オルガン(パイプオルガン)におけるストップとは、オルガンの音色選択機構であり、これによってピッチや音色の異なる複数のパイプ列から発音するパイプ列を選択する。しかし選択機構だけでなく、それによって選択される音色やパイプ列そのものも「ストップ」と呼ぶことがある。
通常の状態ではオルガンの風箱からパイプへの空気の流入はパイプ列ごとにスライダーによって阻止された状態になっている。この状態では鍵盤を操作してパレットを開放しても音は出ない。 ストップ操作部により、スライダーを動かして、スライダーに開けられた穴とパイプとの接続部の位置を一致させると、空気の経路が確保されパイプ列が発音可能となる。
複数のストップを同時に作動させることによって、音色を合成することができ、単体のストップ音色にはない音色を多彩に生み出すことができる。特に異なるピッチのパイプを同時に鳴らすことによる倍音構造の合成が重要である。またストップの違いによって、音色の変化をもたらすだけでなく、鍵に対する発音高を変えて、限られた鍵盤の鍵数よりも広い音域を網羅することもできる。
英語においてはorgan stop、ドイツ語ではRegister、イタリア語ではregistro、フランスではjeu d'orgueと呼ぶ。これを操作することにより、各種一連のパイプ列へ送風を供給するのを遮断したりそれを解除したりするものであるため、塞閉器の意味でstopと呼ぶようになった。日本においては、これによって風路に栓をして送風の供給を止めることから、「音栓」とも訳されている。
伝統的な引き出し式のノブによるもので、正統派のパイプ・オルガンにおいて最も採用されているものである。あるストップの音を鳴らすときはノブを引き出し、鳴らさない場合には奥に押し込む。先端の中に仕込まれている電球が点灯して、教会などの暗闇でも目視確認がしやすいようになっているものもある。
昨今の新しいパイプ・オルガンにおいては、コンビネーションを使用した切り換えによっても、実際にドロー・ノブが自動で出入りすることにより、ストップの使用状況が目視確認ができるようになっているものもある。それは、TuttiボタンやCancelボタンを押した時や、クレッシェンド・ペダルを踏んだ時においても同様のことが言える。
電子オルガンに採用されることは、コストの面から敬遠されている。教会向けを意識した電子オルガンには視覚的な効果からドロー・ノブが装備されているものの、そのほとんどはプラスチック製であり、バネと電球とを使用した簡易的なものであって、コンビネーションを切り換えてもドロー・ノブが自動で出入りすることがないのが普通である(例:ヴァイカウント「Cuntics」シリーズ,コンテント「Pastorale」シリーズ)。アーレン社の電子オルガンではドロー・ノブは木製で、コンビネーションを切り替えると実際に出入りする。
一般的には、幾分斜め向きに設置されており、上部と下部とを指で押すことによって入・切が切り替わるが、その際に、タブレットの奥に仕込まれている電球が点灯してプラスチック製のタブレットそのものが光ったり、LEDが付いていることによって、教会などの暗闇でも目視確認がしやすいようになっていることが多い。
斜めに突き出て並んでいる舌状スイッチの下部を指で下げたり上げたりすることによって入・切が切り替わるものである。上部などにLEDが付いていることによって、教会などの暗闇でも目視確認がしやすいようになっていることもある。
一度指で押すと入になり、もう一度押すと切になるようにできている。目視確認のため、電球やLEDにより点灯する。
フルー管(英: flue pipe)は、エアリードにより発音する管群である。発音原理的にはリコーダーに等しい。オルガンのパイプの主流を占める。
フルー管はパイプの末端が開かれているか閉じているかによって、開管と閉管に分けられる。 開管に対して、閉管では奇数次高調波の多い音質となり、同ピッチを得るためのパイプ長は開管の1/2となる。両者の中間的な性質を持つ半閉管パイプもある。
狭いスケール(パイプの太さ)のパイプは倍音が強くなり弦楽器的な音質となる。 逆に広いスケールのパイプは倍音が少なく純音に近くなる。
スペース節約のために直角曲げを施したパイプもあり、曲げても、総パイプ長の音が出る。
リード管(英: reed pipe)は、リードにより発音する管群である。クラリネットやサクソフォーンなどと同様の発音原理による。
