『スパルタンX』(スパルタンエックス、原題:快餐車、英題:Wheels on Meals)は、1984年に公開された香港映画。ジャッキー・チェン主演、サモ・ハン・キンポー監督作品。
スペイン・バルセロナを舞台に、ワゴンカー「スパルタン号」による軽食販売で生計を立てるトーマス(ジャッキー・チェン)、デヴィッド(ユン・ピョウ)の二人と、探偵モビー(サモ・ハン・キンポー)が謎の集団に誘拐されたシルヴィア(ローラ・フォルネル)を助けだそうとするコメディ調のカンフーアクション映画である。
ジャッキーと元アメリカンキックボクシング世界王者ベニー・ユキーデの対決シーンが特に有名で、ジャッキー自身が選ぶ「ファイティング・トップ10」においてこのシーンを堂々の1位に挙げているほか、ベニーとジャッキーが再戦した「サイクロンZ」における対決を同ランキングの第5位に挙げている。
他のジャッキー・チェン作品と同様、現在は21世紀フォックス傘下のスターTV→フォーチュンスターメディアに著作権が移動している。
スペインのバルセロナ。パン屋の2階に下宿する、カンフーの達人トーマス(ジャッキー・チェン)といとこのデヴィッド(ユン・ピョウ)は、街の公園広場に移動販売車「スパルタン号」を停めファーストフード店を営んでいた。そんな2人のもとにある日、怪しい男たちに追われる謎の美女シルヴィア(ローラ・フォルネル)が助けを求めて逃げ込んでくる。友人のヘボ探偵モビー(サモ・ハン・キンポー)の手を借り、実はシルヴィアが伯爵の娘で、彼女の遺産を狙う伯爵の弟が一味の黒幕だと知ったトーマスたち。だが度重なる激しい襲撃に、ついにシルヴィアがさらわれてしまう。3人は彼女を助けるため、最強の戦闘集団と壮絶な肉弾戦を繰り広げる。
この映画の予算は350万香港ドルで香港のプロダクションとしてはかなりの額だった。そのためサモ・ハンはこの映画を海外で撮影し通常とは異なるものにしようと考えた。
サモ・ハンがヨーロッパで映画を撮りたいとスペインの配給会社「Lauren Films」にコンタクトをとり、撮影費用の安さ、撮影許可の下りやすさから、カタルーニャでの撮影とローレンによる共同製作となった。
広場でのバイクのアクションシーンでは、香港からブラッキー・コーが連れてこられた。ブラッキーは誰に対しても高慢な態度で、スペインの撮影クルーとの関係がよくなかった。
車のシーンでは有名なレーシングドライバーアラン・プティが起用され危険なシーンはすべて三菱のターボで撮影された。時速140kmで橋を20m以上飛び越え箱でいっぱいのトラックに着地する、このシーンはカステルデフェルスの高速道路で撮影された。
ジャッキーは、アラン・プティの技術にとても興味を持っていた。スポーツカーとスピードマニアで可能な限り身体的危険を伴わない操縦や追跡シーンは、アランの助言を受けながらジャッキーが行った。
撮影が続けられるように三菱は技術者チームを派遣して壊れた車を修理し正常な状態に戻した。これは非常に短期間で行われ修理を行うために部品を満載したトラックを用意していたという。
三菱は3人に三菱のスポーツモデルを個人サービスとして提供した。さらに、トラックの中には専用食堂があり香港側食事班が準備を担当していた。彼らが出す料理はスペインの中華料理店とはまったく違うもので香港から毎日飛行機で送られてくるものだった。
ある日、キース・ヴィタリは彼らとの食事中に香港スタッフ側があまりにも騒がしいので「食事中は口を閉じてくれ、気が狂いそうだ!!」と注意。ジャッキーは彼を脇に連れて行き、香港では本当においしいものができるとコックを褒めるために騒ぐのだと説明した。
香港側スタッフとスペイン側スタッフ、格闘家などとの確執、ジャッキーはいつもジョークを言ってその場の空気を和ませていたという。
サモ・ハンは、冷淡にすべてを観察していた。何に対しても誰に対しても非常に厳しく、容赦のない完璧主義者で映画をよりよく仕上げるためならどんなことでもした。アクションシーンでは彼はすべてに気を配りどんな細部も見逃さずどんなショットも逃さないためにいくつものカメラを角度を変えて配置した。一方、彼の“兄弟”たちはいつも冗談を言って笑っていた。しかし、ユン・ピョウはキース・ヴィタリとは一定の距離を置いていた。
