『火の鳥』(ひのとり)は、手塚治虫の作品。20世紀を代表する漫画家である手塚のライフワークと位置付けられているシリーズ漫画である。時代的あるいは地質時代的に、または宇宙的に大きく隔てられた様々なキャラクターが登場し、死ぬことのない「火の鳥(フェニックス / 不死鳥)」を追い求めるという一点で互いに繋がりを持ちながら、ちっぽけな一つの生命としてあるいは煩悩にまみれた人間として生きる機会を得た“舞台”で、それぞれの生涯をかけたドラマを展開してゆくというもの。
本作は、漫画を原作としたメディアミックス作品(映画・アニメ・ラジオドラマ・ビデオゲーム)が製作されているほか、アニメーション映画と演劇ではスピンオフ作品となっている。
手塚治虫が漫画家として活動を始めた初期のころから晩年まで手がけられており、手塚治虫がライフワークと位置付けた漫画作品。古代からはるか未来まで、地球や宇宙を舞台に、生命の本質・人間の業が、手塚治虫自身の独特な思想を根底に壮大なスケールで描かれる。物語は「火の鳥」と呼ばれる鳥が登場し火の鳥の血を飲めば永遠の命を得られるという設定の元、主人公たちはその火の鳥と関わりながら悩み、苦しみ、闘い、残酷な運命に翻弄され続ける。
作品は時系列順には執筆されず、雑誌「COM」以降の連載作品では過去・未来・過去・未来と交互に描き、手塚本人が死亡した瞬間に作品が完結するという構想で描かれていた。
この作品に多くの漫画家が影響を受け、数多くの映像化・アニメ化・ラジオドラマ化が行われた。
火の鳥は「○○編」と名の付く複数の編から成り立っている。
最初に連載されたのは1954年(昭和29年)、学童社の『漫画少年』の「黎明編」だったが、学童社はその後約1年ほどで倒産し未完に終わる。1956年に雑誌『少女クラブ』に「エジプト編」「ギリシャ編」「ローマ編」が連載された。そこから期間を空け、1967年に雑誌『COM』に、構想も新たに「黎明編」が連載された。さらに「未来編」「ヤマト編」「宇宙編」「鳳凰編」「復活編」「羽衣編」「望郷編」「乱世編」と書き継がれたが、同誌は休刊になる。1976年には、雑誌『マンガ少年』で改めて「望郷編」「乱世編」が連載され、さらに「生命編」「異形編」も連載されたが、同誌も休刊する。1986年に小説誌『野性時代』で「太陽編」が連載された。
各エピソードは、1つの物語として完結しているため、朝日ソノラマ出版版や角川版などの一部では、「第○巻」とせずに「○○編」とだけ付けていた。手塚の生前は、このような巻数表記の無い単行本が主流であった。
手塚が生前執筆した『火の鳥』は「太陽編」までであるが、その後も複数のエピソードの構想が練られていた。『火の鳥』は過去、未来、過去、未来、と交互に「現代」に近付いて描かれるが、手塚は「自分の死亡時刻」を現代としており、「現代編」を死ぬ瞬間に1コマ程度描くと公言していたが、それは叶わなかった。
『火の鳥』の物語は、円環構造をなしている。作中の時代においてはもっとも先の時代を描いた「未来編」のラストは「黎明編」に回帰する構成になっており、作品自体が輪廻を無限に繰り返すような作りにもなっている。
1980年に公開されたアニメーション映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』は、漫画の映像化ではない手塚オリジナルの物語であり、火の鳥全体を総括するような内容になっている。本作品は火の鳥の世界の結末の一つが描かれている。
手塚死去のために描かれなかった内容は、セガから発売された2003年のゲーム『ASTRO BOY・鉄腕アトム -アトムハートの秘密-』や2006年の『ブラック・ジャック 火の鳥編』などに一部着想が生かされている。また、作家の桜庭一樹が「小説 火の鳥 大地編」を執筆している。
『ブッダ』は、雑誌『COM』の休刊時に「火の鳥 東洋編」として出版社から企画されたものであった。そのため、作風やテーマ性が共通し、鼻が大きな人物(猿田と同じ顔)など共通の登場人物が数人出てくる。
