ビタミンK (Vitamin K) は、脂溶性ビタミンの一種である。ビタミンK依存性タンパク質の活性化に必須であり、動物体内で血液の凝固や組織の石灰化に関わっている。したがって欠乏すると出血傾向となり、また骨粗鬆症や動脈硬化に関連していると考えられている。化学構造上は2-メチル-1,4-ナフトキノンの3位誘導体で、天然にはK1とK2の2種類があり、このうちK2にはイソプレノイド側鎖の長さや修飾が異なる多数の化合物が含まれる。
ビタミンKにはK1からK5の5種類が知られている。天然のビタミンKは2-メチル-1,4-ナフトキノンを基本骨格とし、3位に結合した側鎖の構造に違いがある。
本項では主に動物体内におけるビタミンとしての解説を扱うので、化合物としての性質や動物以外の生物における機能については各項目を参照のこと。
これら一群の化合物は動物体内でビタミンKとして作用するが、全く等価という訳ではない。
ビタミンK1のフィロキノンは、いくつかの組織(精巣、膵臓、血管壁)においてビタミンK2のMK-4に変換される。 いくつかの医薬品がこの変換過程に関わる一部の酵素を阻害することが判明しつつある。
ビタミンKは以下の3つの状態がある。
ビタミンKはガンマグルタミルカルボキシラーゼ(別名ビタミンK依存的カルボキシラーゼ)の補因子である。この酵素はGlaタンパク質と総称される一連のビタミンK依存性タンパク質の翻訳後修飾(カルボキシル化)に関わっており、その働きでGlaタンパク質の特定の位置にγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が生じ機能性が獲得される。Glaはグルタミン酸の4位の炭素がカルボキシル化され、1つの炭素原子に2つのカルボキシル基が結合した構造をしている。これによりカルシウムイオンをキレートすることができ、実際Glaタンパク質はカルシウムイオンの結合により活性化するものが多い。
それ以外に、食事から摂取したビタミンKは生体内でMK-4に転換し、核内受容体(SXR/PXR)と結合しコラーゲン産生に関与していることが知られる。
ビタミンKがGlaタンパク質の成熟に関わるメカニズムは以下の通りである。
これをビタミンKサイクルと呼び、このサイクルが常にビタミンKを再生するのでビタミンKは欠乏しにくい。
Glaタンパク質はヒトの場合16個見付かっており、機能別に挙げると次の通りである。
ガンマグルタミルカルボキシラーゼによりカルボキシル化されるグルタミン酸残基は、Glaドメインと呼ばれる構造中に存在することが多い。
血液凝固に関わる多くの因子がビタミンK依存性タンパク質であり、ビタミンKは正常な血液凝固に必須である。成人では、通常の食事で血液凝固に関してビタミンK不足になることは無いが、新生児、乳児、肝疾患により、出血症が知られる。新生児用の粉ミルクには、ビタミンKを食品添加物として入れてある。また、産科では出生時、出生1週間、一か月健診などの頃合いで、ビタミンKシロップを投与する。
ビタミンKのうちビタミンK2(MK-4)が骨粗鬆症の治療薬として利用されている。骨形成マーカーの1つであるオステオカルシンは、ビタミンKによって活性化され骨代謝を調節する。このオステオカルシンを十分に活性化するためには、血液凝固を維持するために必要なビタミンK量よりも多くのビタミンKを摂取しなければならない。納豆を多く食べる習慣のある地方では、納豆をあまり食べない地方よりも骨折が少ないことが知られており、納豆に含まれるビタミンK2(MK-7)が骨折を予防する因子と考えられる。ビタミンKのうち、MK-4やMK-7などのビタミンK2はオステオカルシンを活性化するだけでなく、骨組織に対して直接的に骨形成を促進し、骨の破壊を抑える効果がある。また、ビタミンK2は、骨のコラーゲン生産を促進し、骨質を改善する点に特徴がある。
研究段階ではあるが、心臓、骨、腎臓、脳、一部のがんやインスリン感受性などとの関連が研究されている。
