『スピード』(原題: Speed)は、1994年のアメリカのアクション・スリラー映画。監督はヤン・デ・ボン、脚本はグレアム・ヨストが務め、キアヌ・リーブス、デニス・ホッパー、サンドラ・ブロック、ジョー・モートン、ジェフ・ダニエルズらが出演する。
1994年6月10日に全米で公開され、批評的、興行的に成功を収めた。3,000万―3,700万ドルの製作費で3億5,040万ドルの興行収入を記録し、アカデミー賞では、音響効果編集と音響賞の2部門を受賞した。1997年6月13日には続編『スピード2』が公開された。
爆弾魔とSWATによる、手に汗握る攻防を描いたノンストップ・アクションで、速度が50マイル毎時(約80km/h)以下になるとバスが爆発するという設定と、次から次へと起こる危機を頭脳的かつゲーム感覚で解決していく展開が繰り広げられる。
それまでの銃撃戦メインのアクション映画とは異なり、犯人との頭脳戦を主軸にして「エレベーター」「バス」「電車」という動く密室を舞台にスピード感を前面に押し出した本作は、世界的な大ヒットを記録した。同作がデビュー作となったヤン・デ・ボンや主演のキアヌ・リーブス、サンドラ・ブロックが一躍有名となった作品でもある。
アメリカ国内で約1億2,000万ドル、全世界で約3億5,000万ドルの興行収入を記録し、『ダイ・ハード』以降低迷が続いていたアクション映画業界に大きな反響をもたらした結果、1995年のアカデミー賞で2部門を受賞するなど世界的な規模で高い評価を受けた。日本でも配給収入45億円を記録した。
本作で、主人公ジャックを演ずるキアヌが着用し、現実のSWAT隊員にも愛用者が多い、カシオ製腕時計「G-SHOCK」のDW-5600シリーズ(劇中の着用モデルはDW-5600C-1V)は、この映画のヒットによって、以降「スピードモデル」の別名でも呼ばれるようになった。
この映画で爆弾を仕掛けられたバスは、ゼネラルモーターズ製ニュールックバスのロサンゼルス・サンタモニカ地区で走るBIG BLUE BUS色である。複数台が用意され、このうち撮影後に保管されていた1台は、2019年11月に幕張メッセで開催された東京コミコン2019にて展示された。
1997年に続編『スピード2』が公開された。ただし、続編にはジャック役のキアヌ・リーブスは出演しておらず、サンドラ・ブロック演じるヒロインとは別れた設定になっており、本作のセリフ「極限状況で始まった恋は長続きしない」が次回作での伏線として利用されている。
ロサンゼルスのオフィスビルにあるエレベーターに爆弾が仕掛けられ、乗客達が閉じ込められる事件が発生。ロサンゼルス市警察SWAT隊員であるジャック・トラヴェンは、上司のハーブ・マクマホン分隊長や同僚のハリー・テンプルたちと共に爆弾を除去し、乗客を救出する。さらに身代金を要求してきた犯人を追い詰めるが、もう一息のところで逃げられる。
逃げた犯人は後日、とある路線バスを爆破してジャックに電話をかけた。その電話はベニス発ダウンタウン行き2525番の路線バスに爆弾を仕掛けたという内容で、ジャックに対応させると同時に身代金を要求する。信管は速度測定系に連動し、バスの速度が一度でも50 mph (80 km/h)を越えると安全装置が解除され、さらに速度がこれを下回ると爆発するという仕掛けがなされていた。
爆破を阻止するために、警察バッジを掲げて標的となったバスに飛び乗ったジャックだったが、不法滞在している乗客の一人が自分を追ってきたと思い込んで発砲し運転手のサムが負傷。彼の代わりに、スピード違反で免停中のためバス通勤していたアニーが運転を任された。
次々とバスに襲い掛かるトラブルに立ち向かう中、誘導された先の高速道路で15メートルほど道路が寸断されている工事区間があることが判明する。最大の危機が迫る中、ジャックは上り坂を利用してジャンプさせることを考えバスを加速させる。道路が途切れる寸前でバスは大きく跳ね上がり、15メートルの隙間を飛び越えることに成功した。その後もバスは走行を続け、ジャックの機転でロサンゼルス国際空港へと向かう。
