『名探偵コナン 銀翼の奇術師』(めいたんていコナン ぎんよくのマジシャン)は、2004年4月17日に公開された劇場版『名探偵コナン』シリーズの第8作目にあたる劇場版アニメである。上映時間は108分。興行収入は28億円。キャッチコピーは「運命だったのさ、俺たちの出逢いはな…」「これが、運命なのか…」。
本作からこだま兼嗣に代わって山本泰一郎が監督を引き継いでいる。
主人公・江戸川コナンのライバル・怪盗キッドがメインキャラクターとして、第3作『世紀末の魔術師』以来2作目の登場となる。キッドがコナンの正体(工藤新一)に気づいている設定は『世紀末の魔術師』で作られたが、本作でも再びその設定が採用され、以降の劇場版でも引き継がれている。
警察関係者では、警視庁捜査二課に所属するキッド専門の刑事・中森警部が主に登場する(『世紀末の魔術師』では前半に登場)。そのため、いつもはコナンたちに協力してくれる目暮警部ら捜査一課の登場は終盤だけになっており(目暮・白鳥警部・高木刑事の3人で北海道に出張していた)、佐藤刑事・千葉刑事ら他のメンバーは登場しない。エピローグではワンシーンだけだが、原作・アニメ「上野発北斗星3号」で捜査を担当していた北海道警の西村警部と田村刑事が登場している。また、変装をしているがキッドがエピローグに登場した最初の作品である。
「魔術師」と「奇術師」は意味も語呂も似た言葉であるが、本作では「奇術師」の振り仮名を英語読みの「マジシャン」にしている。
オープニングCGに登場するキッドは、テレビシリーズの第219話「集められた名探偵!工藤新一vs怪盗キッド」(2001年1月8日放送)で東都タワーにいるキッドの映像がそのまま使用されている。また、オープニング映像でカメラのフラッシュがたかれている際の新一の顔が前作までは口が開いていたが、本作以降は閉じている。オープニングで紹介されるキャストは一部変更され、目暮役の茶風林に代わり灰原役の林原めぐみが紹介された他、山口勝平は新一ではなくキッドとしてのクレジットになっている。
本作では、第4作『瞳の中の暗殺者』とは逆に蘭が新一に対して思いを打ち明けるという試みが行われている。蘭が告白していたときに聞かれていた相手は新一に変装したキッドだと勘違いされ、蘭の中では無かったことになっている。
本作では毛利小五郎を狙った麻酔針が誤って妃英理に当たってしまい、コナンはやむなく英理を探偵役にしている。英理が探偵役になったのは、現時点で原作・アニメを通して本作のみである。また、英理が劇場版に登場するのは『瞳の中の暗殺者』以来となった。
本作のダジャレクイズは阿笠博士ではなくキッド(新一に変装)が出題しているが、彼がコナン以外のレギュラーと本格的に交流したのは本作が初である。
本作の女性オリジナルキャラクター(容疑者)は3名と今までの作品で最も多く、初めて日本人女性が犯人になった。
本作では汐留が舞台の一つであり、ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線が実名で登場している(本作が公開された2004年は日本テレビが社屋を汐留へ移転した年である)。
本作の挿入歌は、前年まで定番となっていた「キミがいれば」ではなく、「ぼくがいる〜コナンのテーマ〜」が使用された。
映画シリーズでは初めて本編終了後に「この作品はフィクションです」というテロップが流された。これは、実在する路線や駅名が実名で登場したことに加え、航空機のコックピットに一般人が立ち入る、その機長と副操縦士が飛行中に同じものを飲食するなど、現実とはかけ離れた描写があったためである。第17作『絶海の探偵』でも同様のテロップが流されている。
前作に引き続き、劇場版シリーズの定番となるエンディング後の次回作の予告は、今作でも放映された。エピローグ終了後に、海の映像が映し出されるとともに、船の警笛が流れ、2005年の製作が決定した旨の字幕による予告が流れた。のちに次回作は、海上を走る船を舞台に殺人事件が起きるという内容の『水平線上の陰謀』であることが発表された。
毛利小五郎は、「Romeo Juliet Victor Bravo!」 と書かれた怪盗キッドの予告状についての相談を、舞台女優の牧樹里から受ける。狙いは「運命の宝石」というスターサファイアで、小五郎はこれを牧の出演する舞台『ジョゼフィーヌ』の終幕の場面で、キッドがナポレオン役の人物に扮して実行するものだと推理し、牧の要望もあって江戸川コナンたちとともに劇場に赴く。コナンたちは劇場で中森警部と会い、助っ人として工藤新一が来ていることを知る。この新一はキッドの変装であるが、彼は素顔そのものが新一と似ていたことから、変装ではないと見なされていた。舞台の終盤、キッドが抜け出すのを見たコナンは後を追い、規定より長い警棒を持っていた警備員に変装していたキッドを見破ると、ハンググライダーで逃走する彼をパラグライダーを利用して追跡するが、取り逃してしまう。
