『映画ドラえもん のび太の宝島』(えいがドラえもん のびたのたからじま)は、2018年の日本のSFコメディアニメ映画。藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』を原作とした、映画「ドラえもん」シリーズの第38作目。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの児童文学『宝島』をモチーフとした作品である。
夏休みのある日、のび太は出木杉から『宝島』の本を教えられ、ジャイアンたちに自分も宝島を発見すると宣言してしまう。のび太がドラえもんのひみつ道具「宝探し地図」で宝島を探したところ、最近太平洋上に現れた新しい島を見つける。のび太たちは組み立て帆船「ノビタオーラ号」に乗って島を目指すが、島に上陸する手前で海賊に襲われる。しずかが海賊にさらわれ、島も消え失せてしまう。のび太たちは海に漂う少年・フロックとペットのオウム型ロボット・クイズに出会う。島は巨大な海賊船で、フロックは海賊船から逃げたメカニックだった。のび太たちは海賊からしずかを助け出し、宝島に眠る財宝に隠された秘密を探るため船を進める。
一方、しずかは海賊船の中で自分と似た少女・セーラに出会う。セーラとフロックの父親で海賊船船長のシルバーは地球のエネルギーを吸い取り、新しい星に移る「ノアの方舟計画」を実行しようとしていた。海賊船にのび太たちが駆け付ける。フロックやドラえもんの奮闘でエネルギー奪取は阻止された。シルバーはのび太たちの説得を受けて改心し、息子のフロックとも和解し、元の時代へと帰っていった。いつもの空き地で遊ぶのび太は、ポケットから転がり落ちた金貨を見て、ひと夏の冒険に思いをはせた。
本作の制作にあたり、藤子プロは子どもだけでなく、大人の鑑賞に堪えうる作品にするという方針を立て、『君の名は。』などの企画・プロデュースなどで知られる川村元気を脚本家として起用した。 川村はかつてドラえもんに親しんでいた大人たちでも親しめるようにするため、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの児童文学『宝島』をモチーフとすることを思い立った。 次に、川村は大長編シリーズの共通点として、自然現象や都市伝説といった時事ネタを組み込んだ少年冒険譚が存在することに気づき、当時話題となっていた西之島のニュースと『宝島』、謎解きクイズを組み合わせた物語を書くことを決めた。
川村は、同じく船を題材とした短編映画『パロルのみらい島』(2014年)を見て、同作の監督である今井一暁を本作の監督として指名した。 今井は『ドラえもん』のテレビシリーズの演出・絵コンテ経験があるものの、長編映画の監督は本作が初めてであり、オファーが来たときは驚いたと複数のインタビューの中で振り返っている。 また、キャラクターデザイン・総作画監督の亀田祥倫や美術監督の秋山健太郎など、同作のスタッフが本作にも参加しており、今井は『パロルのみらい島』を通じて亀田と秋山の信頼関係が構築されていたためやりやすかったとメディア芸術カレントコンテンツの浅野靖菜とのインタビューの中で振り返っている。 今井は本作の美術について、『パロルのみらい島』に似せてほしいという指示はなかったが、亀田の嗜好が反映されているという印象を受けたと浅野とのインタビューの中で話している。またTVシリーズ第2作第1期とデザインが似ているという指摘に対しても、狙ってやったわけではないと同じインタビューの中で述べている。
スタッフたちは宝探しという題材から帆船を登場させることを考え、まずは帆船の資料を調べたが、日本における帆船の歴史は浅く、動かし方の情報ですら得られなかった。そこで、スタッフたちは日本丸のある『横浜みなと博物館』へ行き、帆船での航海経験のあるガイドの話から、帆船は大人数で協力して初めて動くということを知り、のび太とゲストキャラクターの一人であるフロックとの関係性を示す要素として本作に登場させることに決めた。