1989年に手塚がストーリーを手がけた舞台劇『火の鳥』が上演された。2月8日にスペース・ゼロにて初演を迎えたが、翌2月9日に手塚が亡くなったため、急遽追悼公演として上演されるようになった。手塚の訃報を知ったスタッフが午後7時の公演時間に合わせてお悔やみの場内アナウンスを流すと、観客席からは嗚咽が漏れ、舞台の最中にも止まらなかったという。その後、この舞台劇版は講談社から発売されている『手塚治虫漫画全集 386巻 別巻手塚治虫シナリオ集』や朝日新聞社から発売されている『ぜんぶ手塚治虫!』、樹立社の『手塚治虫SF・小説の玉手箱』などでシナリオ原稿を読むことができる。この舞台劇版は手塚存命中に発表された最後の作品であり、手塚治虫記念館の1階の入り口近くにある作品年表でも最終作として記載されている。
声は各種メディアでの声優、演は実写版での俳優。
上述してある通り、火の鳥という作品は読む順番を入れ替えることも可能であり、多くの出版社から単行本が発売されているが収録順は出版社によってさまざまである。現在までに手塚治虫が描いたとおりの順番で収録された単行本は一冊も無い。下記では手塚治虫が描いた順番で紹介する。
この他、手塚以外の作家により作画された連載作品として、アニメ映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』をの内容を元にコミカライズした御厨さと美による漫画(初出:『マンガ少年』(1980年2月号 - 4月号)がある。詳細については当該項目を参照。
上記とは別に手塚が胃癌中の病院のベッドで手がけた作品「舞台劇 火の鳥」が存在し、この舞台劇が公開された1989年2月8日の翌日に手塚は亡くなっている。この舞台劇の時代背景は西暦2001年である。
2012年3月現在、入手可能な単行本は以下の通り。
またコンビニ用のB6判コミックが、2011年2月から7月にかけて秋田書店と朝日新聞出版の共同企画で全7巻が発行され、2015年4月からは秋田書店から合本形式で全5巻が発売された。
手塚治虫は単行本を出すたびにそのつど内容や絵に手を加えており、現行の単行本でも大きく分けて3つの種類がある。朝日ソノラマ(現・朝日新聞出版)版と角川書店版と復刊ドットコム版である。講談社の漫画全集および文庫全集は朝日ソノラマ版である。小学館クリエイティブ社の版は角川版の内容に雑誌版の二色ページを再現、扉絵を収録したもの。そして、2011年版コンビニコミックは角川版、2015年版コンビニコミックは朝日ソノラマ版である。
手塚による加筆・修正の順番は、『雑誌掲載版』→『朝日ソノラマ版』→『角川書店版』である。それぞれ編によってはストーリーが大きく違うものもある。『復刊ドットコム版』は手塚が手を加えてない雑誌連載時の状態がそのままが読める単行本である(しかし、単行本時に直された設定ミスや絵の描き間違いもそのまま収録されている)。
一連の作品の一部はラジオドラマ化、アニメ化、テレビゲーム化、または実写映画化された。
『火の鳥』(ひのとり)は1978年(昭和53年)8月19日(1978年8月12日には、有楽座にて先行公開)に公開された日本の特撮・アニメ映画。製作は東宝・火の鳥プロダクション。配給は東宝。イーストマンカラー、東宝1.5ワイド。第1部である黎明編(月刊COM版)を映画化。キャッチコピーは、「はばたけ! 永遠の鳥よ 燃える炎の中に愛の宇宙が見えるまで」。
実写にアニメーションを合成した表現が特徴であるが、ピンク・レディーを踊る狼、瞳の中に燃えあがる怒りの炎といった遊びの過ぎたアニメ合成が多く、「壮大なテーマが結実しないうちに映画がさっさと出来上がってしまった印象」(佐藤忠男)など批評は芳しくなかった。本作品の映画化を熱望していた市川崑監督は、劇中でアニメと実写の融合を試みたものの、撮影条件が満たされないままアイディアが先行する形となり、アニメーション制作やオプチカル合成の遅延など、現実的な問題からアニメパートが想定よりも短くなる結果となった。また実写パートも、合戦用に調教された馬を調達できずにカット割りや編集でカバーするなど、製作上の制約を技術力で補う事態となった。市川監督自身も同年にNHKラジオ番組「日曜喫茶室」で、「ラッシュを見て、こんな映画を撮った監督はどこのどいつだと思った」と冗談まじりに失敗作を示唆している。さらに後年、本作品を述懐した市川監督は、「手塚治虫さんの原作に惚れ込み過ぎた。もっと原作と距離を保てば良かった。せっかくの原作に申し訳ないことをしました」と反省の弁を述べている。
