美術監督(びじゅつかんとく、米国:Art DirectorまたはProduction Designer)とは、映画・テレビなどの撮影の被写体となる空間を作る作業を取り仕切る人。 映画監督やプロデューサーと打ち合わせを行い、予算内でその映画の世界観(背景)を作り上げる。
アニメーションでの美術監督は、背景美術にまつわる全てを統括し管理する仕事を行う。背景スタッフをまとめ上げ、作品の世界観・雰囲気・カラーを決定づける。作品においてはキャラクターの絵以外は全て背景美術となるので、監督の意図を汲み取り、映像の雰囲気作りを担うとても重要な職種といえる。
作品制作の一連の流れの中で、美術監督の最初の仕事となるのは、脚本とキャラクターデザインが決定した後、必要な舞台背景やオブジェクトなどをデザインする「美術設定」である。ただし、2010年代の作品は美術設定の専門家を置く作品もあり、美術監督が美術設定を担当しない作品も多くなってきている。美術設定が決まると美術監督は、美術設定と監督の絵コンテをもとに色味や雰囲気を考えながら、作品の代表的な背景シーンを大まかに「美術ボード」に描き起こす。同じ建物や町並みでも時間帯によって全く雰囲気が違うので、それらの詳細を監督と密に話し合うことが必要である。こうして描き起こされた美術ボードは背景スタッフに渡され、さらに詳細な背景画へと描き起こされる。最後に各スタッフが手がけた背景画が揃ったら、全体的に違和感がないかを総チェックする。もちろん修正の指示および修正を行うのも美術監督の重要な役割となる。また、2010年代の作品は3DCGで描かれた建物のテクスチャ作成やメカの質感を出す作業を担当する場合もあり、その仕事は多岐にわたっている。
会社内での背景描きの打ち合わせ・レイアウトの管理・外注出し分の管理・上がった背景の送り・スケジュール管理などの管理職的な仕事も行う。
アニメーションの中の主人公をはじめ、登場するキャラクターたちが活躍する場所を、制作スタッフがイメージを共有できるようにレイアウト化したものを「美術設定」という。美術設定は背景創作の中でも特に重要な作業で、背景の完成度の6割を定めるとも言われている。つまりこの美術設定の内容が不十分だと、クオリティーの高い作品を制作することはできない。これだけ重要な作業のため、主に美術監督が作成することになるが、作品によっては美術監督とは別に美術設定専任の役職が置かれることもある。
美術設定は、監督や演出家との綿密な打ち合わせ(美術打ち合わせ)を経た上で作成される。そのため、作品の制作意図・テーマに添ったクオリティーの高い設定を作成しなければならない。また、美術設定は背景スタッフのみが使用するものではなく、作画スタッフなども使用することになるので、設定イメージが共有できる内容にすることが大切である。
また、美術設定は1回作成したからといって終わりではなく、必要に応じて追加の設定依頼がある。また、レイアウトを作成するときは、美術設定を確認しながら作画していく。
作品の様式・背景の色見・全体のイメージなど、空間処理が統一された背景のサンプルを「美術ボード」という。美術ボードは、美術設定に基づいて作成され、絵の具を使用して描き上げる。美術設定同様、背景制作の土台となるものなので、監督や演出家との綿密な打ち合わせを経た上で作成される。
美術ボードは、美術設定同様、作品の制作意図・テーマを考慮した上で色味を決めて作成される。また、ボードはキャラクターの色を決める際や背景を描く際の見本としても使用されていく。
美術ボードは、美術設定を使用して作成される。シリーズを通して多く出てくると想定される場所や、シリーズの特性を強調する場面などのボードを光源の位置と方向・季節・時間帯・天候に注意して作成していく。その他に、演出的に色変えをしたい場面や、特殊背景などの色調確認のために作成することもある。
場合によっては、その話数のレイアウトから選んで作成することもある。
東映アニメーションでは、美術設定と美術ボードを同一人物が行っている。これを「美術デザイン」と言う。
東映アニメーション以外による作品では上記の「美術設定」と同様の役職としてクレジットされる場合がある。
アニメーション業界では、アニメの背景画は専門のスタジオが制作するのが一般的である。しかし大手の会社などには自社や関連会社に美術背景部門を設けている場合もある(例としてAプロダクション(現:シンエイ動画)、Production I.G(関連会社:IG小倉工房)、京都アニメーション、ベガエンタテイメント、J.C.STAFFなどが挙げられる)。また、近年は美術背景も海外の会社に発注することも多くなってきた(日本の会社の海外支部の場合もある)。これに伴い美術監督も海外のスタッフが手がけることもあるが美術設定は国内ですることが多い(例として『君が望む永遠』、『キスダム -ENGAGE planet-』などが挙げられる)。
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