『遠雷』(えんらい)は、立松和平の1980年の小説。野間文芸新人賞を受賞。栃木県宇都宮市を舞台に、都市化されていく近郊農業の欲望や矛盾が噴き出ていく様を描く。「遠雷」「春雷」「性的黙示録」「地霊」と続く4部作の第1作に当たり、全体として都市近郊の農村青年の絶望的な状況を描いている。本項目では、これを原作とした1981年の映画についても記述する。
栃木県の都市近郊で、満夫は両親とともに農業を営んでいた。兄の哲夫は銀行員として東京に出て、埼玉県に家庭をもっている。そのなかで、工業団地と住宅団地がつくられることになり、満夫一家は土地を手放し、工業団地にできた工場に勤める。しかし、それも長続きはしない。父は家を出て愛人と同棲する。満夫はそれでも、わずかに残った土地にビニールハウスを建て、トマトの栽培を始める。その中で見合い相手のあや子と結ばれ、結婚を決めるが、トマトは病気にやられて、栽培を断念せざるを得なくなる。満夫とあや子の結婚式の日、満夫の祖母は老衰で亡くなり、遠雷の音が徐々に近づいてくるところで作品は閉じられる。
この作品の背景となっている工業団地は、宇都宮市の瑞穂野工業団地であり、住宅団地はその北側のさるやま団地である。
1981年4月24日公開。主演:永島敏行、監督:根岸吉太郎。
日活ロマンポルノ出身の根岸吉太郎監督初の一般映画。
栃木県の都市近郊。23才の満夫は団地が並ぶ脇のビニールハウスでトマト栽培に精を出している。家族はすでに農地の大半を団地の敷地として売り払い、父親はその金で愛人にスナックを開かせて家を出ている。近所の米農家の息子・広次とは幼馴染の親友だが、夜はバーになるカフェのママのカエデを取り合い、カエデは両方と付き合っていた。
お見合い当日に、初対面の あや子 とドライブに出かけ、プロポーズしてモーテルに直行する満夫。あや子もトマト栽培を手伝いに来たが、年老いた祖母やガラの悪い母親との別居が結婚の条件だった。
丹精込めて作ったハウスのトマトは、路地ものトマトと出荷が重なり、二束三文で買い叩かれた。落ち込む満夫に、百姓は働いていれば食いっぱぐれないと豪快に諭す母のトミ子。そんな時に、広次が農協から100万円をおろし、カエデを連れて姿を消した。
ハウスのトマトに害虫がわき、慌てて駆除したり、父親の松造が選挙運動に関わって大金を失った挙げ句に愛人と失踪したりと騒ぎが続く中、あや子が妊娠して結婚式を急ぐ満夫。自宅に招待客を招き、花嫁は白無垢とお色直しのドレスも披露する賑やかな式が始まった。
披露宴の最中に広次からの電話を受け、紋付羽織袴姿のまま会いに行く満夫。カエデと各地を彷徨(さまよ)っていた広次は、金が尽き、なじられた末にカエデを絞め殺したという。自首する広次に付き添って警察まで送った上で、夜明けまで続いている宴会に戻る満夫。トマトのハウスでは、枯れた茎や葉を刈って焚き火で始末する季節が巡って来た。
何人もの監督が映画化権を争った。ATG代表の佐々木史朗は、本作を根岸吉太郎の監督デビュー作にしたかったが、待ってる間に根岸が7本撮ってしまい、結果的に根岸の監督8作目になった。根岸も立松和平の『ブリキの北回帰線』を映画化したいと考えていたため、ようやくオファーを受けた。
根岸は地方に対する思い入れはなかったが、描きたい人がたまたま農村にいたことで舞台が栃木になった。脚本の荒井晴彦とは、以前から組みたいと思っていたという。
賛否両論を呼んだのがビニールハウス内でのジョニー大倉の独白シーンの長回し。実際には1カットではなく、3カットであるが、カメラは永島敏行の視点で正面からのカメラでジョニー大倉が延々と喋り続ける。根岸は「ずっとカメラがある方が力を生むんじゃないかと、聞いてる永島君と、観てる人が同じ気持ちになれるんじゃないかなという...それに賭けてみた」と話している。本作を鈴木尚之を団長とする日本シナリオ作家協会の代表団が中国雲南省の山奥まで持って行ってシンポジウムを開いたが、このシーンを中国の映画人が辛辣に貶し、鈴木が「こんな名作をこのまま言われっ放しじゃ帰れない」と昼食を挟んでシンポジウムを続け、いかに狙いとしてこれが素晴らしいか、中国の映画人を説得したという。
栃木県宇都宮市。
Owlapps.net - since 2012 - Les chouettes applications du hibou