第44回衆議院議員総選挙(だい44かいしゅうぎいんぎいんそうせんきょ)は、2005年(平成17年)9月11日に日本で行われた国会(衆議院)議員の総選挙である。
今日では郵政選挙と言われている選挙で、与党の自由民主党・公明党が圧勝した。時の首相(自民党総裁)小泉純一郎は、郵政民営化法案が参議院で否決されれば、自分は衆議院を解散して国民の信を問うと明言していたが、その言葉通り、参議院での郵政民営化法案否決を受けて小泉は衆議院を解散した(郵政解散)。
自民党は郵政民営化法案に反対票を投じた議員の選挙区に「刺客」と呼ばれる候補を送り、大半の議員が落選した(この手法により当選した議員を俗に「小泉チルドレン」と言う)。これにより、自公両党は合わせて衆参で過半数を制することとなり、2007年(平成19年)の第21回参議院議員通常選挙までこの状態は続いた。
民主党は代表の岡田克也が、三重県初の首相を狙って選挙に臨んだが、結党以来最大の大敗となり、岡田は代表の即日辞任を表明。また国政選挙で1996年(平成8年)に小選挙区比例代表並立制が導入されて以降、全ての小選挙区で候補者を擁立してきた日本共産党は準備不足のため候補者の擁立が間に合わず、25の選挙区で擁立を見送る「共産空白区」という現象が生じた。
第49回総選挙後の2022年(令和4年)1月現在、非自民系の野党第一党が選挙直後に100議席以上を確保した最後の総選挙である。
2022年現在、大正生まれの議員が選出された最後の総選挙である。日本最後の一覧を参照。
小泉首相が政治生命をかけた郵政民営化法案は、与党・自民党の了承なしの閣議決定(2004年)、党総務会(党の常設最高意思決定機関)の採決方法を慣例の全員一致から、直前に多数決に変更した上での決定、「郵政民営化に関する特別委員会」の採決で反対派委員の賛成派議員差し替えなどの経過を経て、衆議院本会議では5票差で可決(賛成233・反対228・欠席棄権14・病欠2)されたが、2005年8月8日参議院本会議では否決(賛成108・反対125・欠席棄権8)されたため、即日、日本国憲法第7条3号に基づいて衆議院が解散された。
小泉は解散により自民党の躍進を予想していたが、党内には分裂選挙による大敗を予想する意見も根強かったことから、国事行為(衆議院解散)に関する閣議決定文書への署名を拒否する閣僚が出た。臨時閣議は中断を挟みながら、2時間超に及んだ。
反対閣僚のうち、総務大臣麻生太郎と行政改革担当大臣村上誠一郎は最終的に小泉の説得に応じて署名したものの、農林水産大臣島村宜伸は最後まで署名を拒んだため、小泉は島村を罷免した上で自ら農水相を兼務(8月11日まで。後任は岩永峯一)という形式で閣議決定文書を完成させ、解散に踏み切った。また、この閣議で参議院本会議で郵政民営化法案に反対票を投じた防衛大臣政務官柏村武昭も罷免された。
小泉は、同日夜、解散直後の記者会見で、「今回の解散は『郵政解散』だ。(郵政民営化に)賛成してくれるのか反対するのか、はっきり国民に問いたい」と述べ、郵政民営化を地動説になぞらえ、ガリレオ・ガリレイの創作された寓話の台詞「それでも地球は動く」を引用して民営化の正当性を主張した上で、自民・公明の両党の公認候補が過半数を獲得できなかったら退陣すると明言した。
また、恒例となっている解散のネーミングは、総選挙実施日がアメリカ同時多発テロ事件(2001年)が起きた9月11日であることなどから自爆テロ解散、自民党が分裂選挙で大敗するとの予想からやけっぱち解散などとも揶揄されたが、選挙後は郵政解散が定着した。
解散後、自民党執行部は郵政民営化法案に反対した37人の議員を公認候補者としないことを発表し、矢継ぎ早に対立候補を送り込んでいった。解散当初は分裂選挙による自民党の敗北が予想されており、この対立候補も造反議員を落とすためだけの候補者、つまり、「刺客」であると非難された(女性についてはくのいち候補とも呼ばれた)。一部の刺客候補は自民党比例代表名簿上位に記載されていた。
一方で、郵政民営化法案の採決を棄権した議員は、引退表明をした議員を除き、選挙後に再度提出される郵政民営化法案への賛成を誓約書として執行部に提出することで、全員が公認を得た。
郵政民営化法案に反対した議員は党の公認を得られなくなったことから、「新党結成して立候補」、「自民党地方組織の応援を受けあくまで自民党党員として立候補」、「自民党を離党して無所属で立候補」、「立候補断念」という選択を迫られた。自民党の地方組織は東京都連のように党公認候補の支援を決めたところもあったが、岐阜県連のように反対票を投じた候補を独自に公認し、中央と地方のねじれ現象が発生する選挙区もあった。
