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象徴天皇制


象徴天皇制


象徴天皇制(しょうちょうてんのうせい)は、日本国憲法第1条で規定された天皇を日本国及び日本国民統合の象徴とする制度。

日本国憲法における天皇

日本国憲法第1条は、天皇を日本国と日本国民統合の「象徴」と規定する。その地位は、主権者(主権在民)たる日本国民の総意に基づくものとされ(前文、第1条)、国会の議決する皇室典範に基づき、世襲によって受け継がれる(第2条)。天皇の職務は、国事行為を行うことに限定され(第7条)、内閣の助言と承認を必要とする(第3条)。国政に関する権能を全く有さない(第4条)。

なお大日本帝国憲法では「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」(第4条)と規定されて日本の君主・元首であったが、日本国憲法では「象徴」であり国政に関する権限を有さず、主権は国民にあるため、通常「象徴天皇制」と呼ばれる。

「象徴」の意味

憲法学では「象徴」は法的意味を持つ語ではなく、政治的意味(社会学的意味)しか持たない。象徴とはあるもののイメージを任意の記号に仮託したものであり、人々が日本国と日本国民統合のシンボルが天皇であると思っている限りにおいて、天皇が象徴として成り立っており、その地位が「国民の総意に基づく」という部分と同じ意味である。

白洲次郎は著作で「象徴」の語はGHQ草案の「symbol」の語を辞書で引いた結果と記載した。白洲次郎はGHQ草案の英語をGHQの一室内で外務省の翻訳を担当する官僚と一緒に缶詰になっており大急ぎで和訳をしていた。

この翻訳遂行中のことはあまり記憶にないが、一つだけある。原文に天皇は国家のシンボルであると書いてあった。翻訳官の一人が(この方は少々上方弁であったが)「シンボルって何というのや」と聞かれたから、私が彼のそばにあった英和辞典を引いて、この字引には「象徴」と書いてある、といったのが、現在の憲法に「象徴」と字が使っている所以である。余談になるが、後日学識高き人々はそもそも象徴とはなんぞやと大論戦を展開しておられるたびに、私は苦笑を禁じ得なかったことを付け加えておく。

一般に「象徴」とは、無形で象徴的なものを表すための、有形で具体的なものである。例えば国旗・王冠・紋章・十字架・鳩は、国家・王位・家系・キリスト教・平和の象徴である。また物の象徴の他に、国王・大統領など人が象徴とされる場合もある。1931年のウェストミンスター憲章は前文で「国王はイギリス連邦を構成する諸国の自由な結合の象徴」と定める。

天皇の地位

「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(第1条)、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」(第4条)と規定されている。なお憲法には君主や元首の規定は存在しないため、天皇が君主または元首であるかは議論が存在する。

天皇の国事行為

天皇は日本国憲法の定める国事に関する行為のみを行うとされ、国政に直接関与する権能を有しない。天皇の行う国事行為は以下の通り。

  • 国会の指名に基づく内閣総理大臣の任命。
  • 内閣の指名に基づく最高裁判所長官の任命。
  • 憲法改正、法律、政令及び条約の公布。
  • 国会の召集。
  • 衆議院の解散。
  • 国会議員の総選挙の施行の公示。
  • 国務大臣や、その他の官吏の任免の認証。
  • 外国への全権委任状、派遣する特命全権大使・特命全権公使の信任状の認証。
  • 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の認証。
  • 栄典の授与。
  • 批准書、条約など外交文書の認証。
  • 外国の大使、公使の接受。
  • 儀式を行うこと。

これらの天皇の国事行為は、内閣の助言と承認が必要とされ、内閣がその責任を負う(輔弼と同義)。

議論

象徴天皇制における天皇が、「君主」または「元首」であるか否かは学説上の議論がある。憲法や法令には「君主」や「元首」の規定や用語は存在しない。このため「君主」や「元首」の定義や解釈にもよる。

