『怪獣総進撃』(かいじゅうそうしんげき)は、1968年(昭和43年)8月1日に封切り公開された日本映画で、ゴジラシリーズの第9作。製作、配給は東宝。カラー、シネマスコープ。併映は『海底軍艦』(短縮版)、『海ひこ山ひこ』。略称は『総進撃』。
観客動員数は258万人。
東宝特撮怪獣映画20記念として、ゴジラをはじめとする11体の東宝怪獣を集結させた作品。作品の舞台も、孤島をメインとしていた前2作(『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』、『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』)に対し、世界各地の都市を怪獣が襲うなどスケールアップしている。
SFブームと宇宙開発ブームの最盛期に製作された本作品はSF的要素が加味され、「怪獣ランド」の設定も後年におけるテーマパーク構想の先駆けとされる。モダンなデザインの調査用宇宙艇ムーンライトSY-3号の活躍が描かれるほか、近未来という設定ゆえに携帯テレビが登場する、防衛隊のミサイル車両などもヘリコプターからの遠隔操縦で動くという設定が盛り込まれている。演出面でも、月からの長距離電話料金に言及したり、農夫が同郷の月基地隊員の話題を語ったりするなど、近未来の日常を表現している。
監督の本多猪四郎は、本作品の劇場パンフレットに映画のSF設定について特別エッセイを寄稿している。1971年(昭和46年)の特撮テレビドラマ『帰ってきたウルトラマン』(円谷プロダクション、TBS)第1話ではサブタイトルとして本作品のタイトルが引用されており、監督も本多が務めた。
併映作品は、シリーズで初めて一般映画ではなく、再上映の特撮作品と人形アニメーションという子供向けを意識した組み合わせとなった。この流れは、第一次怪獣ブームを受けて前々年の『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』や前年の『キングコングの逆襲』から見られたもので、本作品が好調であったことから、後の東宝チャンピオンまつりへつながったとされる。
20世紀末、国連科学委員会 (U.N.S.C.) は硫黄島に宇宙港を建設する一方、世界の脅威だった怪獣たちを小笠原諸島の周辺にある海洋牧場(通称「怪獣ランド」)に集め、平和裏に管理・研究していた。
しかし、怪獣ランドに突然謎の毒ガスが充満した直後、怪獣たちが主要都市に出現して暴れ始める。原因を突き止めるべく、国連科学委員会は月開発基地の月ロケットムーンライトSY-3艇長の山辺克男に怪獣ランドの調査を依頼する。
早速調査に向かった山辺たちは、怪獣ランドの職員たちによって怪獣たちがリモートコントロールで操られていることを知る。さらに、その職員たちを操るキラアク星人が姿を現し、恐るべき地球侵略計画が明らかになる。
火星と木星の間に存在する小惑星帯に住んでいた高度な科学文明を持つ宇宙生命体。尼僧に似たケープを着た女性ヒューマノイドに擬態して地球人の前に現われるが、正体は小さな鉱物生命体であり、本来は人頭大の岩のような姿をしている。
低温が弱点であり、高温下でなければ女性ヒューマノイドの姿を維持できないため、富士火山帯を基地として地球の火山脈を狙って侵略に乗り出した。地球人が普通に住める程度の常温下でも活動不能となるため、基地の外へ出ることはないが、低温下でも死亡には至らずに鉱物化するだけに過ぎないため、実質上は不死である。
月面カッシーニ噴火口に基地を建設し、手始めにゴジラをはじめとする地球怪獣たちを保護している小笠原怪獣ランドを襲撃すると、島を毒ガスで覆って怪獣ランドの職員たちや地球怪獣たちを拉致する。職員たちについては自分たちの意向を伝える使節や護衛として、地球怪獣たちについては侵略の戦力としてそれぞれ小型のコントロールマシンで操り、世界の主要都市を次々と攻撃する。
世界各地へ半径2,000キロメートルまで電波が届く送信機をばら撒いていたが、それらは国連によってすべて回収される。さらに、月面基地に設置していたコントロールシステム本体もムーンライトSY-3号の活躍で奪取され、地球怪獣たちを操れなくなった結果、地球人に操られた地球怪獣たちに富士の麓の本拠地を包囲される。
キングギドラに地球怪獣たちを迎撃させるが、その連係プレイにキングギドラは翻弄されて敗北する。最後の手駒として円盤を炎で包み、炎の怪獣ファイヤードラゴンに偽装して差し向け、怪獣ランドのコントロールシステムを破壊するが、そこから解放された地球怪獣たちは自らの意思でキラアク星人への攻撃を続行する。まもなく、ファイヤードラゴンをムーンライトSY-3号の攻撃によって撃墜されたうえ、本拠地もゴジラによって粉砕されたため、キラアク星人は全員が鉱物化して侵略も潰える。