動脈にカルシウムが沈着する動脈石灰化が動脈硬化症の最も重要な症状の1つとして認識されている。ビタミンK依存性タンパク質の1つであるマトリックスGlaタンパク質(matrix Gla protein)を欠損したノックアウトマウスは、全身の動脈にカルシウムが沈着し死亡する。心臓病とビタミンK摂取量を調べた疫学研究で、ビタミンK2の摂取量が高い群では低い群と比べて動脈石灰化が抑制され、心臓病による死亡率が半分程度であったことが報告された。ビタミンK1摂取と石灰化抑制に関連が認められない一方で、ビタミンK2摂取は摂取量と石灰化抑制に関連が認められるとする報告がある。また、臨床試験においてビタミンK1とビタミンDを3年間投与すると血管の弾力性が維持されることも知られている。
ビタミンKクリームは、挫傷の治療や色素沈着の抑制に使われてきており、血管外の血液の除去を容易にする。ビタミンKとレチノールが含まれるクリームによって、有意に目の周囲の腫れや変色を減らすと考えられている。
「日本人の食事摂取基準 (2010年版)」において、ビタミンK摂取目安量は血液凝固を指標として決められている。
以下は100g当たり
日本の若い女性での摂取状況に関する報告によると、主な摂取源は
となっている。
ビタミンKは、小腸から吸収されカイロミクロンにとりこまれ、リンパを介して肝臓に移行する。肝臓では、アポリポタンパクEリセプターを介してカイロミクロンレムナントから外れる。肝臓に運ばれたビタミンKは、血液凝固に関わる因子を活性化するために利用されるほか、LDLを介して血中を移動し臓器へ運ばれる。最終的には側鎖がω酸化ならびにβ酸化され、グルクロン酸抱合体となって尿から排泄される。 野菜類のビタミンKは吸収されにくく、サプリメントや植物油脂に含まれるビタミンKはよく吸収される。ビタミンKの代謝は、K1、MK-4および側鎖の長いMKで非常に異なっていて、納豆に含まれるMK-7はよく吸収され活性が高く、MK-4は半減期が非常に短い。
ヒトでの研究によると、ビタミンK1は膵臓、肝臓、心臓に比較的多く存在している。ビタミンK2(MK-4)は膵臓、腎臓、脳、肝臓に多い。 MK-4/K1の比でみると、腎臓と脳にはK1の6-7倍のMK-4が存在しておりビタミンK2には未知の機能がまだあるのではないかとする意見もある。
血液中ではLDL、HDL、トリグリセライド(中性脂肪)にビタミンK1が多い。
細胞内ではミトコンドリアに比較的多いとする報告がある。
ビタミンKの作用を抑える薬物のこと。拮抗薬ともアンタゴニストとも言う。 以下は代表的なアンタゴニスト
ビタミンK1(フィトナジオン)の静脈注射では、稀にアナフィラキシー様の反応が起こることが報告されている。
IARCは、ビタミンKを「ヒトに対する発がん性について分類できない」グループ3に指定している。
ビタミンK(K1のフィトナジオン/K3のメナジオン)は、成分本質 (原材料) では医薬品でないものに区分されているので、効果・効能を謳わない限りは、食品扱いとなる。
アルトロバクター属培養液から得られるビタミンK抽出物(ビタミンK2のメナキノン)は、既存添加物に指定されており、食品添加物(強化剤)として使用できる。(その他のビタミンKは指定されていないことに留意)
1929年、デンマーク人のカール・ピーター・ヘンリク・ダムはコレステロールの研究のためニワトリにコレステロール除去食を与える実験を行った。ニワトリは数週間のうちに出血し始めたが、コレステロール除去食に純粋なコレステロールを加えてもこの現象を止めることができなかった。つまりコレステロール以外の何かが一緒に除去されていることになり、それを凝血ビタミン(Koagulationsvitamin)と呼ぶことにした。これがビタミンKの発見である。その構造や性質を明らかにしたのはセントルイス大学のエドワード・アダルバート・ドイジーらで、二人は1943年のノーベル生理学・医学賞を受賞したが、ビタミンKの正確な機能が判明したのは1974年になってからである。
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