ちなみに、自民党が公式に「刺客」と称して対立候補を立てるといったことは一切していない。一連の自民党の行動を亀井静香が「刺客」と評し、他党やマスメディアもそれにならったことによる。
しかし、刺客の一人である小池百合子を「自民党の上戸彩(映画で女刺客「あずみ」役を務めた)だからな」と呼んだ村上誠一郎など、ある時期までは自民党の関係者も「刺客」を肯定していた。
ところが、8月28日、自民党は公式に「刺客」を使わないようマスコミ各社に申し入れた。
こうした状況下で、郵政民営化法案に反対票を投じ、自民党の公認を得られなかった衆議院議員は、元衆議院議長綿貫民輔、元建設大臣亀井静香らが綿貫を代表に「国民新党」を、元財務副大臣小林興起、荒井広幸らは長野県知事田中康夫を代表に迎え、「新党日本」を結党した。
この新党日本は結党時は国会議員が4人であったため、公職選挙法上の政党として認められる国会議員5人以上ではなかったことから、国民新党の参議院議員長谷川憲正を名簿上移籍させることで政党として認められたが、このことで、新党結成は理念や政策の一致によるものではなく、政党としての権利を得るためだけの数合わせで、選挙互助会に過ぎないと批判を浴びることとなった。
また、復活を目指す元北海道開発庁長官鈴木宗男も北海道で政治団体「新党大地」を結成した。
国民新党、新党日本、新党大地の3党は比例ブロックでそれぞれ棲み分けが行われており、比例区では四国を除いて自民系反郵政民営化票の受け皿となる土壌ができた。
総務省と明るい選挙推進協会は公示日の8月30日から「日本の行き先を決めるのは、あなたです。」をキャッチフレーズに、サッカー選手の川口能活と女優の加藤あいを投票率が低い20代から30代前半に向けた投票喚起イメージキャラクターとして起用。新聞、ラジオ、TV、インターネット等の各広告媒体に出稿し、選挙期間中の選挙啓発を行った。
第一生命経済研究所は、今回の総選挙による経済波及効果は2000億円を超える試算した結果を公表した。
『朝日新聞』編集委員の星浩は、本来、社会保障、税制改革、外交、安全保障、小泉がずっと続けてきた靖国神社の参拝問題といった争点が山ほどありながら、郵政民営化に単一化されてしまったと指摘している。
投票率は小選挙区が67.51%(前回衆院選59.86%)、比例代表が67.46%(同59.81%)と上昇した。また、期日前投票も8,962,955人(有権者のうち8.67%)と上昇した。
開票結果は与党が327議席(自民党が296議席・公明党が31議席)と圧倒的勝利を収めた。比例区の東京ブロック・南関東ブロック・近畿ブロック・四国ブロックでは自民党重複候補の多くが小選挙区で当選し、比例名簿の下位順位の候補が議席が配分され、比例下位順位の当選者が13人も存在した。これは1996年衆院選の北関東ブロックで比例下位順位登載者が3人当選して以来である。特に比例東京ブロック(定数17)において、ドント方式による分配では自民党に8人目の当選枠が割り当てられるはずだったが、すでに名簿登載者全員が当選していたため、公職選挙法の規定により自民党分の議席は(仮に18人目の議席があれば配分される予定であった)社民党に配分され保坂展人が当選するという、日本の比例代表制で初めての事態が発生した。
この選挙によって自民党には多くの新人議員が誕生したが、当選した自民党新人議員達は社民党の「土井チルドレン」を真似て「小泉チルドレン」と呼ばれた(このように、ブームに乗って当選した候補を「コートテール」と呼ぶ)。
注目の候補として堀江貴文(ライブドア元社長)は広島6区から無所属で立候補したが、実質的には自民党候補として応援を受ける形で選挙戦に臨んだ。結果は郵政法案に反対して国民新党を結成した亀井静香と戦い落選したが、選挙中は観光客にサインするなど多くの話題を振り撒いた。また、辻演説中に対立候補の亀井本人が「応援のため」駆けつけるという(ただし、華やかなものではなく、お互い声を嗄らしてエールを送り合うというものだった)、選挙では珍しいシーンがみられた。ライブドアのニュースサイトでは公職選挙法に抵触するのを避けるため、選挙関連のニュースの掲載を自粛した。
