ネコ科(ネコか、Felidae)は、哺乳綱食肉目に分類される科。イエネコ、ヤマネコ、ライオン、トラ、ヒョウ、チーター、サーベルタイガーなどが含まれる。
形態
耳介は大型で漏斗状をしており、集音効果に優れている。眼は大型で、立体視ができ色覚もある。瞳孔は調節する筋肉が作用し、明るさの変化への順応が早い。網膜の感覚細胞の後部に反射層(輝板、タペタム)があり、これにより光が感覚細胞を透過せず反射することで2回刺激され、暗所でも適応できる。暗所でネコの眼にわずかでも光が当たると光るのは、この輝板の反射による。
歯列は門歯が上下6本、犬歯が上下2本、小臼歯が上顎6本・下顎4本、大臼歯が上下2本と、計30本の種が多い(オオヤマネコ類・マヌルネコなどは上顎の小臼歯が4本のため計28本)。犬歯は大型で(ウンピョウで顕著)、獲物に噛みつき仕留めるのに適している。食物を咀嚼する大臼歯が退化している代わりに、舌に鑢状の突起があり、食物を固定し引き裂いた後、舌で肉を削ぎ落とすことができる。ヒョウ属では舌骨の基部を動かすことができ、これによって吠えることができる。
多くの種で爪をさやに引っ込めることができ、速く走る、木に登る、獲物を捕らえる際など、必要な時にだけ爪を出す。
分類
ネコ科は食肉目のネコ型亜目に属す。従来ニムラブス科もネコ科に含まれていたが、現在は独立した科とされている。最古のネコ科は鮮新世前期~中新世前期のプロアイルルスであるが、現生のネコ科や剣歯虎は中新世前期のスーダエルルス(Pseudaelurus)の子孫である。「サーベルタイガー」(剣歯虎)は名前に虎とつくものの、トラなどとは系統的に離れたマカイロドゥス亜科に属す。
系統
Piras et al. (2013) による絶滅分類群を含む分岐図
以下、Johnson et al. (2006)による現生種の分岐図
現生種の分類
2006年に発表された分子系統推定から、以下の系統(順番はこの解析での分岐順)に分かれるという解析結果が得られている。2016年に発表された分子系統解析でもこれらの系統は支持されたが、分岐順は異なる(Panthera lineageに次いでBay cat lineageではなくCaracal lineageが分岐したとされ、Bay cat lineageはLynx lineageに次いで分岐した系統という解析結果が得られている)。
- Panthera lineage - ウンピョウ属、ヒョウ属
- Bay cat lineage - アジアゴールデンキャット属、マーブルキャット属
- Caracal lineage - アフリカゴールデンキャット + カラカル、サーバル属
- Ocelot lineage - オセロット属
- Lynx lineage - オオヤマネコ属
- Puma lineage - チーター属、ジャガランディ + ピューマ
- Leopard cat lineage - マヌルネコ、ベンガルヤマネコ属
- Domestic cat lineage - ネコ属
以下の現生種の分類・英名は、IUCN SSC Cat Specialist Group (2017) に従う。和名は付記のないかぎり、川田ら (2018, 2021) に従う。
- ネコ亜科 Felinae
- チーター属 Acinonyx
- Acinonyx jubatus チーター Cheetah
- カラカル属 Caracal
- Caracal aurata アフリカゴールデンキャット African golden cat(アフリカゴールデンキャット属Profelisとする説もあり)
- Caracal caracal カラカル Caracal
- アジアゴールデンキャット属 Catopuma(Pardofelis属に含める説もあり)
- Catopuma badia ボルネオヤマネコ Bay cat
- Catopuma temminckii アジアゴールデンキャット Asiatic golden cat
- ネコ属 Felis
- Felis bieti ハイイロネコ Chinese mountain cat(ヨーロッパヤマネコの亜種とする説もあり)
- Felis catus イエネコ Domestic cat
- Felis chaus ジャングルキャット Jungle cat
- Felis lybica リビアネコ African wildcat(ヨーロッパヤマネコの亜種とする説もあり)
- Felis margarita スナネコ Sand cat
- Felis nigripes クロアシネコ Black-footed cat
- Felis silvestris ヨーロッパヤマネコ European wildcat
- ジャガランディ属 Herpailurus(ピューマ属に含める説もあり)
- Herpailurus yagouaroundi ジャガランディ Jaguarundi
- オセロット属 Leopardus
- Leopardus colocola コロコロ Pampas cat(パンタナルネコL. braccatusやパンパスネコL. pajerosを分割する説もある)
- Leopardus geoffroyi ジョフロワネコ Geffroy's cat