底穴から風が入ると真鍮製のリードが振動して発音する。 共鳴管は音響インピーダンスを整合し放射効率を高めると共に倍音を整える。円錐形の共鳴管は完全な倍音列を強調し、円筒形の共鳴管は奇数次の倍音を強調する。 リード管のピッチは共鳴管の長さと、リードの長さ、質量、剛性によって決定される。条件が同じであればより長いリードはより低いピッチを与える。 固有振動数に基づいた共鳴管の長さは、円錐形の場合は概ね開管フルー管の長さに相当し、円筒形の場合は閉管フルー管の長さに相当するが、音質上の理由などからそれに従わない長さで作る場合もある。 レガール類のリード管はピッチに対して非常に短い共鳴管を持つ。19世紀には通常の2倍や4倍の長さの共鳴管を持つリード管も作られた。
リードオルガンやアコーディオン、ハーモニカなどと同様のフリーリードによるものもわずかに使用される。
リード管とは異なり、発音原理的には金管楽器(トランペットやトロンボーン等)に似ている。革を貼った弁が振動源、共鳴管で調律する。低音用の特殊な管でロバート・ホープ=ジョーンズが発明した。
複数のストップを混合させて音色を作り出す方法は、大きく分けて2つの面から見ることができる。1つは、異なった音色の混合によって生み出されるものであり、そしてもう1つは、異なった音高の混合によって生み出されるものである。この後者のものは、音色の特徴としての倍音構成を複数の音高のパイプ群を組み合わせることで人工的に作り出すものであり、ストップを使用する上で特に重要な概念である。
一般にオルガンのストップ名には数字が添えられているが、これはフィート律によるストップの基準音高の表記である。一般的には、数字の横に「 ' (プライム)」が添えられ、ヤード・ポンド法における長さの単位としてのフィート(以下フィートはプライムで表記)を意味する。
オルガンにおいて、鍵盤どおりの音高が発音されるストップ、すなわち、記音(記譜音)と実音とが一致するストップは8'である。これは一般に鍵盤の左端の鍵はヘ音記号における下第二線のC音となるが、この音を出すために必要な通常の開管のパイプ長がおおよそ8'であることに由来する。オルガンのストップにおける基準音高のフィート律表記は、この鍵盤の最低音のパイプの長さを表記することによっている。したがってストップの全ての音のパイプ長が8'という意味では決してない。1フィート=0.3048メートルであるため、8'=2.4384mとなる。 記音の1オクターヴ上の音高で発音するストップは8'の2分の1倍長で4'であり、記音の2オクターヴ上の音高で発音するストップは8'の2×2=4分の1倍長の2'となる。また逆に、記音の1オクターヴ下の音高で発音するストップは8'の2倍長で16'、記音の2オクターヴ下の音高で発音するストップは8'の2×2=4倍長の32'となる。
実際のパイプにおいては、音高に対して様々なパイプ長が採られており、例えば、閉管の場合に要求されるパイプ長は同じ音高の円筒開管の1/2の長さであり、リード管の音高は共鳴管の長さだけでは決定されない。しかしフィート律表記では実際のパイプの長さに関わらず、基準音高に対応する円筒開管のパイプ長によって表記する。
記音・鍵盤に対してオクターヴ間隔以外の音程のストップもあり、ミューテーション・ストップと呼ばれる。 5度音程系のものが最も一般的で、次いで長3度音程系が使用されるが、それ以外のものは標準的にどのオルガンにおいても装備されているものではなく、個性的な仕様となる。 ミューテーション・ストップは基本的に単体で使用することはないが、稀に単体のミューテーション・ストップを移調楽器のように用いることもある。
上図の中で、特に低い5度音程系のストップは標準的なものではなく、一般に差音効果を生み出すためのものである。例えば低音域のパイプを完全5度の音程関係で2本同時に鳴らすと、低い方のパイプよりも1オクターヴ下の音が聴こえる。この差音の特性を利用した5度音程系のストップは、19世紀のシンフォニック様式のオルガンで流行し、設置場所に充分な高さを必要とする長大な低音パイプに対して、設置スペースを節約するための一つの解消法ともなっている。例えば、32'ストップが設置する空間が確保できないような場合、16'に10 2/3'を同時に鳴らすことで32'の低音を擬似的に得ることができる。
ピッチの異なる複数列のパイプを束ねたものであり、複数のストップを同時に加えたのと同様の効果が得られる。 通常、何列のパイプが装備されたものかをローマ数字にて併記される。その際、「列」を意味する次の各語、独語:Fach(ファハ),仏語:rang(ラング),英語:rank(ランク),伊語:fila(フィラ)によって呼ばれる。