一方、野党は、民主党が113議席と選挙前の177議席から大幅に議席を減らす大敗を喫した。党幹部では代表代行の藤井裕久(後に比例繰り上げ当選)、副代表の石井一、米沢隆に加え、鹿野道彦・中野寛成などといった当選を続けてきたベテラン議員も落選するなど軒並み苦戦を強いられた。代表の岡田克也は大敗の引責により辞任し、後任には民主党内でも最右派といわれる前原誠司が就任した。この選挙では当選したが、2012年の第46回衆議院議員総選挙で落選した民主党候補も多い(松本龍・鉢呂吉雄・田中眞紀子など)。
郵政民営化反対を旗印に結党された国民新党・新党日本は選挙協力を行ったが、それぞれ明暗が分かれた。地方を地盤とする国民新党は幹事長の亀井久興が比例復活となり津島恭一が議席を失ったものの、代表の綿貫民輔の地盤の富山県が含まれる比例北陸信越ブロックで議席を獲得するなど公示前勢力の4議席を維持した。一方、都市部中心の新党日本の獲得議席は小選挙区で議席を獲得できず、比例近畿ブロックで滝実が比例復活で獲得した1議席に留まり、代表代行の小林興起や副代表の青山丘が議席を失い、公示前から2議席減らした。なお、国民新党は所属国会議員が参議院議員の田村秀昭も含めて5人となったため、新党日本は比例選での得票合計が約164万票で比例全ブロックの有効投票総数の2%を超えたため、いずれも政党助成法が定める政党要件を満たし「政党」として存続できることになった。
郵政造反組で前出の国民新党・新党日本に加わらなかった自民非公認の無所属議員は14人が当選したが、公示前より半減させている。多くが自民党公認のいわゆる「刺客候補」を擁立されたが、非公認組の傾向として前出の2政党と同様に地方の選挙区では比較的強く、平沼赳夫、堀内光雄、保利耕輔、野呂田芳成、野田聖子などといったベテランを中心に議席を確保したが、逆に都市部での落選が目立った。
共産党は公示前議席を確保、社民党は選挙前に副党首だった横光克彦などが民主党に移籍した事なども苦戦も予想されたが、公示前を2議席上回った。ただし前党首の土井たか子は比例近畿ブロックの単独立候補に回ったこともあり、落選している。
郵政問題に絡む自民党からの離党者などを除く無所属議員は3名(江田憲司・田中眞紀子・徳田毅)となり、死票を増やすデメリットと引き換えに安定政権を創出しやすい(わずかな世論の変化が大きな議席数変動をうながす)小選挙区制度の功罪が改めて浮き彫りとなった。
女性当選者数は43人に上り、これまでの記録だった1946年(昭和21年)の39人を59年ぶりに更新した。
収賄罪などで公判中の鈴木宗男、収賄罪で実刑が確定し刑期を終えた元建設大臣の中村喜四郎、詐欺で有罪となった元社民党政策審議会長の辻元清美、暴力団の秘書給与肩代わり問題などで前回衆議院選挙で落選した松浪健四郎らが当選するなど「みそぎの選挙」が多く見られた。
自民党 民主党 公明党 国民新党 社民党 無所属
自民党 民主党 公明党 共産党 社民党 国民新党 新党日本 新党大地
衆議院で過半数を獲得したことにより郵政民営化は国民の信任を得たとして、解散前の審議で反対した議員のほとんどが郵政民営化に賛成に回ったため、第163回国会(特別国会)で10月14日に郵政関連法案が可決・成立された。
自民・公明両党で衆議院の3分の2以上の議席を獲得した結果、衆議院を通過し、参議院で否決(みなし否決を含む)又は修正議決された法律案について、当初の衆議院可決案を法律として成立させることができるようになった。本選挙による任期中は12回の再議決が行使され、17の法律が成立した。なお、懲罰の対象となった議員の除名、本会議における秘密会の開会も可能となったが、本選挙による任期中は行使されなかった。
千葉7区から立候補し当選した自民党の松本和巳は、出納責任者が買収により有罪となったことを受け、連座制の対象となる可能性が高いことから翌2006年(平成18年)1月に辞職した。同年4月23日に行われた補欠選挙では民主党の太田和美が当選した。
また、選挙違反ではないが、愛知7区から出馬し落選した元民主党衆議院議員の小林憲司が、選挙から一週間後の9月18日に、私設秘書2名と共に議員時代から覚醒剤を利用し所持していたとして覚醒剤取締法違反で逮捕され、その日に民主党から除名された。ちなみに、民主党の選挙時のマニフェストでは覚醒剤の撲滅を記載していた。
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