テクノクラートまたは技術官僚(ぎじゅつかんりょう)とは、科学技術や経済運営、社会政策などの高度な技術的専門知識によって、政策立案に参画し、その実施に関与する官僚、管理者のこと。技術官僚によって、経済・行政が支配される社会体制や思想は、技術家主義(ぎじゅつかしゅぎ)、またはテクノクラシーと呼ぶ。
技術官僚が輩出した時期は、近代からである。科学技術の発展により、その技術と政治力を結びつけ、国力を増大させる時に技術官僚が大きな役割を果たしたと言われる。第二次世界大戦や冷戦時の軍備拡張競争、米ソの宇宙開発競争などでは、実に多数の技術官僚が活躍した。特に社会主義国のソビエト連邦は資本主義国であるアメリカ合衆国と対抗するため、計画経済での工学知識の必要性で生じた巨大な技術官僚制からテクノクラシーと呼ばれ、一時はレオニード・ブレジネフらソ連共産党政治局のメンバーは88%がエンジニアであった。かつてのソ連と同様に科学的社会主義を奉ずる中華人民共和国でも江沢民、胡錦濤、習近平など中国共産党の執行部は理工系の出身者が多数を占め、一時は地方政府の知事や市長は80%以上が自然科学やエンジニアリングの学位を持っていた。
一般に、科学主義を重んじ、時に民衆の利益よりも科学の発展を優先する傾向があるとされている。その暴走により、国家が破綻するとの考えもあるが、基本的に民主主義国家では、技術官僚は国家及び民衆のためにその科学技術を基に国民の利益につながる政策に関与することが主である。
なお、国立大学や警察関係に上級技官という役職があるが、これとはまったく別のものである。あくまでも、国家(州や県なども含む)や国際機関において政策決定に関与できる者を指すことが多い。また、現行の官僚制に「テクノクラート」という役職・階級がある訳ではない。
フランスではフランス革命で貴族制が否定され、新国家再建のために高度な専門知識・技術を有する人材が求められたが、フランスの大学はリベラルアーツ教育を目的としており、実学の専門教育を高度に行う機関が存在しなかった。そのためグランゼコールと呼ばれる技術官僚養成機関が急遽設立された(現在では経済・商業関係のグランゼコールも存在する)。
日本では、技術官僚・キャリア技官が多い省庁としては、国土交通省、経済産業省、防衛省、気象庁、農林水産省などがある。また多くはないが法務省(医療従事専門職など)、文部科学省、警察庁、消防庁、財務省(建築従事者としての財務技官[1])なども技術官僚を抱える。
厚生労働省には、医系技官として医師免許、歯科医師免許を取得した者、薬系技官として薬剤師免許を取得した人材が採用され、彼らが幹部職員に就任するポストがある。政策決定に関与できる高級ポストが医師出身者の医務技官の場合、医務技監のポストがあり、また局長クラスが医政局長、健康局長、技術総括審議官などの3つがある。歯科医師の最高位は課長クラスの歯科保健課の1つであり、これは政策決定に関与する立場ではない。その意味では、医師と歯科医師の人事配置は異なるが、それぞれに期待される役割が異なることによる違いであると言える。
過去の防衛(軍事)関係の技術官僚は、その暴走により科学技術の競争のための場として、戦争を選択することがあり、その危険性を絶えず背負う立場であった。現在でもその立場を完全に払拭したわけではない。また、世界に眼を向ければ、原子力開発の技術者や軍事技術者が技術官僚として政策決定権のある要職に就くこともある。軍事技術者には、航空技術者、車両技術者、情報科学技術者、建築技術者、電気電子技術者、気象技術者、環境・化学系技術者など様々な要職がある。これらの人材には、資格・称号・学会への参加などのほかに指導的立場として社会に対しても影響を与えた実績のある人物であることが要求される。
近年、理工系出身者で金融工学や数理工学など高度な専門能力を活かした技術官僚が輩出されている。
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