Mixtureは複数の高いピッチのフルー管のパイプ列からなる複合ストップである。ミクスチュアという語は、Cymbel、Scharf、Fourniture、Ripienoなどの同種の複合ストップを包括的に指す用語としても使われる。ミクスチュアは高次の倍音群を付加することで輝かしい音色をもたらす。一般にオクターヴ系と5度音程系のパイプ列からなるが、3度音程系を含む場合もある。イタリアのオルガンでは複合ストップではなく各列がそれぞれ独立したストップとして存在しており奏者自身が組み合わせて使用する。 ミクスチュアは非常に高いピッチのパイプからなるため、制作上の限界から、一般にミクスチュアを構成する各パイプ列を音域内の適当な段階で低いピッチに折り返す事(ブレイク)が行われる。 ミクスチュアは中世のオルガンのストップ機構を持たず不可分で常に同時に鳴らされたパイプ群(ブロックヴェルク)から、ストップによって低いピッチのパイプ列が分割されたとき、残りの高いピッチのパイプ列がまとめられたものに由来する。
Sesquialteraは2-2/3'と1-3/5'の2列のフルー管からなる複合ストップである。基音のストップにリード的な音色を付加する。
Cornetは8'、4'、2-2/3'、2'、1-3/5'のフルー管からなる複合ストップである。リード的な音色を持ち、ソロで用いるほか、リード・ストップの高音域を補うことにも用いられる。8'や4'は省略されることもある。通常、音域は鍵盤の右半分のみである。
一般に大規模なオルガンでは、パイプ群はそれぞれが独立した小オルガンともいえるディヴィジョンに組織される。各ディヴィジョンごとに鍵盤が設けられ、それによって音色や音量の対比が可能となる。 ディヴィジョンの分け方や内容は様々であるが以下に例を挙げる。
Great Organ(英), Grand Orgue(仏), Hauptwerk(独)
3段手鍵盤の場合、一般的には中段に割り当てられる。それ以上の数の手鍵盤がある場合には、3段よりも上に追加されるため、下から2番目が主鍵盤となる。但し、フランス式の3段手鍵盤では、最下段が主鍵盤とされる傾向がある。
主オルガンよりも小型で、しばしば演奏台の背後に設置される。
スウェル・シャッターによる強弱表現が可能なディヴィジョン。元々スウェル・シャッターは、このディヴィジョン特有の仕様であったが、19世紀以降のオルガンの中には、他のディヴィジョンにも個別のスウェル・シャッターが設置されて、独立して強弱が表現できるという設計のものも見られる。
足鍵盤用のディヴィジョンは特に北ドイツのオルガンで充実しているが、その他の地域の様式では他のディヴィジョンに比べ簡素であったり、あるいは独立したディヴィジョンを持たない場合もある。
カプラーを用いることによって、あるディヴィジョンのストップを他のディヴィジョンの鍵盤からも使用することができる。
音を震わせるビブラートの効果を発生させるものである。大きく分けて以下の2種によるものが存在する。
送風の変動によって音の強弱を発生させる。振動速度は共通していないが、例えば1分間に120回ほどの振動を発生させたりする。一般的には振動速度は固定されているが、現代では奏者の操作によって速さを変えられる可変式のトレムラントもある。電気装置のない時代から存在したが、振動速度が均一なため、機械的に聞こえてしまうという短所がある。
これらの唸音ストップは、ビブラート効果を求めていない時には混合すべきではなく、トゥッティの際にも含めない。単独では用いられず、他の対になるストップと併用しなければならないなど、この種のストップ使用には注意が必要である。また、演奏台では誤用防止のためにストップの並びを工夫し、主ストップとしてではなく補助ストップ列などに、あるいは対になるストップの横に並べるなどの配慮が求められる。
ほぼ同一種のストップでも、地域により名称が異なる場合が多い。 例えば最も基本的な中庸なスケールの円筒開管フルー管のストップは地域により以下のように呼ばれる。
また逆に同一名称のストップであっても、地域や時代あるいは製作家によって内容が異なることがある。
一般にオルガンの仕様書は、そのオルガンの持つ全ストップをまとめた一覧表を載せている。各言語において以下のように呼ばれる。
英:stoplist・stop-list, specification 独:Disposition 仏:composition(de l'orgue), disposition 伊:disposizione, composizione
ストップ名は、鍵盤ごとに、フルー管、複合管、リード管に分けて、それぞれピッチの低い順に並べられる。また仕様書には、楽器に装備されているカプラーの種類や、機構方式、鍵盤数、足ペダルの種類と数(スウェル・ペダル、クレッシェンド・ペダル)、コンビネーション・メモリの保存セット数なども書かれる。
ストップ名の付け方は様々であるが、以下に例を挙げる。
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