『忘れられないの/モス』(わすれられないの/モス)は、サカナクションの13枚目のシングル。2019年8月21日にNF Recordsからリリースされた。 前作『多分、風。』から2年10か月ぶりのシングルである本作はアルバム『834.194』からのリカットシングルであると同時に、バンドとしては初となる8センチCDシングルである。両A面シングルとしては『さよならはエモーション/蓮の花』以来のリリースとなる。
収録曲である「忘れられないの」および「モス」は1980年代の音楽・カルチャーに大きく影響を受けており、当時普及し始めていた8センチCDでのリリースに至った。パッケージも当時と同じ縦型の形状で、当時の流行にならい、両曲のカラオケバージョンも収録される。リミックスを除き、もともとボーカルが収録されている曲のオフヴォーカル版が収録されるのは11枚目のシングル『新宝島』以来となる。
当初、本作は8センチCD用の部材や工場での生産数量の制約から1万枚限定でのリリースの予定であった。しかし、本作のリリースが発表されるとすぐに予約が殺到したため、生産体制の調整を行い、追加生産が行われることとなった。
「忘れられないの」は、ソフトバンクの「SoftBank Music Project」シリーズの第6弾として制作された楽曲であり、同社のテレビCM「速度制限マン」篇のテーマソングに使われているほか、ボーカルの山口一郎も出演している。 山口はソフトバンクとコラボレーションした時の印象について「プランナーさんや監督さんと映像の内容から一緒に考えて作り上げられたので、そういったケースは珍しいし、非常にやりやすかったです。いいものを作りたいという強い気持ちが伝わってきたのでいい会社なんだな、と思いました」とインタビューで話している。
もう一つの収録曲である「モス」はフジテレビ系列・木曜劇場『ルパンの娘』主題歌に使われたほか、ラジオ番組では『水溜りボンドのオールナイトニッポン0(ZERO)』のテーマ曲や『金村義明のええかげんにせえ〜!』のCM前後のジングルとしても使用された。 さらに、プロ野球・中日ドラゴンズの根尾昂投手が自身の登場曲として使用している。
収録曲である「忘れられないの」および「モス」はいずれも、1980年代の音楽・カルチャーに大きく影響を受けた作風となっている。
「忘れられないの」について、山口は松任谷由実との出会いに触発されてこの楽曲を制作したとラジオ番組『サカナLOCKS!』2019年6月14日放送分で明らかにしており、AORをはじめとする80年代の音楽と現代の音楽を組み合わせて制作したと語っている。 同楽曲の歌詞は上京をテーマとしており、山口は「150パターンもの歌詞を書いた中で、115番目に選ばれた歌詞となっています」と、CMに出演した広瀬すずとの対談との中で振り返っている。
「モス」について、山口は外部に向けて発信するために作曲したと『サカナLOCKS!』2019年6月14日放送分で明かしている。 本楽曲は彼らの青春時代に影響を与えたC-C-Bやトーキング・ヘッズと山本リンダを合わせたらどうなるのかという実験作でもあり、結果としてイントロのフレーズが『狙いうち』のようになってしまったと山口は振り返っている。 また、山口は同楽曲に影響を与えたバンドとしてクラクソンズやブロックパーティーといったイギリスのインディー・ロックを挙げている。
ライターの青木優はラジオにおける山口の発言を分析し、イントロやファルセットのきいたコーラスがC-C-Bの影響を受けているのではないかと推測し、躍動するリズムに合わせて繰り返されるフレーズは、トーキング・ヘッズの「ワンス・イン・ア・ライフタイム」(『リメイン・イン・ライト』収録)あたりから間接的に影響を受けているのではないかとみている。 また、青木はビートや鋭いギターサウンドはUKインディーシーンからの影響ではないかと推測している。 一方で、青木は山口がラジオで言及しなかった部分についても推測しており、本楽曲のフレーズはクイーンの「バック・チャット」や田原俊彦の「シャワーな気分」を思わせるとしている。
「モス」は、当初「皆が好むものではなく、自分の中にある本当に好きな物」という意味から「マイノリティ」というタイトルを付けられたものの、社会的少数者など別の意味にもとれてしまうことから、蛾を意味する「モス」というタイトルに変更された。
「忘れられないの」のミュージックビデオは、これまでと同様に田中裕介が監督を務めた。 楽曲同様、ミュージックビデオも1980年代をオマージュしており、歌番組のようなセットを背景に、白いソフトスーツにサングラスといういで立ちの山口がパフォーマンスをする内容となっているほか、ビデオカメラも古いタイプのものが使われている。 ミュージックビデオには、テレビCMで速度制限マンを演じた嶋田久作も出演している。 青木は、MVにおける嶋田について、トーキング・ヘッズのコンサート映画『ストップ・メイキング・センス』におけるデヴィッド・バーンを意識したのではないかと推測している。
「モス」のミュージックビデオは、「蛾」にちなんで繭から人が這い出るものとなっている。
2019年6月21日に『ミュージックステーション』に出演した際は、ミュージックビデオの内容を再現するパフォーマンスが行われた。
アルバム『834.194』のライナーノーツによる
ミュージック・ビデオ公開ページによる。
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