- Leopardus guigna コドコド Guiña, Kod-kod
- Leopardus guttulus ミナミジャガーネコ Southern tigrina(L. tigrinusの南部個体群が分割。ヒガシジャガーネコL. emiliaeを分割する説もある)
- Leopardus jacobita アンデスネコ Andean mountain cat
- Leopardus pardalis オセロット Ocelot
- Leopardus tigrinus ジャガーネコ(キタジャガーネコ) Northern tigrina, Oncilla(南部個体群がL. guttulusに分割)
- Leopardus wiedii マーゲイ Margay
- サーバル属 Leptailurus(カラカル属に含める説もあり)
- Leptailurus serval サーバル Serval
- オオヤマネコ属 Lynx
- Lynx canadensis カナダオオヤマネコ Canada lynx
- Lynx lynx オオヤマネコ Eurasian lynx
- Lynx pardinus スペインオオヤマネコ Iberian lynx
- Lynx rufus ボブキャット Bobcat
- マヌルネコ属 Otocolobus
- Otocolobus manul マヌルネコ Pallas's cat
- マーブルキャット属 Pardofelis
- Pardofelis marmorata マーブルキャット Marbled cat
- ベンガルヤマネコ属 Prionailurus
- Prionailurus bengalensis ベンガルヤマネコ Leopard cat(亜種イリオモテヤマネコは亜種P. b. euptilurusのシノニムとする説もあり)
- Prionailurus javanensis ジャワヤマネコ Sunda leopard cat(ベンガルヤマネコのスンダ列島・フィリピン個体群が分割)
- Prionailurus planiceps マライヤマネコ Flat-headed cat
- Prionailurus rubiginosus サビイロネコ Rusty-spotted cat
- Prionailurus viverrinus スナドリネコ Fishing cat
- ピューマ属 Puma
- Puma concolor ピューマ Cougar
- ヒョウ亜科 Pantherinae
- ヒョウ属 Panthera
- Panthera leo ライオン Lion(ユーラシア・アフリカ大陸・北部・西部・中部個体群を基亜種、アフリカ大陸南部・東部個体群を亜種P. l. melanochaitaのシノニムとして2亜種とする説もあり)
- Panthera onca ジャガー Jaguar(亜種を認めない説もあり)
- Panthera pardus ヒョウ Leopard
- Panthera tigris トラ Tiger(大陸産亜種を全て基亜種のシノニムに、スンダ列島亜種を全て1つの亜種にする説もあり)
- Panthera uncia ユキヒョウ Snow leopard
- ウンピョウ属 Neofelis
- Neofelis diardi スンダウンピョウ Sunda clouded leopard(ウンピョウのスマトラ・ボルネオ島産亜種とされていたが、2006年に分子系統解析から独立種とされた)
- Neofelis nebulosa ウンピョウ Mainland clouded leopard
分類史
リンネの『自然の体系』でネコ属 (Felis) とされたものが7種(ライオン・トラ・ヒョウ・ジャガー・オセロット・イエネコ・オオヤマネコ)あり、これは現在の現生ネコ科の範囲におおよそ対応している。19世紀にジョン・エドワード・グレイやニコライ・セヴェルツォフらによって属が多数分割されたあと、1917年にレジナルド・インズ・ポコックがネコ亜科・ヒョウ亜科・チーター亜科の3亜科に分類したものが現在に続く現生ネコ科の下位分類の基本となっている。亜科に関しては、分子系統解析などからチーター亜科の独立性が否定されているほか、化石種の分類体系との均衡から現生種を全てネコ亜科に含めヒョウ亜科を認めない場合もある。属については20世紀中葉にジョージ・ゲイロード・シンプソンの影響で現生種が3属のみにまとめられたこともある
分布
オーストラリア大陸・南極大陸・マダガスカルを除く全ての大陸とほとんどの島。
生態
約4分の3以上の種が森林に生息する。夜行性で森や茂みの中で生活する種が多い。主に単独で生活するが、ライオンやチーターは血縁関係のある個体で群れを形成することもある。
主に脊椎動物を食べるが、魚類、昆虫、果実を食べることもある。肉のみを食料とする種も多く、ほとんどの地域で食物連鎖の頂点にいる。
主に2 - 3匹の幼獣を産む。出産間隔は小型種では年に1 - 2回、大型種は2 - 3年に1回。
人間との関係
毛皮目的の狩猟、家畜や人間を襲う害獣としての駆除などにより生息数が減少している種もいる。
出典
関連項目
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