音楽面ではプロデューサーの市川喜一の要望でミシェル・ルグランやロンドン交響楽団が起用され、フランスで作曲と録音が行われた。また、芸能山城組の演奏をテレビ放映で知った市川監督が、本作品のヤマタイ国の場面で音源使用している。また尾美としのりのデビュー作であり、表記は「尾美トシノリ」としている。
劇場映画での主演歴(厳密にトップクレジットに限定して)を持つ出演者12人、市川監督以下、谷川俊太郎、コシノジュンコ、山城詳二、ミシェル・ルグランら世界的知名度の高いメンバーを結集したスタッフ陣と超豪華な顔ぶれで話題を集めたが、興行成績は都市部ロードショーの盛況に反し地方興行が惨敗。トータルの配給収入7億は2010年代の興行収入に換算すれば二十数億に相当する中ヒットといったところだったが、製作費の高さに見合わず、初期構想では実写「第1部」とフルアニメーション「第2部」の二部構成で、出足好調だったことから一部では「第2部」の製作決定と報じられシナリオも完成していたにも関わらず、続編『宇宙編』はお蔵入りすることになった。ただし企画自体は存続し、1980年に劇場用オリジナル長編アニメである『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』として結実している。
東宝特撮封印作品を販売するドラマCD発売会社グリフォンは『ノストラダムスの大予言』と『獣人雪男』のドラマCDの広告の下に東宝特撮封印作品ドラマCDシリーズ第2弾として、『緯度0大作戦』と本作品のドラマCDの発売を予告していたが、実現せずに未発売に終わった。後記の通り地上波放送された他CSでの放送は行われており、2015年10月からは各種サイトで映像配信も行われている。映像ソフトは2021年12月18日にBlu-rayが発売され初ソフト化となった。
1981年1月5日(月曜) 20:02 - 22:48(日本標準時)、テレビ朝日系列で『新春特別ロードショー』と題してのテレビ放送が行われた。途中、21:24 - 21:30には『ANNニュース』が放送された。
前述の実写映画『火の鳥』は本来は二部構成であった。しかし、実写版は独立した作品となり、本作品はシナリオが作成されていたにもかかわらず制作には移らなかった。結果的に本作品の計画は『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』へとつながった。
本作品は『火の鳥』の世界の結末の一つが描かれており、実写「第1部」と作品が輪廻する予定であった(第1部で始まりを見せ、第2部で終わりを見せ、終わりは始まりにつながる予定だった)。現在、この『火の鳥』(第2部)の内容は河出書房新社の『手塚治虫絵コンテ大全6 火の鳥2772』で読むことができる。内容は「未来編」「宇宙編」「復活編」「望郷編」を総括したような作品になっている。
西暦23xx年。人類はスペース・リープ航法という手段を発明し、自由に宇宙を移動していた。主人公は牧村壮吾、29歳、一流の宇宙ハンター。牧村は試験管で生まれた人物であり、家族はオルガと呼ばれるロボットしかいなかった。牧村にとってオルガはアシスタントであり、妻であり、娘であり、かけがえのない存在であった。
ある日、牧村は地球連邦移民局の局長であるロック長官に呼ばれる。そこで永遠の命を持つ「火の鳥」という生物を捕獲することを命じられた。牧村はレオーナとチヒロという2人の男女と出会い、一緒に旅に出ることになった。レオーナとチヒロは旅の途中で「エデン17」という惑星に降り立ち、仲間から外れる。牧村はレオーナから火の鳥が住んでいる惑星について聞き出し、そこへ向かった。その惑星は鳥人が人間のように生活している惑星であった。牧村は火の鳥の情報を聞き出すために、ポポヨラという鳥人の娘と接触した。ある日、オルガが突然ポポヨラこそが火の鳥であると語りだす。牧村はそれを知り、ポポヨラと戦い、正体を現した火の鳥から血を貰う。
牧村は地球に帰ろうとするが、地球の周辺まで近づくと地球から攻撃を受けるようになった。それは地球の人口増加、食糧危機、宇宙民の反乱などを防ぐために宇宙民を地球に入れないとするロックの判断であった。宇宙民は移民連合を組み、地球と対抗する突撃隊を組織した。牧村は移民の中でレオーナとチヒロの娘である「ロミ」を見つける。ロミは両親であるレオーナとチヒロを亡くし、15歳になり、美しい地球に憧れるようになり移民連合に参加した。牧村はそんなロミに恋をするようになった。牧村は愛するロミのためにロックと戦うことを決意する。
