ウラル語族(ウラルごぞく)は、シベリア(北アジア)中北部、北ヨーロッパ、東ヨーロッパに話者地域が分布する語族である。約2,500万人に話されている。フィン・ウゴル語派(サーミ語、フィンランド語、エストニア語など)、サモエード語派(ネネツ語など)に大別できる。
ウラル語族に属する言語には次の特徴がある。
なお語順は、東部は主にSOV型、西部は主にSVO型である。
ウラル語族とされる言語は以下の通り。
各諸語ごとの系統関係はコンセンサスが得られていないが、以下のような説がある。
ウラル語族の母音調和は祖語の時代から存在したと考えられる。バルト・フィン諸語、モルドヴィン諸語、ハンガリー語、ガナサン語等で存在し、多くが前舌母音と後舌母音の対立による「舌の調和」である。母音調和に関与しない母音も存在する。母音調和は接尾辞や前接語を含めた語全体に及ぶ。
ウラル語族を話す民族は、大きくサモエード系とフィン・ウゴル系に大別される。
言語学的知見からは、サモエド祖語とフィン・ウゴル祖語の分岐年代はおよそ紀元前4000年ごろと考えられている。
分子人類学的知見からは、ウラル語族話者に関連する遺伝子としてY染色体ハプログループNがあげられる。ハプログループNは東アジア発祥と考えられ、ほとんどのウラル系民族で高頻度に観察される。中国北東部の遼河文明時代の人骨からY染色体ハプログループNが60%以上の高頻度で検出されており、フィン・ウゴル系民族と関連する櫛目文土器の最古のものが遼河地域の興隆窪文化(紀元前6200年 - 紀元前5400年)の遺跡で発見されていることを併せて考えれば、ウラル系民族と遼河文明の担い手集団の関連性が示唆される。
また、mtDNAハプログループZは極北地域を中心にサーミ人、フィン人、シベリア、北東アジア、中央アジア、中国、朝鮮、日本などで観察されており、Y染色体ハプログループNと同じような流れが想定され、ウラル語族の拡散との関連を示唆するものと考えられる。
朝鮮半島では、紀元前4000年から紀元前1500年にかけて櫛目文土器が発見される。さらにウラル語族に広く見られる中舌母音[ɨ]が古代朝鮮語に存在したと考えられることから、かつての朝鮮半島にウラル系言語が話されていた可能性がある。
また、日本の日本海側や東北地方に観察される中舌母音の[ɨ](いわゆるズーズー弁)についても、ウラル語族の音声特徴に由来する可能性がある。
ユカギール語との間でウラル・ユカギール語族を形成するという説が有力である。両者は人称代名詞等が明らかに同源であり、否定動詞が存在するなど類型的特徴も類似している。ユカギール人はかつては西はバイカル湖まで分布していたといわれており、遼河・モンゴル付近でウラル語族と分岐し東方へ向かったと考えられる。ハプログループN (Y染色体) がユカギール人でも31%観察されることから、遺伝子の面からも両者の同源性が示唆される。
アルタイ諸語との間にウラル・アルタイ語族を形成するという説が古くからあるが、語族としての条件を満たさないため現在は棄却されている。話者の点からもアルタイ諸語はハプログループC2 (Y染色体)、ウラル語族はハプログループN (Y染色体) と異なっている。しかしウラル語族とアルタイ諸語の類型的類似は甚だしく、おそらくアルタイ山脈付近に分布していた原アルタイ諸語が、遼河方面から拡散してきたウラル語族を上層言語として混合し、ウラル語族の類型的特徴を持つ現在のアルタイ諸語が形成されたものと思われる。
一方で、一部の形態素の著しい一致からインド・ヨーロッパ語族との同系説も存在する。しかしインド・ヨーロッパ語族の原郷は黒海北岸であり、両者が同源であるとは考えられない。クルガン仮説では、古い時代にインド・ヨーロッパ祖族が北方森林地帯のウラル系民族との活発な交流があったことが想定されており、おそらくインド・ヨーロッパ語族の成立過程において、ウラル語族との接触により言語混合を起こしたものと推測される。フィン・ウゴル語派におけるインド・ヨーロッパ語族との形態素の類似が、サモエード語やユカギール語におけるそれに比べて高いのは、インド・ヨーロッパ祖語との接触がフィン・ウゴル語派に限られていたと思われる。
また、マイケル・ホーテスキューによって1998年に最初に提案されたウラル・シベリア語族も存在する。これはウラル語族、ユカギール語、チュクチ・カムチャツカ語族、エスキモー・アレウト語族が含まれるが、現段階では定説には至っていない。ただし、上記諸語族の話者にハプログループN (Y染色体) が高頻度で含まれていることから、ハプログループNに属す集団の流れを反映している可能性がある。
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