『無罪モラトリアム』(むざいモラトリアム;英題:Muzai Moratorium、Innocence Moratorium)は、1999年2月24日に東芝EMIより発売された日本のシンガーソングライター・椎名林檎の1作目のスタジオ・アルバム。
約1年半チャートインし続けるというロングヒットを記録。最終的には170万枚を超える売上を記録し、ミリオンセラーとなった。
同年1月に発表された先行シングル『ここでキスして。』がスマッシュヒットを記録する中で発売された本作は、その影響を受ける形で約1年半チャートインし続けるというロングヒットを記録。最終的には売上170万枚を超えるミリオンセールスを達成した。
本作は椎名が高校時代からデビュー前までの十代のころに書き溜めていた楽曲で構成されており、楽曲ごとに編成された数種類のバンドによってレコーディングされている。歌謡曲、パンク、グランジ、ジャズなど過去から発売当時までのポップ・ミュージックを折衷した楽曲が並び、そのオルタナティブなサウンドとキャッチーなメロディ、そして文学的かつ刺激的な歌詞により、同年代に限らない幅広い層のリスナーを獲得した。
本作の楽譜は数多くのバンドスコアを出版しているリットーミュージックにおけるロングセラーであり、1999年のリリースから15年以上経過しても一番人気を保っている。
2008年11月25日にデビュー10周年記念の一環として、本作にリマスタリング処理を施して収録したBOXセット『MoRA』と、本作のアナログ盤が発売された。
初回生産盤は特殊ブックレット仕様 で、特典として抽選でVHSビデオ『性的ヒーリング〜特別御奉仕編〜』が貰える応募券が付けられた。
アルバムタイトルには「人として真面目に生きていこうとする以上、社会に適合できないモラトリアムな瞬間はきっと誰にでもあるのだから、自分自身のためにも『それは無罪なんだ』と言いたい」という椎名林檎のメッセージが込められている。タイトルの略称は「無罪」と「モラトリアム」の頭からそれぞれを取り「MM」とされる。
「初めてのアルバムなので昔から歌っていた曲をたくさん入れたい」という椎名の意向もあって11曲の収録曲はすぐに決まり、その結果、「十代の椎名林檎の集大成」のようなアルバムになった。
制作意図としては、歌詞の世界観を表現するというよりも、たとえば音楽をやっているような、聴く人が聴けば「音楽的にはこういう人間だ」とわかるような自分の音楽的な名刺代わりというつもりで作った。自分のやり方を初めて提示するのだからわかりやすいようにあえてデフォルメし、そして自分ひとりで作ったデモとの間に差異が生まれたときは特に気を配って修正をし、音楽的に誤解されないように気をつけたという。
アルバムのジャケットデザインはアートディレクターの木村豊が手掛けた。アルバムのジャケット写真を自分が完全に浮いてしまっている場所で撮りたいと思っていた椎名は、「裁判所などで弁護士が『無罪』や『勝訴』という文字が書かれた幡(ハタ)を関係者たちに囲まれて掲げているところに自分がポツンといたら面白いのでは」というアイデアを出した。するとデザイナーの木村豊がそれにゴーサインを出し、新聞記者や報道カメラマン、警備員などのエキストラが集められた。また幡の題字は椎名本人によるもの。
楽曲制作の準備に入ると、プロデューサー的役割に移行していた当時の東芝EMIの担当制作ディレクター篠木雅博 は、自分の代わりに外部から実績のあるディレクターを招聘することにした。しかし作品にはかなりの手直しが必要だという外部ディレクターと、それを断固として拒否する椎名の意見が激しく衝突した。椎名の詞曲にそれまで出会ったことのないほどの違和感を感じていた篠木も外部ディレクターと同意見だったが、自分が年を取って若い人たちの音楽を受け入れられなくなったのかもしれず、その違和感はひょっとしたら大化けの予兆かもしれないとも思った。そして椎名林檎の個性を生かすには、旧来のディレクション方法は無視して自由にやってもらうしかないと判断し、すべてを椎名とアレンジャーおよびベーシストの亀田誠治2人の作業に委ねた。
当時、椎名はまだ十代で、デビューしたばかりの自分に十分な予算など与えられないことはわかっていたため、レコーディングはシンプルなバンドサウンドで行うことに決めて、メンバーは椎名の意向を受けた亀田によって集められた。その結果、演奏者と楽曲を信じてアレンジを固めずに自由なセッションで曲を作り上げ、「バンド演奏による一発録り」で現場の空気をそのままパッケージ化する形が取られた。
レコーディングではおもに二つのバンドを編成して曲によって使い分けるという手法を使ったが、それはギタリストのキャラクターが異なることで生じるバンドの違いを出したいと思ったためである。またそれまでずっとバンドでやってきたのでバンドサウンドには一番親しみがあるが、サウンド的にも詞的にもそれだけに狭めずに「何でもあり」という感じにしたかったので、自分が必要性を感じればバンドにこだわらずにストリングスなども入れることにした。
平山雄一は「この人はバランスなんて全然考えていない。繊細さと猥雑さがごちゃごちゃに混じっている。現実の中に脳内現実が入り込み、更によく見ようとするものだから、かえって現実が鮮明に浮かび出す。そうした作業が歌の中で行われているため、曲の中でボーカルスタイルが分裂し、曲自体は短いのにとてもヘビーな聴き応えがある」「『茜さす 帰路照らされど・・・』は極端。つぶやいたかと思うと、美しく歌い上げる」「『丸の内サディスティック』はBLANKEY JET CITYの浅井健一の使い方に聴きながら笑い出していた」「インスピレーションに富んだフレーズが次から次へと飛び出す。そしてそれらの言葉は彼女の生き方・愛と音楽と自分と闘いながら過ごした10代の足跡と傷跡を臆することなく並べている。悲壮感・押し付けがましさ・自己陶酔はない。バランスを取ることの不必要さに彼女は気づいている。自分の中のグズなところとスピード好み、内省的なところと好戦的志向、表現者をそのまま同居させて1枚のアルバムに仕上げて見せた。虚言癖すれすれのストーリー性も楽しい。まるで悪霊のごとくずらりとオーバーの吊られた新宿の居酒屋で、間もなく有罪の世代になる女に出くわした気分だ。彼女に言ってやろう。『成人式おめでとう』」と賞賛している。
アナログ盤
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