平行して犯人を調査していたところ、爆弾の一部に使われていた金時計が、警察官の退職記念の金時計と判明し、その手がかりから、犯人が元アトランタ市警察爆発物処理班員のハワード・ペインと断定。ハワードは処理中の爆発事故により左手親指を失う障害を負って退職せざるを得なくなったが「命がけで何十年も働いてきたのに、警察当局は退職記念の金時計と障害年金を寄越しただけで、他に何も補償してくれない」と逆恨みし、警察に挑戦をしていたのだった。ハワードの自宅を突き止めたハリー達が自宅に突入するが、もぬけの殻の状態の中、仕掛けられた爆発物で命を落としてしまう。身元特定につながる金時計をわざわざ爆弾の一部に使ったのは、ハワードが自宅におびき寄せるために仕掛けた罠だった。
ハリーたちの死を知ったジャックはヤケになり、「みんな死ぬ」と漏らすが、アニーに窘められる。冷静を取り戻したとき、アニーが座席にかけていたアリゾナ大学ワイルドキャッツ(アメリカンフットボール部)のカーディガンを目にする。ハワードが、電話連絡のみでアニーのことを「乱暴姉ちゃん(ワイルドキャット)」と再三にわたって呼んでいたことを思い出し、車内の監視カメラを発見する。ジャックはテレビクルーにバスから出ている電波を傍受、録画させ、偽の映像を流す作戦に出る。ハワードが状況を知らずにいる中、人質は続々とランプバスに移され、最後まで残ったジャックとアニーも床面の点検蓋でバスを離れ、乗客全員が無事脱出に成功する。無人となったバスはトーイングトラクターに牽引中のボーイング707型貨物機に激突し、同時にスピードが50mphを下回ったことで、無人の貨物機共々大爆発する。その後、ジャックの元にハワードから身代金の催促の電話がかかってくる。脱出したことを知らないハワードに対し、ジャックとマクマホン分隊長は受け渡し場所に隊員を配置し、罠を仕掛ける。
しかし、ハワードが録画された車内映像に気づいてしまったことで激昂し、警察官に扮装して受け渡し場所近くにいたアニーを連れ去る。異変に気付いたジャックは、現金の投下地点として指示されたゴミ箱に駆け寄るが、ゴミ箱にはハワードによってそのまま地下に中身が取り出せる細工が施されてあった。ジャックが地下に入ると、そこには身体に爆弾を巻き付けられたアニーとハワードがいた。ハワードはアニーを人質に取り、地下鉄の電車を乗っ取って逃走する。
やがて電車の運転士を射殺したハワードは、ジャックが屋根の上にいる事に気づき現金を山分けしようと持ち掛けるが、袋に仕掛けられていたカラーボールが炸裂し、現金は全て使い物にならなくなってしまった。これに激怒したハワードは屋根上のジャックに向けて銃を乱射し、直接屋根に登ってジャックと格闘するが、トンネル内の信号機に頭を打ち付け首を切断され、電車から転落して果てた。
アニーのもとに辿り着いたジャックは起爆装置を解除するが、列車無線を通じて呼びかけるマクマホン分隊長の声で電車が工事区間へ向かっていることを知る。ジャックは電車を止めようとするが、ハワードが運転士を射殺した際に流れ弾で無線機も運転台も破壊されていたため、応答して救援を求めることはおろか、停止させることも不可能となっていた。ジャックはこの先に曲線があることに気づき、速度を上げて電車を脱線させ停止させようと考える。
工事区間に突入した電車は脱線して地上に飛び出し、横転しながら道路を滑走して停止する。群衆が大惨事に驚き車両の周りに集まってくる中、ジャックはアニーと抱き合う。
脚本のグレアム・ヨストは、彼の父親のカナダのテレビ司会者エルウィ・ヨストから、ジョン・ヴォイト主演の映画『暴走機関車』(1985年)について話を聞いた。このテーマは、1975年の日本映画『新幹線大爆破』で使用されていた。なお、終盤のシーンは1976年の映画『大陸横断超特急』に触発された。映画『暴走機関車』の原案者である黒澤明が書いたオリジナル脚本を読んで思いついたとDVD(アルティメット・エディション)の音声解説で述懐している。これは彼の父が『暴走機関車』の映画化に関係していたために、話を聞いたことがあり、図書館でその脚本を見つけ出して読んだのがきっかけとなった模様。
またこの作品は低予算映画で無駄のない撮影を行ったため、未公開シーンが少なく撮影した映像はほぼ全て本編で使用されている。
レニー・ハーリンやクエンティン・タランティーノにも本作の監督オファーが掛かっていた。また、映画監督のマイケル・ベイは本作の監督をやりたかったと語っている。実際には20世紀フォックスは長編映画の製作経験を積んでいる人物を必要としていたためベイを断ったが、ベイは後にもデビュー作を『バッドボーイズ』ではなく『スピード』にしたかったと語っている。