本作のデザインには、古いものと現代的な要素を組み合わせるという方針が立てられた。たとえば、キャプテン・シルバーは、『宝島』で描かれる大航海時代のタイプライターで最新のプログラミングを行う場面が描かれている。また、クイズのデザインもあえてロボットらしさを前面に出しつつも、最新のガジェットが詰まったキャラクターとして描かれた。また、本作に登場するひみつ道具のうち、既存のひみつ道具である「宝探しマップ」はGoogleマップのように世界中どこでも見られるアイテムが実存することを踏まえ、タブレット端末のようなデザインとなった。
ドラえもん役の水田わさびは川村の脚本について、これまでの『ドラえもん』で描かれてこなかったのび太と父の親子関係や、しずかとセーラといった同性同士の関係といった人間の心理描写が多く描かれていて新鮮だったとライブドアとのインタビューの中で述べている。 水田は川村の脚本を読んで、ドラえもんが一歩引いた立ち位置にいる感じがしたとも述べつつも、今までと同じように演技をしたとも振り返っている。 のび太役の大原めぐみものび太が仲間たちを大切に思っている様子がよく読み取れたと同じインタビューの中で述べており、演じる中で心が揺れ動いたと振り返っている。
本作のゲストキャラクターの一人である海賊キャプテンシルバーは、単なる悪役ではなく、自分なりの使命感に突き動かされながらも苦悩する父親であると同時に、もう一人の主人公として描かれている。 初期のプロットは、のび太たちが宝島で海賊と対決する単純明快なものだったが、制作当時の今井たちの状況が物語や海賊・キャプテンシルバーのキャラクター性に投影された時点から家族というテーマが浮上し、物語の複雑化につながった。 今井はシルバーの苦悩を描くたびに「ドラえもん」からかけ離れてしまい苦労したと、浅野とのインタビューの中で振り返っており、本作においてドラえもんとのび太の出番がほかの『ドラえもん』の映画作品よりも少なくなってしまったと話している。今井は前述のインタビューの中で、かっこいい価値観を持ったマッドサイエンティストとしてシルバーを描いた結果、今までの『ドラえもん』の映画作品の悪役とは異なるキャラクター像が出来上がったと話す一方、「藤子先生っぽくはないけれど、特に今回は川村さんのシナリオもあって、藤子プロさんのほうも少し変わったことにチャレンジしようという雰囲気があったので、許してもらえたのだと思います。」とも述べている。 また、プロデューサーの川北桃子がメディアに語ったところによると、脚本の時点からシルバーのキャラクターは俳優の大泉洋が演じることを想定して進められており、最終的に大泉がキャプテンシルバーを演じることとなった。
キャプテンシルバーの妻であるフィオナ役には長澤まさみが起用された。 川北は長澤の演技について、「(前略)長澤さんは、フィオナという女性の中にある、聡明さ、力強さ、優しさ、そして悲しさを、台詞には書かれていない吐息の一つまで、声の芝居でしっかりと表現してくださいました。今井一暁監督も、『芯がある母親像を演じて頂き、イメージにピッタリでした。』と話しています」とメディアに寄せたコメントの中で述べている。
シルバーとフィオナの子どもたちであるフロックとセーラはシルバーの方向性が定まったことにより生まれたキャラクターである。 フロックは、才能あふれる一方トラブルに巻き込まれたときは非協調的になるなど、のび太とは対照的な性格の人物として描かれた。 フロックは家族というテーマにおいても重要な存在として描かれており、父親と対峙する場面もあることから、今井は男性声優のほうがフロック役の演技に必要な緊張感を自然に出せると考えていた。しかしながら、男子小学生の役を男性が演じるとどうしても低くなるため、多くのアニメにおいては女性が演じることがほとんどだった。今井はふさわしい声優を探す中で、山下大輝のボイスサンプルを聞き、起用に至った。今井によると、収録当初山下はかなり苦労していたが、だんだんキャラクターに合うようになり、父親との掛け合いも今井の満足のいくものだったとされている。
なぞなぞ好きのオウム型ロボット・クイズは、子どもが楽しめる存在として登場した。最初の予告編におけるクイズの体の色は緑だったが、第2弾の予告編や本編では赤に変更されている。 海賊の一員であるトマト役にはサバンナの高橋茂雄が起用された。 また、本作は第2期の映画としては初めてミニドラが映画本編に登場しており、劇中に登場した複数のミニドラは金元寿子が一人で演じた。このほかにも、冒頭のニュース番組のアナウンサー役で 渡辺宜嗣が出演した。