翌日、宝石を守った礼としてコナンたちは函館にある樹里の別荘で行われる打ち上げに招待され、俳優の成沢文二郎、田島天子、俳優で演出家の伴亨、樹里のマネージャーの矢口真佐代、樹里のヘアメイクの酒井なつきと、体調不良で欠席するはずだった俳優の新庄功とともに、羽田発函館行きのスカイジャパン航空865便(ボーイング747-400D)に搭乗する。昨日のキッドの様子を訝しんでいたコナンは、キッドの暗号が実際にはフォネティックコードを表しており、この機内での犯行を予告したものであると気付くが、その直後に矢口のチョコレートを食べた樹里が青酸中毒で死亡する。機内で樹里が口にしたのは矢口のチョコの他には気分が悪くなった際に田島から貰ったビタミン剤のみで、同じくチョコを食べた小五郎に異常はなかった。真相を見抜いたコナンは妃英理を探偵役として、推理を披露する。
犯人はなつきであり、彼女は樹里が機内で毎回鼻を摘んで耳抜きを行うことを知っていたため、毒を混ぜたファンデーションを鼻に塗ってそこから指へ毒を移し、チョコの付着した指を舐めることで毒を口に入れさせていた。樹里がチョコを食べる前に気分が悪くなっていたのは、ファンデーションの毒が皮膚を通じて体内に吸収されていたためであった。なつきは犯行動機を、牧にハリウッドでの仕事を潰されたうえ、彼女がそうした理由がなつきをメイクとして必要としたためではなく、付き人として置いておきたかったに過ぎなかったことから、メイクとしてのプライドによって及んだものであると主張する。しかし、小五郎から仕事道具を凶器として使う者にプライドを語る資格はないと叱責されたうえ、阿笠博士から罪を償ってやり直すよう諭されたなつきは、泣き崩れる。
殺人事件は解決したが、樹里は以前同僚だった機長と副操縦士のいるコックピットへ挨拶に行った際に自分の手の甲にキスをさせており、そこから毒入りファウンデーションが口に移った彼らも中度の青酸中毒に陥ってしまっていた。命に別状はなかったものの2人とも操縦できる状態ではないことから、操縦の経験があるという新庄が操縦の代行を買って出て、助手としてコナンを指名する。2人きりのコックピットで、コナンは新庄がキッドの変装であることを指摘する。本物の新庄は余興でキッドに扮して先に別荘へ到着しており、キッドは牧の手に口づけをした際、本来口に含むと冷たいスターサファイアが偽物であることをすでに知っていた。コナンとキッドは管制塔との連絡を経て函館空港への着陸を試みるが、落雷でオートパイロットが故障して中止を余儀なくされたうえ、強風で機体がバランスを崩し、何とか立て直すものの管制塔にエンジンが1基接触して脱落して地上に落下、爆発して地上支援車両群を爆風で吹き飛ばしてしまう。更には爆風で弾き飛ばされた車両で給油車が爆発し、しまいにはそれから給油を受けていた旅客機も爆発するという大惨事となり、滑走路が使用不能となってしまう。
滑走路の状態が整うまで上空での待機はできたはずだったが、機長たちを運び出す際のトラブルでクロスフィードバルブが開いていた結果、燃料がエンジンの脱落跡から大量に漏れていた。そのため機体にはあと10分間程度飛行できるだけの燃料しか残されておらず、無線も不通になってしまう。コナンは別の着陸先として室蘭の崎守埠頭に向かうが、キッドは強風の際に片腕を強打して着陸の操作ができなくなっていたことから、毛利蘭を代役に指名したうえ、埠頭の周辺に夜間の着陸に必要な照明がないのを確認すると、機外へ脱出してしまう。
コナンは不安げな様子の蘭を見てコックピット外へ出ると、新一の声で励ましの電話をかけるが、蘭は新一の真意を質して自身の好意を伝える。コナンが虚を突かれて答えあぐねている中、蘭は地上を動いていく光の帯を発見する。これはキッドがパトカーの赤色灯を照明として用いるためにおびきよせたものであり、蘭は新一による指示のもとで鈴木園子と協力して着陸に成功する。
着陸後、救急隊員に扮したキッドから話しかけられた蘭は、機内で通話した新一がキッドの変装だったと解釈し、告白は不成立だったと考えて胸を撫で下ろすのだった。
本作は劇場版名探偵コナンシリーズとしては最後のVHSビデオ版発売作品となった。
『名探偵コナン コナンとキッドとクリスタル・マザー』は、2004年のOVA作品。少年サンデー読者サービスビデオ第4弾。
原作は『まじっく快斗』第4巻に掲載された「クリスタル・マザー」で、コナンと蘭が登場するオリジナルストーリーとなっている。また、エピローグシーンは『銀翼の奇術師』に繋がるように描かれている。のちにこの話は2度リメイクされた。
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