移民連合で沢山の人間が亡くなったが、牧村達は地球へと潜り込むことができた。牧村とロミとオルガは、荒れ地に巨大なドームのような建物を発見する。その建物には「猿田彦」という博士が住んでおり、そのドームには世界中の動物・植物が冷凍保存され集められていた。その時、地球は連鎖爆発を起こし、滅びてしまう。猿田博士も死に、オルガも牧村をかばって破壊。地球上で生き残ったのは牧村とロミだけであった。そして二人は…。
1時間45分-2時間
1980年公開の映画作品。手塚治虫が原案・構成・総監督を務めた。
1986年公開。同時上映は真崎守監督の『時空の旅人』。映画作品だが公開当日に映像ソフトが発売されている。
ストーリーについては、#執筆された作品を参照。
『火の鳥 エデンの宙』のタイトルで2023年9月13日よりディズニープラスにて世界独占配信された後、エンディングが異なるバージョン『火の鳥 エデンの花』が同年11月3日に公開。「望郷編」をアニメ化した作品。
1987年8月1日発売。ストーリーについては、#執筆された作品を参照。
1987年12月21日発売。ストーリーについては、#執筆された作品を参照。
2004年に手塚プロダクション制作、NHK-BSハイビジョン(総合テレビ)にて本放送された。火の鳥を演じた竹下景子はアニメ映画『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』以来24年ぶりの火の鳥での出演である。
放送エピソードはアニメ化していなかった「黎明編」・「復活編」・「異形編」・「太陽編」・「未来編」。内容は一貫して愛憎両面での父子関係ないしは擬似父子関係を重視したものに大幅に短縮・改編され、編によってはほぼ別物語に近いものもある。また、原作漫画の実験的表現はほぼ完全に排されている。
ハイビジョン制作、5.1chサラウンド音声作品。
NHKでは様々なチャンネルで何度も放送されている。
ストーリーについては、#執筆された作品を参照。
手塚治虫ワールドの300インチシアターにて上映されていたオリジナル短編アニメ。制作陣はテレビアニメ版と一部同じだが、火の鳥の声優は代わっている。
手塚プロダクション/2004年7月17日/21分
『火の鳥 -絆編-』(ひのとりきずなへん)は2012年に公開されたプラネタリウム専用アニメーション映画である。秋田県能代市・能代市子ども館 、宮城県大崎市パレットおおさき(大崎生涯学習センター)、茨城県つくば市つくばエキスポセンターで上映。
主人公の平凡な地球人の少年カイは、宇宙へ飛びだったまま連絡が途絶えた父の帰りをずっと待っていた。しかし、父は10年経っても帰ってこなかった。ある日、そんなカイの前に炎に包まれた不思議な鳥が現れる。カイはその鳥と宇宙へと旅立つ。そしてカイは父の愛を知る。
愛媛県松山市は2019年より道後温泉本館が大規模な保存修理工事を開始したのを機に、同年1月より「道後REBORNプロジェクト」として手塚プロダクション、ポニーキャニオンと共同コラボレーション企画を展開。火の鳥をイメージキャラクターにしたキービジュアルや入浴券イラストが使用されるほか、同年5月からは手塚プロダクション制作によるオリジナルアニメーションを配信。アニメは全4話(プロローグ1話+本編3話)構成で、永遠の命を持つ火の鳥が三千年にわたる道後温泉の歴史において、それぞれの時代で人や神と関わる物語を描く。
下記に各話の登場人物および概要も簡単に解説。
2作品とも、アニメ映画『火の鳥 鳳凰編』とのメディアミックス作品。パッケージやマニュアルの表紙に映画のイメージ画像が使われているほか、手塚治虫に加えて映画の製作元である角川書店がクレジット表記されている。
上記は、手塚治虫生誕90周年記念書籍『テヅコミ』(マイクロマガジン社)にて連載されたトリビュート作品。2013年愛媛美術館で開催された「手塚治虫展」にて展示された漫画も収録し、単行本が全1巻刊行された。
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