『ナイル殺人事件』(ナイルさつじんじけん、原題:Death on the Nile)は、2022年に公開されたアメリカ合衆国とイギリスの合作によるミステリ・スリラー映画。原作はアガサ・クリスティの1937年の小説『ナイルに死す』で、1978年の映画と2004年のテレビシリーズ『名探偵ポワロ』のエピソードに続く3度目の映像化である。監督はケネス・ブラナー、脚本はマイケル・グリーン。ブラナーが主演も務め、そのほかにガル・ガドット、アーミー・ハマー、エマ・マッキー、トム・ベイトマン、レティーシャ・ライト、アネット・ベニングらが出演する。ナイルの川下りツアー中に、新婚旅行中の夫妻の妻が何者かに殺害され、ポワロがその謎を解く。
本作は2017年公開の『オリエント急行殺人事件』の続編にあたり、さらに本作の続編も製作が決定している。
1937年。ベルギー人の名探偵エルキュール・ポアロは、エジプトで友人のブークと再会した。現在は無職のブークは金持ちの母親とツアー旅行中だが、同行している有名歌手の姪でマネージャーでもあるロザリーに夢中になっていた。ツアーのメンバーは金持ちばかりで、メイドなどの使用人たちも同行していた。
新婚旅行でツアーを主催しているリネットは、友人だったジャクリーンの存在に悩まされていた。莫大な財産を相続したリネットはジャクリーンから婚約者のサイモンを奪い、結婚したが、それを恨んだジャクリーンはツアーに付きまとい、どこまでも追って来るのだ。
ナイル川クルーズの客船を借り切り、ツアーメンバーとポアロも誘って乗り込むサイモン。そんな客船にジャクリーンが現れ、夜遅くにラウンジでサイモンを撃った。ジャクリーンを部屋に閉じ込め、足を撃たれて立てないサイモンを医務室に運ぶ乗客たち。
翌朝、客室のベッドでリネットの射殺体が発見された。死亡時刻は昨夜の騒ぎの頃だったが、夫のサイモンは医務室で休み、ジャクリーンは見張られていて、殺人犯の目星はつかなかった。ツアーにはリネットの以前の婚約者や、管財人としてリネットの財産を着服している従兄弟など、リネットに関わりのあるメンバーばかりが同行していた。
ポアロは実はブークの母親から、ロザリーの人柄の調査を依頼されてエジプトにやって来ていた。ロザリーは申し分ないと報告するポアロ。そんな時、リネットのメイドのルイーズが殺された。彼女はリネット殺害の犯人を見たと仄(ほの)めかし、それとなく金を要求したために消されたのだ。
最後にブークを尋問するポアロ。ブークは、ジャクリーンがサイモンを撃った夜にリネットを起こしに行ったはずだった。しかし、リネットはすでに殺されていた。無職で結婚資金の欲しいブークは、思わずリネットの高価なネックレスを盗んだのだ。ポアロがネックレスを探し始めたために、返しに行こうとしたブークは、ルイーズ殺害の現場を目撃していた。ポアロに詰問されて犯人の名を言おうとしたブークは、部屋の外から何者かに射殺された。
最後に推理を披露するポアロ。事件はジャクリーンとサイモンの共犯によるものだった。愛し合う二人はリネットの財産を狙い、リネットがサイモンを奪って結婚するよう仕向けたのだ。ジャクリーンがサイモンを撃った弾は空砲だった。ラウンジから客たちが出て行った後に、サイモンは客室に走ってリネットを殺し、改めて自分の膝を撃ったのだ。後の2件の殺人はジャクリーンによるものだった。全てを見抜かれたサイモンとジャクリーンは、その場で自殺して果てた。
※括弧内は日本語吹替。
2015年、アガサ・クリスティ・リミテッドの会長を務めるクリスティの曾孫ジェームズ・プリチャードは、ブラナーや制作陣との積極的なコラボレーションを挙げ、続編への意気込みを語った。2017年5月、ブラナーは第1作が成功すれば、さらなる続編に関心があると述べた。2017年11月20日、20世紀フォックスが自社版『オリエント急行殺人事件』の続編として『ナイルに死す』を開発していることが発表され、脚本にはマイケル・グリーンが戻り、ケネス・ブラナーがポアロ役でカメラに戻り、監督としてカメラの後ろに立つことが決定した。
2018年9月、ガル・ガドットがキャストに加わった。同月、衣装デザインにパコ・デルガドが起用された。2018年10月には、アーミー・ハマーがキャストに加わり、トム・ベイトマンが本作のブーク役として再登場することが決定した。2019年1月、ジョディ・コマーがキャストに加わった。2019年4月、レティシア・ライトがキャストに加わった。アネット・ベニングは6月に参加交渉中であった。2019年8月、ラッセル・ブランドがキャストに加わった。アリ・ファザル、ドーン・フレンチ、ローズ・レスリー、エマ・マッキー、ソフィー・オコネドー、ジェニファー・ソーンダースが9月に追加され、そこにはジョディ・コマーが含まれていなかった。
2019年9月30日、イギリス・サリー州のロングクロス・スタジオにて、プリンシパル撮影が開始された。エジプトではなくモロッコで撮影される予定だったが、撮影はイギリスだけで行われた。