小笠原諸島に建設された怪獣の研究施設
各怪獣の習性や本能に合わせて区画分けされており、共存を可能としている。地下のコントロールセンターでは、多くの科学者や所員たちが怪獣たちの研究や飼育に従事しており、怪獣が区域外に出ることを防ぐため、地上には怪獣毎に嫌悪を示すガスを噴出する装置が設置され、空中には磁気防壁が張られている。
参照
音楽は、『怪獣大戦争』(1965年)以来となる伊福部昭が担当。通称「怪獣総進撃マーチ」を中心とした人類側の楽曲、無機質なキラアク星人側の楽曲、怪獣側の楽曲の3種類で構成されている。
企画当時、映画館の入場者数はすでに全盛期の4分の1まで落ち込んでおり、子供たちの興味も映画館での怪獣よりも妖怪やスポ根を題材にしたテレビ番組に向き始め、怪獣ブームにも陰りが見え始めていた。これらの要因から、東宝では莫大な製作費を要する怪獣映画を本作品で終了させることを見込んでいたが、前作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』の観客動員数を10万人上回る成績を上げたことにより、東宝の怪獣路線は継続されることとなった。特技監督の有川貞昌は、本多の起用や怪獣の総出演なども最後であることを意図してのことであったと述べている。
当初の仮題は『怪獣総進撃命令』であり、企画段階の仮題は『怪獣忠臣蔵』であった。1967年には関沢新一によって『怪獣総出動』という脚本も書かれており、『ゴジラの息子』と共に製作ラインナップに挙げられていた。特撮助監督を務めた中野昭慶は、本作品について「シネスコならではの企画」と掲げたうえで「シネスコだから歌舞伎の顔見世のようにあれだけ怪獣を並べられた」と語っている。有川は、本作品が最後であるということもあり、「歌舞伎の顔見世のようにそれぞれの怪獣をまんべんなく見せていった」と述べている。
本作品の特技監督は、前作『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967年、福田純監督)に引き続き、有川貞昌が務めた。予算の都合から一部のシーンのみに特撮を注力するかたちとなり、それ以外には過去の作品からの流用映像が用いられ、脚本にもどの映画の何の場面を流用するか指定されていたという。
富士地底の基地で、竪穴から上昇したキラアク円盤がそのまま水平移動して横穴へ飛行しながら進入していくカットがあるが、これは滑車を組み合わせた支点をいくつも使って曲線的な動きを採り入れた、ピアノ線による職人芸ともいえる操演であり、マンダがモノレールに絡みつくシーンと合わせ、有川も会心の特撮と述懐している。撮影では第8ステージのセットに穴を空けており、『宇宙大戦争』で問題になった経験(詳細は宇宙大戦争#特撮を参照)から、守衛にわからないよう隠されていた。
防衛軍のミサイル攻撃のシーンでは、発射台のミサイルの先端からピアノ線をスタジオの上部に取り付けたバネにつなぎ、火薬の点火で固定具が溶けると同時に勢いよく飛び出すよう工夫しており、発射時の白煙がまっすぐ伸びるリアルな映像となっている。一方、ミサイルの発射時と怪獣への着弾時では周囲の風景が異なっているため、場面のつながりがわかりにくくなっている。
怪獣ランドのヘリコプター主観のカットでは、クレーンを使った俯瞰撮影が行われ、効果をあげた。キラアク星人の基地は不燃性素材で作られ、「現実感を」との有川の意向で火炎放射器を使って炎上爆発シーンが撮影されるなど、さまざまな技法が試みられている。有川は、爆発シーンはただ火薬を使うのではなく、崩壊する様子も見せることで、徐々に誘爆していくイメージを表現したと述べている。
美術チーフを務めた井上泰幸による、ムーンライトSY-3号やキラアク円盤、月面基地など、そのシャープな感覚がSFを題材とした本作品のイメージを高めており、有川は井上の美術を「時代劇が現代劇になったような感じ」と評している。
本作品で使用されたモノレールや急行列車のミニチュアは、2014年時点で現存が確認されている。
1972年(昭和47年)の「東宝チャンピオンまつり」冬興行では、『ゴジラ電撃大作戦』と改題されている。上映時間は74分。観客動員数は未発表。
2021年、日本映画専門チャンネルによる4Kデジタルリマスターの際に地方興行用プリントからオリジナルの予告が発見され、それを元にオリジナル予告が復元されている。
同時上映は『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』『パンダコパンダ』。
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