キース・ヴィタリとの格闘シーンにおいて6テイク目の蹴りがジャッキーの喉に当たり、苦しみもがいてた。これでクビになるかと思ったがクビにはならなかった。それが映画に本編に登場するショット。
香港側と格闘家側のライバル意識は渦巻いており次第に悪化していった。ベニー・ユキーデ曰く「ある朝ジャッキーが通訳を連れてやってきて、僕と本気で戦いたいと言ってきたんだ。私は生活のために戦っていること、リングに上がったとしても自分のパンチをどれだけコントロールできるかわからないことを説明した。ジャッキーの返事は「まあ、問題ないよ」だった。スタッフ全員ジャッキーが本気だと思い巨額の賭けが行われるまでになった。
最後のファイトシーンの撮影中、ベニー・ユキーデは何度かパンチが鼻にかすり、ジャッキーは鼻血を出した。ジャッキーは撮影を続けこのショットを生かすように言った。
ジャッキーとユキーデのラストの格闘シーンは本人ら2人で考案したものだという。サモは細かな演技指導程度だったという。
ジャッキー、サモら撮影クルーは、バルセロナのアラゴン通りにある有名レストランでの飲食後に5人乗りの車の連中に絡まれジャッキーは激怒、喧嘩に発展し結果、5人組をボコボコにし警察沙汰となる。ジャッキーとサモはエンリケ・グラナドス通りの警察署で一晩中事情聴取、最終的には示談となり、相手には小切手で支払った説がある。
ジャッキーは当初、バルセロナのコルツ・カタラネス通り668番地にあるホテル・リッツに滞在したが撮影が始まって数週間後、彼はアラゴン通り569番地にアパートを借りた。
ユン・ピョウ、ジャッキー・チェン、ローラ・フォルネルが登場するスケートボードのシーンや、その他のスタントの一部は、バルセロナの有名なシウタデラ公園(城塞公園)で撮影された。ここで記者たちがジャッキーと何度も写真撮影を行った。
ローラ・フォルネルが路地を追いかけるシーンを撮影中、息子連れの親子がみていた。その小さな男の子がジャッキーのファンで一緒に写真を撮りたがっていたものの、なかなか一緒に写真を撮ることができなかった。ようやくジャッキーが気づき撮影を一旦中断、少年と母親と一緒に写真を撮ることができた。母親の目は涙で霞んでいた。
当初の脚本ではベニー・ユキーデとサモが対決し、ユキーデに圧倒されたところにジャッキーが割って入る段取りだったがこのシーンは撮影されなかった。
この映画に参加したスペイン人エキストラによると、ジャッキーとユキーデのさまざまなテイクと多くのコンビネーションやバリエーションが撮影されたという。サモ・ハンはすべてを注意深く観察しカメラやジャッキーに具体的に指示を出したという。採用されなかったアクションシーンがたくさんあったらしい。
東宝東和が配給した日本公開版は、英語音声にキース・モリソン(木森敏之)の日本オリジナル曲、及び主題歌「SPARTAN X」を編入し、エンドタイトルロールにもNGシーンが流れる独自仕様で公開された。このバージョンは初ビデオ化となった東和ビデオ・LD版にも使用されていたが、東和の権利が消滅した後、ポニーキャニオン再発売ビデオ版(及びTV放送版)から以後発売されたソフトは、主に広東語オリジナル音源の香港版が収録されるようになっていた。
その後、2012年にパラマウントから発売されたブルーレイソフトに、日本公開版と同じ英語音声(スパイク版と同じ)と、その英語音声を元にした新録版の日本語吹き替えを収録。更に、映像特典としてEDにNGシーンが流れる日本公開版を復刻収録(東和LDからダビング収録)され、「SPARTAN X」の流れるバージョンが再び日本の正規ソフトとして発売されるに至った。
2014年には日本公開時フィルムより全編HDテレシネの“日本公開版本編”が収録されたエクストリーム・エディションが発売された。2012年版ではあくまで特典扱いだったためか復刻といいながらタイトル及びEDのみの差し替えだった日本公開版が本当の公開時のままの状態でHD収録されている。
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