政府見解

国会答弁における政府側答弁には以下がある。

天皇君主説

佐々木弘道は「象徴天皇制は日本独自の形式的な君主制」とする。日本国憲法第1章上、天皇は、その権限を第6条の任命権と第7条の国事行為の限定列挙(加えて第4条2項の国事行為の委任に関する規定を含めることもある)により量的に限定され、かつ質的にも、第3条により政治的決定権を剥奪され、また6条において実質的決定権の所在を規定することで天皇の行為が形式的なものであることを明らかにしている。かくして天皇の権限は名目的・形式的なものに限定されている。一般的な英国型立憲君主制(イギリスの君主制)に比して、このような君主権力がよりいっそう消極的な、日本独特の君主制である「天皇制」を象徴天皇制としている。

佐藤功は「国際法の観点からは対外的に国家を代表する地位にある国家機関を元首とよび、元首たる君主を有する国家形態を君主制とよぶ」ため、「(日本国憲法下の)日本国は伝統的・典型的な君主制には属さないが、同時に伝統的・典型的な共和制にも属さない」とし、「国民主権下の君主制」と呼ぶのが適当であろうとしている。清宮四郎はイギリスの君主に比べて権限が制約されているものの、「歴史的に見てこれを君主と言ってもあえて誤りというほどのものではない。」とする。下條芳明や金子勝は「象徴君主制」と呼ぶ。

小説家の三島由紀夫は「日本は19世紀的な立憲君主国ではなくなったものの、憲法第1条に天皇に関する条項が存在するを根拠に一種の君主国である。」とする。

天皇非君主説

芦部信喜は日本国憲法下では天皇は「君主」では無いとする。「君主」の要件は「その地位が世襲で伝統的な権威を伴う(世襲君主制)」および「統治権、少なくとも行政権の一部を有する」だが、天皇は「象徴」という主権者の枠外におかれ(憲法第1条)、「国政に関する権能を有しない」者であると規定され(第4条)、国事行為においても「認証」「接受」という形式的・儀礼的行為しか認められていない。憲法1条の規定の主眼は、国の象徴たる役割を強調するというよりも、むしろ天皇が象徴以外の「君主」としての役割を持つことを積極的に禁止した、と解釈する。「国民主権」を原則とする以上、天皇に対し「象徴」以外の権能を、憲法改正等による主権者からの付託を伴わずに与えることには現行憲法上問題がある、とする。

このほか宮澤俊義、小林孝輔 なども、日本国憲法下では天皇は「君主」では無いとする。

日本共産党の不破哲三は同党の81周年記念講演「党綱領の改定について」 で「日本は、憲法で国民主権を明確に宣言している国ですから、天皇主権の国ではなく、天皇と国民が主権を分かち持っている国でもありません。主権が国民に属する国ですから、日本の今の政治の体制を君主制だというと、これは大きな誤解を生むことになります」と述べた。

「元首」に関する議論

伝統的な意味での「元首」とは、行政権の長として対外的にその国を代表する者で、君主または大統領などである。しかし日本国憲法では内閣の長は内閣総理大臣だが、主権者は国民であり、「国権の最高機関」は議会で、天皇は一切の政治的権限を持たない。

学説では内閣元首説または内閣総理大臣元首説が多数派だが、天皇元首説、衆議院議長元首説、元首不在説なども存在する。

日本国憲法制定時に、元首という言葉を使用するよう議論があったが、金森徳次郎憲法担当国務大臣は、「元首は主権者や行政の首長であるという印象を与える」が、象徴という言葉にはそのような悪い連想が無いと答弁した。

日本国憲法施行後の、国会答弁における政府側答弁には以下があり、天皇は外交的には形式的に国を代表する面を有しているが、元首と呼べるかは元首の定義次第、と述べた。

評価

世論

日本国憲法公布・施行前の1946年5月27日の毎日新聞朝刊に結果が載った世論調査では、「象徴天皇制」を支持する回答が85%であった。

2009年にNHKが行った世論調査では、「天皇は現在と同じく象徴でよい」を回答に選んだ人の割合が81.9%であった。また、「今の天皇が象徴としての役割を果たしていると思いますか」との質問に対しては、「十分に果たしている」「ある程度果たしている」が合わせて85.2%であった。

政党

自由民主党は2010年に発表した「平成22年綱領」の中で、「我々は、日本国及び国民統合の象徴である天皇陛下のもと、今日の平和な日本を築きあげてきた」と好意的に言及、評価している。また、2012年に発表した「日本国憲法改正草案」では、「前文」の中で「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」と言及し、第1条では天皇が元首であることを明記した上で、象徴天皇の規定を維持する方針を採っている。