アブ・シンベル神殿のほか、船も再現された。ティファニーのイエローダイヤモンドは、この映画のために使われた。撮影は2019年12月18日まで行われた。
Úna Ní Dhonghaíleが本作の編集を担当した。ダブル・ネガティブ(DNEG)が視覚効果を担当し、アカデミー賞受賞の特殊効果アーティスト、ジョージ・マーフィーが視覚効果全体のスーパーバイザーとして参加した。追加VFXは、Lola VFXとRaynault VFXが担当した。
2019年1月、本作の作曲家として、ブラナー作品(本作の前身を含む)で度々コラボレーションしているパトリック・ドイルが発表された。
当初は日米共に2022年2月11日に公開する予定だったが、日本では2021年11月15日に同じ20世紀スタジオ製作の『ウエスト・サイド・ストーリー』の公開日を2022年2月11日に延期することを発表したため、本映画の公開日を同年2月25日に変更した。この煽りを受ける形でサーチライト・ピクチャーズ製作で同年2月25日に公開を予定していた『ナイトメア・アリー』の公開日も同年3月25日に変更することを併せて発表した。
2022年4月8日、ウォルト・ディズニー・ジャパンは本作品を同年4月13日からディズニー傘下の定額制動画配信サービスであるDisney+のスターにて見放題作品として追加することを発表した。
批評家サイト「ロッテン・トマト」では、271人の批評家のうち62%が肯定的で、平均評価は5.9/10である。同サイトの共通見解では、"古風で欠点もあるが、堅実なエンターテイメントである『ナイルに死す』は、オールスターキャストと主演のケネス・ブラナーの、原作に対する明らかな愛情によって盛り上がっている"とされている。加重平均を採用しているMetacriticでは、50人の批評家による100点満点中52点が付けられ、「評価はまちまちまたは平均」であることが示された。シネマスコアーの観客は、A+~Fスケールで前作と同じ平均「B」をつけ、ポストトラックの観客は77%の好評価を与え、57%が「ぜひ勧めたい」と回答している。
ハリウッド・レポーター誌のデヴィッド・ルーニーは、「1978年のジョン・ギラーミン監督版の豪華なスクリーンを愛情を持って振り返る私たちにとって、ブレナーはストーリーテリングとデザインの点では成功しているが、この作品の楽しみを奪ってしまったというしつこい感じがする」と書いている。バラエティ誌のオーウェン・グレイバーマンは、この映画を「適度に興味をそそるデザートで、すぐに飽きさせられる。遺物に生命血清を注入したような感覚を超えることはできないが、ある意味、それがこの映画のマイナーな魅力の一部である」と評した。タイムズ紙のエドワード・ポーターは、この映画に5つ星のうち3つを与え、「派手なスタイルと、クリスティのプロットに手を加えた脚本のメロドラマが相まって、エジプトのはずの背景画のいくつかがインチキに見えても、依然として興味をそそる」と述べている。シドニー・モーニング・ヘラルド紙のサンドラ・ホール記者は、この映画に4つ星/5つ星をつけ、こう書いている。「ブラナーはポアロの長年放置されてきた繊細な部分を掘り起こすという賭けに出た。一部の人には冒涜とみなされるかもしれないが、私はうまくいっていると思う。ポアロには切なる思いがあるのだ。」 オブザーバー誌のWendy Ideは、この映画に5つ星のうち2つを与え、こう書いている。「カメラは目まぐるしく回転し、きらめきとスペクタクルに目がくらむが、これが空っぽの安っぽい映画であるという事実は隠せない。」 ローリング・ストーン誌のデヴィッド・フィアーは、この映画について「アーミーの要素は別として、喜びも欠点もある。しかし、それはまるで象が食卓全体を踏み鳴らしている間に、前菜のコースの調理が少し足りなかったかどうかを評価しようとしているようだ」と書いている。ウォールストリートジャーナル紙のジョー・モーゲンスターン記者は、この映画について「今日の有名ブランドの歯磨き粉に味があるのと同じように、派手で時代がかった味がある。」と書いた。
2017年12月のAP通信とのインタビューで、ブラナーは『ナイルに死す』の映画化を、その後さらに多くの作品を制作する可能性をもって企画し、クリスティ映画の新しい「シネマティック・ユニバース」を作る可能性があることを語っている。
2022年2月、ブラナーは続編のための話し合いが進行中であることを明言した。映画監督兼スターである彼は、この映画シリーズが、ジェーン・マープルなどアガサ・クリスティが生み出した他の様々なキャラクターを含む様々な映画のフランチャイズになることを願っていると述べている。同年3月には、20世紀スタジオのスティーブ・アスベル社長が、3作目の開発が進んでいることを認めた。ブラナーは再び監督と主演を務め、脚本は再びマイケル・グリーンが担当することになった。3作目の舞台は「戦後のベニス」で、「あまり知られていない小説の一つ」を映画化する予定だという。
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