本作の音楽は『ドラえもん のび太の恐竜2006』より音楽を担当していた沢田完に代わり、服部隆之が担当した。 今井は2020年の服部との対談の中で、監督就任にあたり、今までと違うことをしようと考える中で、好きな作曲家について聞かれた際に自分の子どもが見ていた教育番組『フックブックロー』を思い出し、その作曲家である服部の名前をダメもとで挙げたことを話している。『電車男』など、服部は川村が手掛ける作品には何度か参加していたことからこの提案は受け入れられ、台本完成前の段階にあたる2018年の春に事務所を通じて服部へオファーが寄せられた。 一方、オファーを受けた服部はすごく意外な気持ちであると同時に光栄だったと振り返っている。
服部は『フックブックロー』を手掛けた時点で、「子どもにとっては最初に接する音楽だから、子どもっぽいか子どもっぽくないかもわからないと思うんです」と言われたことから、目線を気にせず良い音楽を作ることに専念したと対談の中で話している。
主題歌には星野源が起用され、エンディングテーマである「ドラえもん」と 挿入歌「ここにいないあなたへ」はいずれも彼自身が手掛けた。 「ドラえもん」の歌詞には『ドラえもん』という作品に対するオマージュが込められている。また、間奏には「ぼくドラえもん」のメロディーが引用されており、同楽曲の作曲者である 菊池俊輔 が間奏の作曲者としてクレジットされている。 「ドラえもん」は、2019年10月のテレビアニメの放送枠移動に合わせ、第2作2期としては4代目のオープニングテーマに採用されているが、採用後に公開された映画は全てオープニングテーマが廃されたため本曲の再使用はされていない。 「ここにいないあなたへ」はクライマックスの場面で使用されており、歌詞の内容も場面に沿ったものとなっている。なお、本作ではオープニングが無い。
第2期の映画では恒例となっている、エンドロール後のおまけ映像(次作の予告)は、天動説の地球が登場→異説クラブメンバーズバッジ登場→2019年春公開と表示→月で餅つきをするウサギが登場となっている。2018年10月11日に最新作のタイトルが『ドラえもん のび太の月面探査記』であることが発表された。 なお、『月面探査記』作中にはのび太の部屋に置かれた本に「宝島」があったり、机の上に帆船のボトルシップが置かれているなど本作を思わせるアイテムが登場している。
正式な劇場公開に先駆け、2018年2月19日には東京都内で「大人だけの先行試写会」が開かれ、上映前のトークショーには大泉洋と高橋茂雄、脚本を担当した川村元気が登壇した。
また、2018年3月3日には、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて、長澤まさみ・高橋茂雄(サバンナ)・今井一暁(監督)を招いた舞台あいさつが行われた。さらに、3月18日には同映画館で、大泉洋・高橋茂雄を招いた大ヒット御礼舞台挨拶が行われた。
作中に登場するフレンチトーストのレシピがクックパッドに投稿されたほか、Instagramにはしずかの音声が流れる料理動画が投稿されている。
さらに、映画の公開に合わせて『週刊ファミ通』3月22日号でしずかが初のソログラビアデビューを果たした。
映画の公開を記念した行事も行われており、JR東日本横浜支社・小田急電鉄合同でスタンプラリーが開かれた。 また、『ドラえもん のび太の南海大冒険』(1998年)の連動企画として登場した帆船「ドラりん丸」が20年ぶりに復活した。「新生ドラりん丸 キャプテンドラえもん号」として鹿児島県トカラ列島の宝島に上陸する企画を行ったほか、横浜港(ぷかりさん橋・大さん橋)や長崎港などにも寄港した。