2012年の自由民主党による改憲草案では「日本国」は「立憲君主国」とする。

立憲民主党は2017年に発表した綱領の中で、「象徴天皇制のもと、日本国憲法が掲げる「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を堅持します。立憲主義を深める立場からの憲法議論を進める」と言及しており、象徴天皇制を維持する方針を示している。

メディア各社

産経新聞は2013年に発表した憲法改正草案「国民の憲法」の第1条で、「日本国は、天皇を国の永続性および国民統合の象徴とする立憲君主国である」と明記し、象徴天皇の規定を維持することを提案している。また、第2条では「天皇は、日本国の元首であり、国を代表する」とし、元首明文化も同時に提案した。

読売新聞は、象徴天皇の規定を維持した「憲法改正試案」を発表している。

日本以外の君主国との比較

日本の天皇のように君主に政治的な権限を持たせない君主国は、北欧やオランダ、スペイン、イギリスなどが挙げられる。君主の地位を何らかの文脈で「象徴」と表現するのは日本に特異のことではなく、以下のように複数の君主国に見られる。

日本の天皇以上に政治的な権限が制限されている例として、スウェーデン国王があげられる。1979年の憲法改正以後、首相任命などの形式的任命行為すら認められていない。政治から完全に分離され、国の対外的代表(元首)としての地位しかないため、象徴君主制という新たな区分を設けるべきではないかとする意見がある。ただし天皇とは異なり、スウェーデン軍の最高指揮官ではないものの、軍における最高の地位を与えられている。

イギリスの君主は国王大権と呼ばれる様々な特権・行政権を独占しているとされているものの、その行使は17世紀以降徐々に制限されるようになった。今日においては国王大権は政府によって決定され、君主による行使は政府の助言が必要とされており、イギリス君主は事実上政治的機能を喪失している。ウォルター・バジョットは1867年、「イギリス憲政論(The English Constitution)」で成文法の憲法を持たないイギリスでヴィクトリア女王をsymbolと位置づける憲政論をしており、今日でもイギリスの君主制を言い表す言葉としてしばしば「象徴的国家元首(Symbolic Head of State)」という表現が使われる。

イギリスと同君連合の関係にあるカナダ政府およびカナダ王室は、君主の地位を「全カナダ国民の忠誠、統合、権威を象徴する個人(The personal symbol of allegiance, unity and authority for all Canadians)」である説明している。

ルクセンブルク大公は憲法によりその地位を「国家の元首であり、国家の統合を象徴し、その独立を保証する者」と定義されている。

一方で、リヒテンシュタイン家は、象徴・儀礼的存在にとどまらず、強大な政治的権限を有している。そのため、ヨーロッパ最後の絶対君主制と言われる。またアラビア半島に位置する半数以上の君主国つまりサウジアラビア、アラブ首長国連邦(7首長国全て)、オマーンも絶対君主制である。

出典

関連書籍

  • 加藤哲郎『象徴天皇制の起源 アメリカの心理戦「日本計画」』平凡社〈平凡社新書〉、2005年7月。ISBN 978-4-582-85281-3。 
  • 冨永望『象徴天皇制の形成と定着』思文閣出版、2009年12月。ISBN 978-4-7842-1492-1
  • 坂本孝治郎『「マツリゴト」の儀礼学 象徴天皇制と首相儀礼をめぐって』北樹出版、2019年3月
  • 和辻哲郎『新編 国民統合の象徴』 中央公論新社〈中公クラシックス〉、2019年4月 - 佐々木惣一との論争も収録

関連項目

  • 皇室
  • 皇位継承
  • 国体
  • 尾高・宮沢論争
  • 佐々木・和辻論争
  • 天皇制廃止論

外部リンク

  • 衆議院憲法調査会 象徴天皇制に関する基礎的資料 pdfファイル。天皇は元首・君主かどうかについての議論。
  • 戦後政治における昭和天皇の位置 - 戦後における昭和天皇との内奏・ご下問を通じての、天皇の象徴君主ないし立憲君主としての位置づけを考察。

Text submitted to CC-BY-SA license. Source: 象徴天皇制 by Wikipedia (Historical)


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