鈴木楽器製作所の製品である「メロディオン」を「ピアニカ」と称する誤用も多い。

Jタウン研究所が行った都道府県別アンケート調査(総投票数606票、2015年9月29日 - 10月20日)では、「ピアニカ」が71%で多数、「鍵盤ハーモニカ」が16.5%、「メロディオン」が11.6%、その他が1パーセントであった。比率は地域差があり、新潟県は「メロディオン」が80%、沖縄県は「鍵盤ハーモニカ」が100%であった。

NHKの扱い

NHKは国営で普遍的放送を旨とするため、固有商品名は一般名称に置き換えて放送に用いる。「ピアニカ」は登録商標であるため、なるべく「鍵盤ハーモニカ」と言い換える。

1996年に、演奏家の「ピアニカ前田」がNHKの番組にゲスト出演した際、司会者と前田はともにぎこちなく「鍵盤ハーモニカ」と言い、芸名の「ピアニカ前田」は、「鍵盤ハーモニカ前田さん」ではなく「ピアニカさん」と呼んだ。

近年は、NHKのウェブサイト内でも「ピアニカ」を楽器名として使用する例も散見される。

芸名と使用楽器

芸名に「ピアニカ」を含む鍵盤ハーモニカ奏者がヤマハのピアニカを使用しているとは限らない。鍵盤ハーモニカ奏者の「ピアニカ彩」はヤマハのピアニカを愛用しているが、スズキの「バスメロディオン B-24C」や、スズキの鍵盤笛「アンデス25F」なども使用する。奏者「ピアニカ前田」は、主にスズキのメロディオンを使用している。2016年現在。

melodionとmelodeon

英語で押引異音式の小型手風琴をダイアトニック・ボタン・アコーディオン=「メロディオン」melodeonと称するが、日本語のカナ表記では鈴木楽器製作所の商標「メロディオン」melodionと同一になる。そのため日本のmelodeon奏者は、しばしば「私の楽器は鍵盤ハーモニカではありません」と説明する。

クラシック楽団指揮者

クラシック音楽の指揮者は全楽器演奏家の心情を理解するために、鍵盤ハーモニカを愛用する者もいる。

高齢者の健康福祉

鍵盤ハーモニカの演奏は、高齢者の介護予防や認知症予防に著効があるという説があり、音楽療法や健康福祉の現場などでも使われている。2015年12月に福岡県古賀市は、鍵盤ハーモニカ400台を211万円で導入し、市の健康づくり拠点施設に配備した。

ギネス記録

2013年3月3日に静岡県で鍵盤ハーモニカを全員で5分以上演奏するギネス世界記録に挑戦し、「鍵盤ハーモニカ同時演奏の最多人数」を更新した。

鍵盤ハーモニカ奏者

日本 海外で活躍する日本人も含む

  • ピアニカ前田
  • 松田昌
  • トミー・チョウ阪神大震災に被災、瓦礫の中から

救い出した鍵盤ハーモニカが原点。

  • 夏秋文彦 「ケンハモ仙人」の異称をもつ。
  • ピアノニマス(南川朱生) 両手弾きの女性奏者、鍵盤ハーモニカ研究家。
  • 伊藤英(いとう すぐる) スイス在住のピアニスト YouTubeの演奏動画
  • 吉田絵奈
  • ピアニカ彩 両手弾きの女性奏者
  • 東京メロディカオーケストラ 男女4人編成の鍵盤ハーモニカ
  • kesaco 女性2人による鍵盤ハーモニカのデュオ
  • Flying Doctor(フライングドクター) 女性4人によるバンド。鍵盤ハーモニカを多用。
  • 得田サトシ
  • 北野淳
  • 石井幸枝
  • 藤田浩司
  • KANKAWA
  • 永見行崇
  • 長崎桜(colo) - archive.today(2013年4月27日アーカイブ分)
  • はざまゆか - アルバム「剣の舞」がレコード芸術にて推薦盤に選ばれた。
  • 西村彩華
  • イシタニタイジュ
  • ミッチュリー(ピアニカの魔術師)
  • 菅谷詩織 - ピアニスト、鍵盤ハーモニカ奏者
  • 内村直子 - オルガニスト、両手弾き鍵盤ハーモニカ奏者
  • アンサンブルポロッコリー 女性4人の鍵盤ハーモニカ・アンサンブルグループ。

諸外国

  • Billy and His Melodica
  • オーガスタス・パブロ
  • ジャック・ディジョネット
  • ジョン・メデスキ(MMW)
  • メロディカ・メン

鍵盤ハーモニカを採り入れた音楽家

  • 栗コーダーカルテット
  • 国府弘子
  • 山中千尋
  • シンディ・ローパー
  • ドナルド・フェイゲン - 主にライブで使用。
  • ザ・フーターズ
  • P-ブロッ - 野村誠が率いる鍵盤ハーモニカのみのアンサンブル。
  • Keiko(Vanilla Mood)
  • ゆず(北川悠仁)
  • 滝本晃司(たま) - コーラスを配慮して口で吹くかわりに風船を使用する「風船ピアニカ」を演奏。
  • 山田将司 (THE BACK HORN) - 「ヘッドフォンチルドレン」をライブで演奏する際に使用。ライブ盤『産声チェインソー』にて、その演奏が聴ける。
  • 小田和正 - コンサートでは「woh woh」等でバンドマスターの園山光博が演奏。
  • 椎名林檎 - 「丸ノ内サディスティック」(アルバム『無罪モラトリアム』収録曲)や東京事変のライブ「dynamite!」などで演奏。
  • CINEMA dub MONKS
  • 大島俊一
  • 森俊之
  • 石坂慶彦
  • バーニー・ウォーレル
  • 柳原陽一郎(元・たま) - たま在籍時に演奏していた。
  • 青木タイセイ(熱帯JAZZ楽団) - 「Por que no?(ポル・ケ・ノ?)」などで演奏。
  • イールズ
  • ポケット・ペンギン
  • ハービー・ハンコック
  • 東京スカパラダイスオーケストラ
  • フランツ・フェルディナンド
  • 松本あすか
  • face to ace - キーボーディストの本田海月が演奏。
  • ピアニカ前田
  • 向谷実
  • 国分太一(TOKIO) - 「手紙」で演奏。

使用した作曲家

  • 野村誠
  • 鶴見幸代
  • ファビアン・スヴェンソン (Fabian Svensson)
  • 吉田桂子

脚注

外部リンク

  • 鍵盤ハーモニカ研究所
  • 素晴らしき鍵盤ハーモニカの世界
  • YouTube「鍵盤ハーモニカ」動画

鍵盤ハーモニカ