2018年2月からゴールデンウィークにかけて、SCRAP主催の体感型謎解きゲームイベントであるリアル脱出ゲームとのコラボレーションである「映画ドラえもん×リアル脱出ゲーム・のび太の宝島からの脱出」が東京原宿にある常設スタジオ原宿ヒミツキチオブスクラップにて約4ヶ月、大阪心斎橋にある常設スタジオ大阪ヒミツキチオブスクラップと名古屋矢場町にある常設スタジオ名古屋ヒミツキチオブスクラップにて約3ヶ月、札幌大通にある常設店舗アジトオブスクラップ札幌にて約2ヶ月のロングランで開催し、4都市(札幌・東京・名古屋・大阪)での開催期間中に全国20都市を巡回した。参加者はのび太・しずか・ジャイアン・スネ夫になって様々な謎を解きつつ、ひみつ道具を駆使して、とある島に捕われてしまったドラえもんとキャプテン・キッドが遺したお宝を1時間以内に見つけ出す内容となっている。
全国381スクリーンで公開され、2018年3月3、4日の初日2日間で観客動員数71万6,629人、興行収入8億4,314万8,500円となり、映画観客動員数ランキング(興行通信社調べ)で初登場第1位を獲得。なお、ぴあの調査による初日満足度ランキングでは満足度92.4となり第2位となっている。4月3日までの32日間で動員389万8193人、興収44億4223万8200円を記録(東宝調べ)し、アニメ第2作2期シリーズとしては最高記録であった『のび太の南極カチコチ大冒険』(2017年)の44億3000万円を上回った。最終興行収入は53億7000万円となった。観客動員数は4月24日時点で446万人を超えており、これまでの最高記録だった『のび太の日本誕生』(1989年)の420万人を更新した。
第36回ゴールデングロス賞優秀銀賞を受賞した。
森永製菓の「おっとっと」が本作とコラボし、ドラえもんとひみつ道具の形が入り、パッケージも本作のイラストが描かれたものになっている。2017年7月下旬に発売された。
ニンテンドー3DSソフト『ドラえもん のび太の宝島』が2018年3月1日にフリュー株式会社より発売された。
『小説 映画ドラえもん のび太の宝島』が2018年2月2日に小学館ジュニア文庫より発売。小学館文庫からも文庫版が2月6日に発売されている。執筆は涌井学。涌井は以前にも、脚本の川村が原作である『世界から猫が消えたなら』のスピンオフ小説『世界からボクが消えたなら 映画「世界から猫が消えたなら」 キャベツの物語』を執筆している。小説版が発売されるのは瀬名秀明による『小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団』(2011年)以来。ただし『のび太と鉄人兵団』は小説化されているため、原作者逝去後のオリジナル映画を題材にしたのは本作が初となる。映画では描写されなかった設定やシーン、登場人物たちの心情などが描かれる。小説が描かれた代わりに、第2期としては初めて、4コマ漫画を含め新作漫画が一切描かれなかった。
本作の音楽を担当する服部隆之によるサウンドトラックが2018年2月28日に発売。全34曲収録。『STAND BY ME ドラえもん』(2014年)を除き、映画ドラえもんのシリーズでサウンドトラックが作品単独で発売されたのは『ドラえもん のび太の南海大冒険』(1998年)以来となる。
『骨川スネ夫 初めてのラインライブ!コメント・ハート待ってます』のタイトルで2018年2月13日にドラえもん史上初となるLINE LIVEが行われた。出演はスネ夫・ジャイアン。また、2018年2月25日には『新作映画だよ!「ドラえもん」LINE LIVEスペシャル』のタイトルで配信が行われた。出演はドラえもん・のび太・しずか・スネ夫・ジャイアン。MCは高橋茂雄(サバンナ)が担当する。
LINE バブル2がドラえもん仕様に変わり、限定クエストが配信された。指定のミッションをクリアすると、本作のコラボLINEスタンプが入手できる。
のび太の宇宙英雄記から連続で行われているゲームアプリ「モンスターストライク」とのコラボレーションが今回でも行われた。3月6日より期間限定でコラボイベントを開催している。映画にちなんだゲーム画面や、ドラえもんやのび太をはじめとするキャラクターが登場する。
なお、今回のゲストは2020年からテレビ東京でスタートしたポケットモンスター(2019年番)で声優を勤めている山下大輝や人気番組「水曜どうでしょう」MCの大泉洋が出ているなどと豪華俳優が多い。
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