ジャック・トラヴェン役にはスティーヴン・ボールドウィン、トム・クルーズ、ランディ・クエイド、トム・ハンクス、ウェズリー・スナイプス、ウディ・ハレルソンなどのキャスティングも予定されていた。スティーブン・ボールドウィンは、ジャックのキャラクター像が「ダイ・ハード」のジョン・マクレーンに似すぎていると感じたためオファーを断った。また、ランディ・クエイドはのちに「フラッド」で悪役を演じた。ヤン・デ・ボンは、キアヌ・リーブスを「ハートブルー」で見た後、最終的にジャック・トラヴェン役にキャスティングした。デ・ボンは、キアヌ・リーブスについて「彼は大きすぎないため男性を脅かすことがなく、女性にとっては素晴らしく見える」と述べた。リーブスは「ハートブルー」以前にLAPDに関わっており、そのときに彼らの人間生活について学んだことで、その経験をトラヴェンに組み込んだ。
アニー役にはハル・ベリーの名前が挙がっており、製作のマーク・ゴードンはエレン・デジェネレスを推していた。メリル・ストリープとキム・ベイシンガーにもオファーが掛かっていた。
当初はハワード・ペインとは別に真犯人が存在するという設定で、その真犯人役はエド・ハリスにオファーを掛けていた。
監督のデ・ボンはグレアムによる最初の脚本のジャック・トラヴェンは好きではなく、「冗談のようなシチュエーション設定と、ダイ・ハードといくつかのコメディを混ぜ合わせた感じだった」と語った。ヤン・デ・ボンは、撮影開始前にジョス・ウェドンを呼び、脚本を書きなおさせた。ウェドンによってジャック・トラヴェンは、「一匹狼のやり手」から「死者を出さないようにする男」に変えられ、登場人物の軽薄な会話を削除し内容がある会話を追加した。ウェドンはさらに、登場人物のダグ・スティーヴンスを弁護士から旅行者に変更した。ウェドンは主に会話部分を担当していたが、ハリー・テンプルが殺されるなど重要なプロットも少し手を入れている。リーブスはジャック・トラヴェンを演じるため、2ヶ月間ロサンゼルスのゴールドジムで鍛えた。
エレベータに爆弾が仕掛けられるという設定は、監督のヤン・デ・ボンが「ダイ・ハード」の撮影中に、20世紀フォックスのフォックス・プラザのエレベーターが故障し閉じ込められたという出来事から着想を得た。
グレアムの当初の脚本では、エレベーターのシーンはなくバスのシーンから始まっていた。グレアムは書き終えた脚本をパラマウント・ピクチャーズに持ち込み、「プレデター」「ダイ・ハード」「レッド・オクトーバーを追え!」を担当していたジョン・マクティアナンに監督を依頼したが、マクティアナンはプロットが「ダイ・ハード」に似すぎていると難色を示した。そこで撮影監督の経験があったヤン・デ・ボンに頼み、デ・ボンとグレアムは脚本を20世紀フォックスに持ち込んだ。フォックスはバス以外のシーンを入れることを条件に企画を進めた。グレアムは「暴走機関車」を見た後、グレアム・ヨストは20マイル以下になると爆発する爆弾がついたバスにすると面白いのではないかと思いつき、その後彼の友人からの提案で50マイル以下に変更した。脚本はジョス・ウェドンによって書き直され、 ヨストは「劇中の会話の98.9%はジョス・ウェドンが書いたものだ。僕は会話を彼のように書けなかった」と語っている。
主要撮影は1993年9月7日にロサンゼルスで始まり、12月23日に終了した。デ・ボンはオープニングクレジットで、エレベーターシャフトの80フィートモデルを使用し撮影した。本作の製作期間中に、リーブスの親友だったリヴァー・フェニックスが死去し、デ・ボンはリーブスの撮影スケジュールを変更して、彼を休養させた。高速道路シーンの多くは、当時工事中だったカリフォルニア州のインターステイト105とインターステイト110で撮影された。そこを調査中、デ・ボンはまだ道路がかかっていない大きな空間に気づき、そのことをグレアムに話してバスジャンプシーンが脚本に追加された。
本作の予告編に使用されているBGMは、『ブラック・レイン』(1989年)のサウンドトラックを使用している。なお、本作の監督ヤン・デ・ボンは、『ブラック・レイン』で撮影を担当していた。
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